第37話 前世
第37話 前世
「レン、この度のベスの眷属による強襲の件は、すでにベスの眷属が動き出たという証拠に他なりません。それに、あなた達が出会った特殊個体のヴァンパイア、あれは神の目をもってしても看破できませんでした。それは私と同格かもしくは格上の神による隠蔽がなされていると言うことです。気を引き締めていくのですよ。」
「そして成長したあなたに、あなたの前世についても語っておきましょう。あなたは前世では病人やけが人を助ける医師という職業をしていました。その中でも、手術という技術を使って患者を助ける、外科医をしていたのです。科学の発達した、魔法のない世界での話です。優秀だったあなたは、沢山の患者を助けてきました。しかし、不治の病にかかったある患者を、助けることが出来なかった。その理由は、病状が進行し過ぎ、病巣の切除も困難な状態だったからです。それでも病巣切除を何とかやり終え、患者も一時期は回復したものの、最終的には再発し、死に至ってしまったのです。患者本人は、レンにとても感謝していました。しかし、その家族は逆恨みし、あなたは刺し殺されてしまったのです。それがあなたの前世での最期です。」
「あなたの記憶の封印を解いておきましょう。徐々に記憶が戻ってくるはずです。前世の記憶はこの世界でも有用でしょう。」
「そしてレンよ、もっと強くなりなさい。輝かしい未来が来ることを願っています。」
*
意識がこの世界に戻ってきた。
僕は、混乱した思考のまま教会をあとにして、宿泊施設へと向かった。
帰り道の途中、これからすべきことを考えていた。
(誰に、どこまで、どう話せば良いかな?
みんなに話せば、危険な魔族との戦いにも力を貸してくれるだろうけど、そんなのに巻き込んでも良いだろうか?)
…そんなことを考えながら宿泊施設に戻ってきた。
食堂に入ると何やら騒がしい。
「あー誰か、回復魔法を使える人はいないかい?家の旦那が腕を切っちまったんだ。」
「どれ診せてみな。あーこりゃ酷いな。ヒールでは駄目だな。エクストラヒール以上が必要だ。すまんが俺は今呪文切れだ。誰か回復呪文を唱えられないか?」
「それが、今誰も僧侶がいないんだよ。こんな時に限って…」
いつも世話になっているご主人さんの怪我だ。みんな困った顔をしている。
「プチヒールしか唱えられませんが、痛みが少しは引くでしょうし、僕が呪文を唱えておきましょうか?」と問いかけてみた。
「あー、ありがたいよ。痛みが少しでも引くならお願いする。」
「分かりました。ちょっと診せてください」
(あーこれは深いな…どこまで切れているかな…)
患部を見ながら何気なく考えていると、いきなり前世での医学知識がよみがえってきた。
「うっ…これは!」「どうしたんだい?」「あーいや何でもありません。」
(これは、筋肉を包む膜である筋膜を超えているようだ。筋組織は大丈夫かな…)確認しようとすると、期せずして鑑定スキルが発動した。
約7cmの切創。傷は深く、皮膚全層、皮下組織、筋膜、筋組織を損傷しているが、筋組織は完全断裂には至っていない、橈骨側(親指側)で繋がっている。静脈と表皮の知覚神経の損傷はあるが、運動神経や動脈の損傷はない。
鑑定スキルで、創部の状態を詳細に把握することができた。
鑑定で創の状態が分かるのか、これは便利だな…と思いながら、プチヒールの魔法の詠唱を開始する。
プチヒールの魔法は回復魔法の一種であるが、ヒールの魔法と違い、詠唱に時間がかかる。
それ故に、戦闘中に唱えることは実用的ではなく、日常生活でしか使えないという特徴がある。
詠唱を行いながら、頭の中で損傷部が順に修復されていくイメージをした。
「…を癒やせ、プチヒール!」詠唱が終わると、傷は完全に治癒していた。
「なんだ?ヒールでは無理なんじゃなかったのか?完治してるじゃないか!」周囲の見物人が騒いでいる。
「えっ、プチヒールで治ったのか?そんな馬鹿な!」最初に診た僧侶が驚いている…。
「とにかくありがとうよ。助かったぜ。もう全くどうも無い。せめてものお礼だ!今晩の飯は何でも無料だ。好きなものを食べてくれ。」
「じゃあ遠慮無くそうさせて頂きます。お役に立てて良かったです。」
周囲のみんなは、あっけにとられて驚いていた。
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