2-4 相棒のいる旅
金の髪を下ろした緑目の魔法使いに、黒髪をお団子にした黒目の剣士。
二人は、ラフィーネの街を出て、北へと進んでいた。
「街で聞いた話、覚えてる?」
「ああ、呪われた土地か。行くつもりか?」
「行かない選択肢、ある?」
ラフィーネの街で聞いた、呪われた土地。
そこでは作物が育たず、人々は飢えに苦しんでいるという。作物が育たないということは、草食動物もいないのだろう。早急になんとかしなければ、どんどん人が倒れてしまう。
「さっ、早く杖直して、呪われた土地へ向かうわよ!」
「そうだな。俺も着いていくとするか」
心配してなさそうに見えて、実は心配をしてくれるのがヴァルトの可愛いところだ。セラフィナは、つい、にやりとしてしまう。
「なんだ」
「いいえ?なんでも。ところであなた、前より足速くなった?」
「……変わっていないと思うが。いや、速さの上限値は上がったかもしれんな」
あの時、セラフィナを助けに来たヴァルトは結構遠くにいた。魔力探知で探せる距離にいたので近いといえば近かったが、並の足では間に合わなかっただろう。
「それにしても、驚いたぞ。洞穴に向かってはいたが、急にテレパシーで話しかけてくるとは」
「戦いながら魔力探知かけてたら、あなたが近くにいたからね。助けてもらおうと思って」
実はセラフィナは、半魔と戦っているときに偶然ヴァルトを探し出していたのだ。
ヴァルトは剣士だが、簡単な回復魔法を使える。それゆえに、魔力はそこそこあるので探しやすい。
「本当に、肝を冷やしたぞ。一歩遅ければ間に合わなかっただろう」
「ふふ、間に合わせてくれたんでしょう?感謝してるわ」
「ふん……次は油断するなよ」
「大丈夫、わかってるわ」
こんなだが、セラフィナはしっかり反省している。あれだけ命の危機を感じたのは久しぶりだ。次は無いかもしれない。そんな会話をしていると、次の街が見えてきた。
「あれが鍛冶屋のある街ね!結構大きいのね」
街の入り口には立派な石造りの門があり、空へと煙を上げる煙突がいくつも見えた。金属を打つ音が、遠くからでも微かに響いてくる。
「ルメルハインだ、魔法と鍛冶の街だな。魔導具も売ってたはずだ」
「魔導具!?」
セラフィナはキラキラと目を輝かせ、ヴァルトと街を交互を見る。
「杖を直したらすぐに出るからな、それまでに欲しいものは買っておけ」
「は〜い!」
セラフィナはルンルンとスキップでもしそうな軽やかさで街へと続く道を歩いていく。ヴァルトが後ろを守り、それを見守っている。まるで小さな子と親のようだ。
「お前、今までの街でも子供のようにはしゃいでいたのか?」
「失礼ね、あたしをなんだと思ってるのよ。21のお姉さんよ!」
「……お姉さんには見えないが。その落ち着きのなさ、5年前と変わっていないぞ」
「あんたが落ち着きすぎなのよ」
そんな軽口を叩きながらも、二人の視線は遠く、街道の脇を見ていた。
セラフィナが眉をひそめる。魔力の揺らぎが、そこにあった。
「いるわよ」
「わかっている」
ヴァルトとセラフィナが自然に前後を交代する。
ヴァルトが剣を抜くと同時に、それは飛びかかってきた。
キキーっ!!という声を上げてヴァルトに襲いかかる、黒い体毛と赤い目をした猿のような魔物⸺マカカビ。
ヴァルトはその攻撃を剣で受けると、その腹を蹴り飛ばした。
すかさず、セラフィナが魔導書を広げ、攻撃魔法を放つ。
「《ファイア・ランス》!」
圧縮された炎の槍がマカカビの身体を包み込んだ。
セラフィナは続けて魔法を放つ。
「《凍翠の抱擁》……包まれちゃいなさい」
緑がかった薄氷が、炎ごとマカカビを包みこんでいく。溶けない氷の中で、マカカビは炎に巻かれ、静かに燃え尽きた。
