表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/33

2-9 森の目覚め

 (呪いが、二つある……?)


 セラフィナは身震いした。あんなものが、二つもあっていいものか。

 カティアを倒したことで村は救われたが、もし、呪いが別物であれば⸺。


 「村に戻ったほうがいいかしら」


 「確証はない。現に村から呪いは消えている」


 「偵察か何かだったのかしら」


 「俺にはわからん。……いないやつの話だが、ミリエルならわかるのかもな」


 いないやつの話をしても仕方がないって言ったじゃない。とセラフィナは少し拗ねたが、確かにミリエルならわかるかもしれない。


 「戻りますか、王都」


 「そうだな。話を聞くだけ聞いてみるのは、ありだろう」


 「でもその前にルメルハインで杖直させて」


 「???」


 なにを当然のことを……?といった顔でセラフィナを見下ろすヴァルト。


 「な、なによ。忘れてるかと思って」


 「忘れるわけ無いだろう。お前の大事な杖のためにここまで来たんだ」


 「……そうね、あたしの大事な杖のためね」


 「もう、あまり気に病むな。仕方がなかった」


 「うん……少し眠るわ」


 泣き疲れてしまったのだろう。セラフィナは収納から毛布を出すと、包まって寝てしまった。


 「敵が出たらどうするつもりだ……まったく」


 とは言うものの、セラフィナを見るその目は優しいような、悲しいような。

 親友を殺す、それがどれだけの重責だったか、ヴァルトにはわからない。けれど少なくとも、5年前魔王を倒すまでの旅路で、こんなに落ち込んでいるセラフィナは見たことがなかった。


 (ゆっくり休めるようにしてやるか)


 ヴァルトは馬車を適当な所に停め、辺りの気配を探る。……敵や獣はいないようだ。薪代わりになりそうな手頃な枝を拾い集め、急いて馬車のそばへと戻った。

 村を出たときは夕暮れだったが、もう辺りは暗い。セラフィナも寒いだろうと、ヴァルトは一人焚き火を楽しんでいた。

 木がパチパチと爆ぜるこの音が、ヴァルトは好きだ。揺らめく火を見つめ、セラフィナとカティアの戦いを思い出す。

 確かにカティアには剣が届かなかった。だが、セラフィナが倒したあとは遺体となっており、触れた。これはいったいどういうことなのか。まさか本当に、自身を霧のようにする魔法があるのか?

 セラフィナは知らないようだったが、昔聞いたことがある。魔法には、種類があるのだと。

 一つ、人の使う魔法。

 一つ、神が使う魔法。

 そしてもう一つ、魔族が使う魔法だ。


 もしあれが神の使う魔法であれば、ミリエルに聞けばわかるだろう。聖教会に属するものは皆、神の魔法を使う。ミリエルも例外ではない。

 だが、ミリエルがわからなかったら?それはもう答えだ。魔族の使う魔法だろう。

 魔族が使うと言っても人が使うことが出来ないとは限らない。


 「まあ、詳しくないから知らんが……」


 ぼそっと呟いたその声で、セラフィナが目を覚ました。


 「んぇ……んん」


 「何だそのだらしない声は」


 「おはよお」


 「だからそのだらしない声を……」


 「おはよ!!!」


 「……おはよう」


 どうやら挨拶を返してほしかったらしい。

 ただ、それだけ。おはようと言ったのに、また眠ってしまった。


 「なんなんだ、こいつは」


 呆れながらも、ヴァルトの口元は僅かに緩む。夜の帳は深く降り、遠くでは梟の鳴く声がする。


……パキッ


 「!?」


 ヴァルトは剣に手を置き、すぐさま立ち上がる。

 夜目はきかない。しかし辺りを見渡し、耳を澄ます。気配はない、物音もしない。


 ……気のせいか?

 ヴァルトは息を殺し、剣を構えたまま闇を睨む。

 焚き火の外は、どこまでも黒い。

 視界の端に、揺らめくような影が見えた気がした。だが瞬きをしたときには、もう何もなかった。

 剣を下ろしながらも、胸のざわつきは消えない。


 (黒い影……まさか)


 火に新たな枝をくべ、勢いを増した炎を見つめる。

 夜はまだ、長い。


 セラフィナはすやすやと眠っている。起こすほどではない。不安を口にしたところで、彼女を余計に苦しめるだけだ。


 (明日の昼前にはルメルハインに着く。杖を直したら、すぐに王都へ)


 そう心に言い聞かせ、焚き火の番を続けた。


 

 夜が明ける頃、セラフィナは少し目を腫らしながらも、にこにこと起きていた。


 「おはよっ」


 「あぁ、おはよう」


 「えっ、珍しいわね。おはようを返すなんて……」


 セラフィナは絶句している。普段は「あぁ」

しか返さない男が、おはようを言った。


 「お前、夜のこと覚えているか」


 「夜?あたし寝てたでしょ」


 「そうだな」


 「んん?」


 「いや、なんでも。急ぎルメルハインに向かうぞ」


 「しゅっぱーつ!」


 セラフィナは握りこぶしを高らかに挙げ、元気いっぱいに馬車に乗り込む。

 その様子を見ながらヴァルトは火の始末をし、少しあくびをして御者台に乗った。


 「ねぇ、ヴァルト。街についたら宿で少し仮眠取りましょう」


 「いや、構わん。今日早めに寝ればいい」


 「あら、そう?ならいいけど」


 などと会話をしながら、ルメルハインに向かう一行。前は行商人とすれ違っていたと思うのだが、全く、誰とも会わない。

 ルメルハインに戻ったら伝えなくては、呪いは消えた、と。きっと皆喜ぶだろう。

 セラフィナは、うーんと伸びをして小窓から外を眺めた。行きとは違い、鳥がさえずり、小動物が森を駆けている。やはり呪いの影響で近寄れなかったようだ。


 「ふふっ、森が元に戻ってよかった」


 ルメルハインについたらすぐに宿を取って、杖を直しに行こう。その前に朝食も取らねば、いや、つくのは昼前だから昼食になるのか。などと考えていたら街が見えてきた。


 (よし、気を取り直して頑張るわよ。あたしが、カティアの分まで!)


 気合十分、可愛さ十分で馬車を降り、ヴァルトと並んで街へと入る。

 さっと宿を一部屋取り、以前顔を出した工房に向かう。

 工房の扉を押すと、木の香りと鉄の匂いは漂っている。だが、中は閑散としていた。

 工具棚にはちゃんと工具が揃っているし、人がいた気配もある。だが、音はない。


 嫌な予感がする。


 「まさかと思うけど……まだ、杖作れない……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