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2-8 アーロン村

 うずくまるセラフィナと、それを見守るヴァルトの耳に、喧嘩の声が聞こえてくる。

 炭鉱前で殺し合っていた人たちかもしれない。セラフィナはカティアの遺体をヴァルトに託し、入り口へと向かった。


 「ちょっと!あんたたち、いい加減にしなさいよね!」


 「あぁ?だれだこの女どっから……って、お前……セラフィナちゃんか?」


 「そーよ!この可愛い顔を忘れたとは言わせないわよ」


 「ど、どうしたんだ急にこんなところに」


  「それは後で話すわ、まず……」


 カティアを抱えたヴァルトがずい、と前に出る。


 「カティアちゃん!?いったいどうしたってんだ!!」


 守銭奴の大声に、どんどん人が集まってくる。本当は広場に全員を集めようと思っていたのだが、手間が省けた。

 セラフィナはそのまま、皆の方を向くと事の顛末を説明し始めた。


 カティアのセラフィナへの怨みが呪いへと変わり、この村を覆い尽くしていたこと。

 呪いへと変貌したカティアはもう助けられず、やむを得ず殺したこと。

 そして、呪いがこの村から消えて、村が救われたこと。


 全てを話し終わると、村は静かになった。

 誰もが、信じられない、という顔をしている。けれど、いつも井戸端会議をしていたおばさん達は違った。


 「カティアちゃんねぇ、昔からセラフィナちゃんのことすごい目で見てたものね」


 「いつかなんかやると思ったのよ、まったく、迷惑な話だわ!」


 耳を疑った。この状況でそんなことを言うやつがいるのか。セラフィナは怒りでわなわなと震えている。どんな思いでカティアを殺したのか、こいつらには伝わっていないのだ。セラフィナが声を上げようとした、そのとき。


 「おい!なんてこと言うんだ、セラフィナちゃんのことも考えろよ!」


 炭鉱の男が声を張り上げた。それに同調するように、周りもセラフィナをフォローし始める。


 「そうよ、二人はずっと友達だったのよ。才能への嫉妬は確かにあったかもしれないけど……」


 いつも朝イチにパンを焼く夫婦だ。懐かしい、覚えている。カティアの家のお隣さんだ。


 「あんたたち、セラフィナの涙の跡が見えないのかね?」


 魔法婆さん、まだ生きてたんだ。あたしが出ていったあとも、カティアに魔法を教えてくれてありがとう。


 二人の援護射撃で、すっかりおばさんたちは黙ってしまった。謝ることはしなかったが、気まずそうにそそくさと家へと帰っていった。


 「みんな、わかってくれてありがとう」

 

 「いいんだよ、それよりカティアちゃんの墓を作らねぇとな」


 そう言うと炭鉱で働く男たちは墓を作りに村の外へと出ていった。その中の一人が泣いていた気がする。そういうことだろうか。

 男衆が墓を作ってくれている間に、こちらの用事も済ませよう。


 「あたしたちがこの村に来た理由なんだけどね、杖が壊れちゃったから鉱石を探しに来たの。ルメルハインに卸している特殊な鉱石ってここで採れるんでしょう?」


 「あぁ!エルディア鉱か、それなら炭鉱の奥にあるはずだ。好きなだけ持っていけ」


 「好きなだけ持っていったらあんたたち生活できなくなるでしょ!使う分だけ持っていくわよ。誰か、案内して〜って、炭鉱の人たちはみんないないのか」


 「見りゃすぐにわかる。紫色をしたきれいな鉱石だ」


 「わかったわ。ヴァルト、炭鉱の人たちがいったのは村の北はずれよ。気配はもう覚えてるでしょ?」


 「ああ、近くまで行けばわかるだろう」


 「カティアのこと、よろしくね」


 ヴァルトは無言で頷くと、村の北への向かって歩き出した。戦闘のあとで疲れているだろうに、全く文句も言わずに手伝ってくれている。やはり優しいやつだ。

 セラフィナは皆と解散すると、一人、炭鉱の奥へと向かう。

 紫の鉱石、それはきっと⸺。


 「あった、やっぱりこれよね」


 それは、カティアが飛ばしてきた鉱石だ。

 セラフィナは鉱石を両手で抱えた。冷たいはずなのに、胸の奥にじんわりと染み込んでくる温もりがある。


 「……カティア」


 呟いた声は鉱石に吸い込まれ、淡い光がひときわ瞬いた。

 それは呪いの残り火ではない。ただの、透明な魔力の輝きだった。


 セラフィナは空間収納にいくつか鉱石をしまうと、外へ出た。そろそろ墓も出来上がり、ヴァルトたちが帰ってくるだろう。


 「おお、セラフィナ。戻ってきたかい。今日は泊まっていくだろう?」


 「いえ、このままルメルハインに戻るわ」


 「そうかい?もう夕方だけれど……」


「大丈夫よ」


 心配する村民を冷たく、ではないが、言葉少なにセラフィナは躱していく。

 ここに長居は出来ない。覚悟が鈍ってしまう。親友を殺した、その事実はセラフィナに重くのしかかっている。

 それに、まだ呪いの謎は解けていない。色々とやることがある。


 カティアの葬儀は簡潔だった。皆手早く祈りを捧げ、花を添えて、それだけ。炭鉱の男だけが、長く、涙を流しながら祈っていた。セラフィナの胸の奥がちくりと痛むが、これが現実なのだと、そう思うことにした。


 「ヴァルト〜!」


 「大声で叫ぶな、聞こえている」


 「帰るわよ!」


 「……もういいのか」


 「いいのよ、ルメルハインに戻りましょ。杖を直してもらわないと、それが目的だし」


 ヴァルトはちらりとセラフィナを見る。ヴァルトの目には無理をしているように見えたが、何も言わずに馬車の御者台に乗った。


 「セラフィナちゃん、またいつでも帰ってくるんだよ」


 「魔法の鍛錬は怠るでないぞ」


 村の人は総出で送り出してくれた。

 皆助かったことに喜び、手を振っている。


 「ええ、また来るわ」


 「ではな」


 ガタガタと揺れる馬車に二人、その空気は重かった。珍しく、ヴァルトも気まずそうにしている。馬車の揺れに合わせて、カティアの笑い声が蘇る。

 セラフィナは悔しそうに唇を噛んだ。


 「仕方がなかったと、思うしかあるまい」


 「そうね。あたしじゃどうにもならなかったわ。ミリエルなら、もしかしたら」


 「今いないやつの話をしても仕方ない。俺達が出来ることをやるしかないんだ」


 「わかってるわ」


 馬車はガラガラと音を立て、ルメルハインへと向かっている。杖が直せるというのに、セラフィナの心は喜んではいなかった。

 天気は晴れだが、心は土砂降り。

 けれど、もう涙は流れていない。

 自分のしたことには責任を持って生きていかなければならない。親友殺し、たとえそんな異名がつこうとも、セラフィナは前を向いて生きていく。それが、カティアへの贖罪というものだろう。


 「そういえば、黒い影を見たか」


 「黒い影?見てないわね、なにそれ」


 「カティアが死んだあとだ、奥の方に影が見えた。これは俺の予想だが⸺」


 カティアの呪いと、村の呪いは別物ではないか。

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