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2-2 嫉妬と秀才

 気がつくと、足元はごつごつとした、舗装のされていない道だった。いや、これは洞穴のようなものか。

 どこまでも広がる暗闇に、かすかな紫光。


 (これじゃ何も見えないわね)


 セラフィナは杖の先に光を灯す。


 「っ……!」


 周りには、人が倒れていた。一人ではない。おそらく今まで攫われた全員だ。

 ある者はうめき声を漏らし、ある者は人形のようにぴくりとも動かない。


 「これは……ラフィーネの、住人」


「正解だよ」


 ハッと顔を上げると、先程まではいなかったはずの場所に人がいた。

 いや、純粋な人ではない。半分魔物化している者が、こちらを見てぱちぱちと拍手をしていた。


 「誰っ!?」

 

 セラフィナは杖を構えると、少し距離を取った。


 「そんなに警戒しないでよ。悲しいなぁ、あぁ、悲しいなぁ」


 「何がそんなに悲しいってのよ」


 「ぼくの話を聞いてくれるの?君は優しいんだね。じゃあ、聞いてもらおうかな」


 ひと呼吸おいて、半魔は続ける。


 「ぼくはね、ラフィーネの街で産まれたんだ。それも、ちょっと良い家だ。両親は信心深くてね、ぼくもそれに倣ってよく祭壇に花を捧げたものだ……。そうしてぼくは、教会にいくことになったんだ。

 ある日のことだよ。教会に身を置いていたぼくの元に、見知った顔がぞろぞろとやってきた。ぼくと同じく、女神様のお側にいたいから家を出たらしい。

 そうして、地獄の日々が始まった」


 セラフィナは構えを緩めることなく、黙って聞いている。話の中にある人間としての感情と、にじみ出る狂気。こいつが人か魔物か、判断しなければならない。


 「ぼくはすごい力をもっているんだと思っていた。ぼくは信心深い、だから誰よりも優れた僧侶になるんだと、そう思っていたんだ。

 ある日、一人のルームメイトが奇跡を起こした。そいつは才能の塊だった。そして王都にスカウトされていった。

 ある日、幼馴染が隣町の人間の大病を癒やした。そいつも、ラフィーネを離れてうまくやっている。

 ある日、ぼくより後に来たはずのちびが女神様の声を聞いた。あいつは今教会のトップだ。

 ⸺ぼくは?

 なぜぼくだけ、何もない?あれだけ信仰して、あれだけ献身的にやってきた。それなのに、どうして、あいつらが?あいつらだけが認められるんだ?なぁ、教えてくれよ。ぼくはどうして認められないんだ?」


 段々とヒートアップしていく半魔。それに反応するかのように、周りの紫光が強くなっていく。セラフィナは確信した。こいつはもう、人ではない。


 「君もそうだ。君はあの有名な魔法使いだろう?……そう、セラフィナ。セラフィナだろう!ずるい……ずるいなぁ……お前もぼくを見下しているんだろう!?何もないこのぼくを!!

 お前は何もかも持っているのに!なぜぼくは……!」


 そう言うと半魔はぶつぶつと詠唱を始めた。

 

 「⸺赦されざる憤怒よ……」


 (まずいっ……先手を取られた!)


 セラフィナは即座に杖を掲げ、倒れている人たちまで広範囲に防御魔法を展開した。


 「《ルクス・シールド!》」


 「《紫獄の咆哮》⸺!」


 次の瞬間、半魔の手のひらから、暴力的な紫光が爆ぜた。

 まるで空間そのものが揺れているかのような衝撃は、洞穴全てを破壊していく。

 床はひび割れ、壁は剥がれ落ちる。

 

 「ぐっ……!」


 セラフィナの結界が軋む。反撃しなければ、これ以上は耐えられない。

 セラフィナの瞳に、閃光が宿る。

 掲げていた杖を半魔に向け、防御魔法に使っていた魔力を、攻撃魔法へと転換する。


 「《天槍ルクレア》!!」

 

 防御魔法がぱりんと弾けると同時に、そこから白い光が迸る。光は1本の槍となり、半魔を貫いたかと思われた。


 「っ……《魔盾・シグラト》!」

 

 半魔の両手の前に、淡い紫光の盾が形成される。セラフィナの槍と正面からぶつかった。光と闇が衝突し、爆ぜるような光が辺りを包む。


 「くそっ……セラフィナ。これだから天才は嫌いなんだ……」


 半魔はなんとか耐えたようだが、片膝をつき、肩で息をしている。

 セラフィナの額には、汗が滲んでいた。

 

 「生憎、あたしは天才ではなくて秀才よ」

 

 「うるさい!!!」


 半魔は叫ぶと同時に、洞穴の奥へと走った。


 「逃げるつもり!?」


 「ふん、逃げることなんてしないさ!」


 半魔はメイスを手に取ると、セラフィナに向き直る。


 「魔法の打ち合いでは勝てないかもしれないけど、物理攻撃ならどうかなっ!!」


 人間とは思えぬ跳躍をし、メイスが振り下ろされる。

 対比は間に合わない、対物理用の結界を張る時間もない。


 (くっ……杖で受けるしか……!)


 刹那


 バキィィン⸺


 セラフィナの杖はメイスの力に耐えきれず、中心から真っ二つに折れた。


 「あたしの、杖がっ……」


折れた杖の柄を片手に、セラフィナは一瞬たじろぐ。だが、その瞳には怯えも絶望も浮かんでいなかった。


 (まだ、終わりじゃないわ)


 半魔が勝ち誇ったように笑い、再びメイスを振り上げる。


 「これで、終わりだぁぁっ!!!」


 メイスは、立ち尽くすセラフィナへと振り下ろされた。

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