2-3 再会
メイスが、セラフィナに向けて振り下ろされる。けれど、セラフィナは不敵に微笑んでいた。まるで勝利を確信しているかのように。
「セラフィナぁ!!」
叫び声と共に、空気が裂けるような勢いで、何かが半魔と彼女の間に滑り込んだ。
ガキィィン!!
「遅かったじゃない。ヴァルト」
「ちっ……無茶を言うな、これでも全速力で走ってきたんだ。間に合っただけ有り難いと思え」
ヴァルトは、なんの躊躇いもなく、メイスを持っている半魔の腕を切り捨てた。
「いっ……な、なんだよお前!今いいところだったのに……!」
半魔は苦痛に表情を歪め、よたよたと後ずさる。その目には憎悪が宿っていた。
「ヴァルト、あたしの杖折られちゃったの。あいつなんとかしてくれる?」
「そのためにここにきた」
「じゃ、任せたわよ」
セラフィナは倒れている人たちを運びながら、洞穴の入り口まで退避した。
ヴァルトは剣を構え、じりじりと半魔へとにじみ寄る。
「や、やめろ!来るな!!」
「無理な相談だ」
失った腕を振り回すかのような動きをしている半魔に、ヴァルトは冷たく言い返す。
そして、身を低く沈める。
一瞬、風が止んだかのように思えた。
次の瞬間、ヴァルトの姿が消えた。
「!? は、はや……」
半魔が言葉を発するよりも速く、銀閃が奔る。
「《一閃・断罪》」
剣が斜めに走り、半魔の胸元から肩までを深く切り裂いた。
裂けた肉の奥から黒い瘴気が吹き出し、半魔は絶叫を上げながら崩れ落ちる。
「が……あ、ああああああっ……!
なんで、ぼくが……負け……」
苦悶の声が洞穴に響き、やがて全身から力が抜けたように沈黙した。
ヴァルトは血のついた剣をひと振りし、静かに息をついた。
「……終わった」
その言葉に、洞穴の入り口からセラフィナの声が飛んでくる。
「流石ね。助かったわ、ありがとう」
「ふん……たまたまだ」
腕を組み、鼻をふんと、鳴らして目を逸らす。懐かしさを覚える。5年前に戻ったかのようだ。
「じゃあ、この人たち起こして、街に帰りましょう。手伝って〜!」
「あぁ」
そうして無事に怪我もなく目を覚ました人々は、混乱した様子ながらも、セラフィナの説明にうなずきながら次第に落ち着きを取り戻していった。
「ここは……? あれ、私……確か、街道で……」
「気がついたら、暗い場所に閉じ込められてて……夢だと思ってた……」
口々に語られる声には不安が滲んでいたが、ヴァルトの存在がその空気を引き締める。鋭い視線と堂々たる佇まいに、自然と人々の心が安心へと傾いていく。
「さ、立てる?無理しないでね。街に帰ったら、ちゃんとお医者さんに診てもらうのよ」
セラフィナは一人ひとりに声をかけ、軽く笑って見せる。その笑顔に、人々の表情が少しずつ和らいでいく。
「お前は変わらないな」
「あら、あなたも変わってないわよ。意外と仲間想いなのよねぇ」
「……」
セラフィナが揶揄い、ヴァルトは黙る。
その光景を楽しそうに見つめる人々。
セラフィナを中心に段々と話の輪が広がり、団欒しながら皆は街へと戻った。
◇ ◇ ◇
「セラフィナ様、ヴァルト様。本当にありがとうございました」
助けた人々や、街の人たちに囲まれながら、宿の老人が代表して頭を下げる。
「いいのよ、皆無事でよかったわ」
「当然のことをしたまでだ」
セラフィナは嬉しそうにはにかみ、ヴァルトは気恥ずかしそうに顔を背けている。
「……セラフィナ。お前はこれからどうするつもりだ」
「どうって……旅を続けるわよ」
「杖はどこで直すんだ」
杖。セラフィナが大切にしていた、お気に入りの杖は真っ二つになっている。
「もしかして、いい鍛冶屋知ってるの?」
「あぁ、そこまで護衛してやってもいい」
「ふふ、じゃあお願いしようかしら」
仲間との再開を喜んでいたのはセラフィナだけではないようだ。ヴァルトはほんの少し、口角を上げている。
「じゃあラフィーネ街のみんな、元気でね!」
「では、またな」
大勢に手を振られ、意気揚々と駆け出すセラフィナ。それをヴァルトが窘める。
「あまり一人で先に行くな」
「大丈夫よ!杖がなくたって一応魔法は使えるもの。足手まといにはならないつもりよ」
「全く……」
先を歩くセラフィナの表情は、少し固かった。
(嫉妬は怖いわね……気をつけないと。それにしても、後味の悪い事件だったわ。彼は誰かに、愛されたかったのもしれないわね……)
半魔とはいうが、ほぼ人だった。
セラフィナには若干の迷いがあったのだ。まだ、助けてやれるのではないかと。それが今回、敗北した原因だ。ヴァルトがいなければ死んでいただろう。
「ふふっ」
セラフィナは嬉しそうにつんつんとヴァルトの脇腹をつつく。
「えぇい、なんだ鬱陶しい」
「別にぃ〜?」
まだ、この世界には沢山の汚れがある。
助けを待つもの、片付けなければならないものがある。
「さ、次はどこだっけ?」
「右だ」
「はぁ〜い」
そして二人は歩き出す。
世界の"お掃除"を続けるために。




