第79話 出発
第一章の最終話です。事件は謎のまま。
第79話 出発
街道から少し離れた、岩山の麓に二台の馬車は止まった。
岩に隠れ、街道からは見えない位置に馬車を止め、火を起し始めている。
僕は分身体を出し、気づかれないように、しばらく岩陰から様子をみていた。
「兄貴、今夜の酒はうまいな。ここまでは順調、もうすぐ大金ががっぽりだ」
「おまえ、ほどほどにしとけよ。まだ先があるんだ」
「分かってますよ、兄貴。俺も馬鹿じゃ無いんだ」
「まあ、気持ちも分からんでは無いがな。こんなに美味しい話はめったに無い。高レベルとはいえ、たったの四人の冒険者を拉致し、運ぶだけだからな」
「しかも、拉致する場所もタイミングも情報通り。その上、冒険者のスキルも分かってるとなれば、あらかじめ罠をかけておけるし、簡単な話だ」
「後はこのまま運んで、マーリン近くで襲われるって寸法ですね」
「しっ、誰に聞かれるかも分からないのに、そんなこと喋るんじゃない」
「しかし兄貴、四人とも馬車の中じゃ聞こえませんて…」
「ふん、用心するにこしたことはないんだ」
襲われる?…ということは、僕達を助けて恩を売るつもりか…。
反国王派の誰かが糸を引いている?
ヴェリスもフェリーナも知らないようだったが…。
もういい、情報は十分だ。
もうここで決着をつけてしまおう。
相手は、見張りを合わせて外に八人、馬車に四、五人といった所か…。
僕は時間を停止させた。
とらわれていた分身を一旦消し、再び出現させた。
僕と分身二体の三人がかりで、外の八人、馬車の中の五人をすぐには動けない程度に、ダメージを与えた。
とらわれていた三人のロープを切断し、猿ぐつわを外した所で、時は流れ出した。
「みんな大丈夫?助けに来たよ」
「大丈夫だ、助かったぞ」
「大丈夫よ、ありがとう」
「レン?ありがとう」
「うん。みんな、賊を縛り上げるのを手伝って」
「了解」
外へ出てみると、賊達はまだみんな気を失ったままだ。
僕達は賊を縛り上げてから、ようやく一息ついた。
「みんな、お腹は空いていない?食事をしながら、話をしよう」
「そうしてくれるとありがたい」
「助けてくれてありがとう」
「仲間なんだし、当たり前だよ。それより今回の事はどうも、反国王派の仕業のようなんだ」
「何だって!レン、それは本当なんだろうな?証拠はあるのか!」
「ヴェリス、怒るのはもっともだよ。でも、ちょっと冷静に聞いて欲しい。賊の話から推測すると、そう思うんだ」
「賊の話からすると、この後、どうもこの馬車は移動中のどこかで、襲われる算段らしい。それってつまり僕達を助けるということだよね。それで恩を売ろうとしているだと思ったんだけど、どう思う?」
「…それが本当なら、そうかもしれないわ」
「そんなことをするとは、にわかに信じがたいが…、それが本当なら…そうなのだろう」
「賊の誰かに直接聞いてみようよ」
捉えている賊の一人を起こし、問いただしたが、やはり僕の予想通りだった。
「僕の存在が、この国の混乱の種になるのは、受け入れられない。そんなことをしている場合じゃ無いのに…」
「本当にそうだわ。今は力を合わせていくべき時なのに…」
「僕はこの国を出るよ。僕が火種になるくらいなら、離れた方が良い」
「レン…」
「僕はこのまま、マーリン支部によって、両親とギルマスとメンデスに手紙を書いてから、そのまま行くよ」
「悪いけど、賊の後始末をお願いできないかな?」
「それは構わないぞ、真偽を確かめねばならないしな」
「そうか、ありがとう。任せたよ」
「レン、すぐ出発する気なのね?で、行く当てはあるの?」
「遙か北、大陸の北に位置するホクト海の近くにあるという、ホクト三迷宮の攻略に乗り出すよ」
「ホクト三迷宮!…高難易度の三つの迷宮。何か理由があるのね?」
「サーシャから手紙が来てね、そこの攻略に乗り出すらしい。助けに行こうと思う」
「分かったわ、じゃあ出発しましょう」
「!!ありがとう、エライザ、一緒に来てくれるんだね?じゃあ一緒に行こう」
…しばらく移動してから、突然エライザが問うてきた。
「…所でレン、…どっちだと思う?」
「うん、確証はないけど、多分…かな?」
「私も同意見」
「理由はある?」
「あるわ。女の勘よ」
「…」
第1章 完
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