「流石だな」
「ふふん、あなたの反応速度も中々のものよ」
お互いを褒め合い、ハイタッチする二人。すぐに照れたように顔を背けるヴァルトだが、セラフィナは回り込んで顔を見続けている。
「ええい、やめろ鬱陶しい!」
「んふ」
5年前と変わらぬ関係性を保てているのは、とても良いことだ。セラフィナは嬉しくなり、スキップをして街へと向かう。
「おい、あまり油断は……」
「あんたがいるでしょ?大丈夫よ」
「全くこいつは……」
やれやれと頭を振り、ヴァルトは後を着いていく。その様子は、やはり親子のようだった。
ほどなくして街の入り口に辿り着いた二人は、宿へと向かう。
「こんにちは、旅のお方。一部屋ですか、二部屋ですか?」
「一部屋でいいわ」
「えっ」
「? 一部屋でいいわ」
当然のように路銀を節約して一部屋にしようとするセラフィナに、当然のように二部屋取ろうとしていたヴァルトが固まる。
「いやお前……まぁ、お前がいいならいいが」
「なによ、別に何もないでしょ」
「あるわけないだろう」
「そ、それでは一部屋でお取りしますね」
宿の受付が少し照れた様子で部屋の手続きをしている。なぜあなたが照れるのか、とセラフィナは疑問に思ったが、あまり気にしないことにしたようだ。
セラフィナは、ふんふーんと上機嫌に鼻歌を歌いながら、部屋に荷物を置きベッドに腰掛ける。
「機嫌が良いな」
「久々に人と一緒にいるからかしら?」
これまでは一人旅だった。けれど、これからはヴァルトが着いてきてくれる。宿を取ったことで、その事実が胸に染みてきて、セラフィナは上機嫌だった。
(これで重たいものは持たずに済むわね)
なんて思いながら、セラフィナはぱたぱたと足を揺らしている。
ヴァルトはちらりと目をやると、ふっと笑った。
「なによ、あんたも嬉しいんじゃない」
「いや……まあ、そうだな。やはり旅は仲間がいたほうがいい」
「えっ」
セラフィナは絶句した。まさか、あのヴァルトが素直に感情を吐露するなんて。
「ちょっと〜!照れちゃうじゃないの」
「やめろ、照れるな……やめろ」
「ふふっ……さて、杖を直しにいきますか!ヴァルト、鍛冶屋に案内してちょうだい」
「ああ」
二人はさっと最低限の荷物を手に取ると、宿を後にした。
向かうは街の東、鍛冶屋ゾーンだ。この街は西が魔法専門、東が鍛冶専門で分かれている。
セラフィナは、立ち並ぶ鍛冶屋を珍しそうに見ながら街を歩く。
「おい、はぐれるなよ」
「はぐれたって魔力探知するから大丈夫よ」
ヴァルトは呆れたようにため息をつき、先導している。その距離は遠くはなく、すぐに手を掴めるくらいには近い。
「はぐれそうになったら、すぐに手を掴むからな」
「……お母さん?」
「誰がお母さんだ!」
ヴァルトの声に、周りの人がくすくすと笑う。カップルにでも見えたのだろう。ヴァルトは顔を真っ赤にして俯いている。
「ほらお母さんどうしたのよ、道案内してよ」
セラフィナは振り向き、にやにやとヴァルトを見つめている。
ヴァルトは「なぜお前といるとこうなるんだ……」とぼやきながらも、道案内を再開する。セラフィナは後に続き、目的の鍛冶屋へとたどり着いた。
「ここがその、腕のいい鍛冶屋さんね……失礼するわよ!」
二人はがちゃりとドアを開け、店内へと入っていく。すると、少し強面のおじさんが椅子に座っていた。
「よう、剣か?」
「いえ、杖よ」
「杖か……」
あからさまにしょんぼりした様子で、杖を受け取る店主。剣が大好きらしい。
「こりゃあまあ、きれいに真っ二つだな」
「そうなのよ、お気に入りなの。直せるかしら?」
「これは……」
「これは?」
「無理だな、少なくとも今は」
セラフィナの顔が、一気に絶望へと変わった。




