第35話 別れ
第35話 別れ
僕は、メンデスが魔族と話している途中から、気づかれないように魔弾のチャージを始めていた。
そして、話しが終わった瞬間に、時空間操作スキルを発動した。
周囲の動きが、時間の流れが緩慢となる。
しかしその中で、目の前の魔族だけは凄いスピードのまま迫ってくる。
まるでスキルの影響を受けていないような速さだ。
手裏剣で相手と数手打ちあう。
(くっ、危なかった。時空間操作スキルを使ってもギリギリだ)
(相手も時空間操作スキルを使えるのか?それともレベル差で動きが速すぎるのか?いずれにせよ、早期決着をつけなければ殺される)
メンデス達は四人がかりで対応しているようだが、状況は悪いようだ。
僕は高速移動しながら、手裏剣で魔族と何度も攻防を繰り返す。
しかし、お互い決定打が無く、時間ばかりが経過していく。
後、三十秒ほどで時空間操作スキルの効果が切れる。
その時、僕は二度同じパターンで攻撃をした。
手裏剣での突きから、左右上下への斬撃へと変化させる攻撃である。
相手の魔族は、それを剣や盾で防いでいる。
三度目、同様に手裏剣での突きを開始した。
まだ間合いが遠く、攻撃がまるっきり届かない状態で、チャージしていた魔力を手裏剣より解放し、魔弾を発射した。
その攻撃は、完璧にタイミングを外す結果となり、魔族は避けきれない。
胸部に魔弾を受け、穴を穿たれた。
魔族はそのまま膝を突き、崩れ落ちようとしている。
僕はすかさず、動きの鈍った魔族に手裏剣での斬撃を加え、最後に首をはねることに成功した。
一方、メンデス達は苦戦しているが、何とか戦闘を継続しているようだ。
メンデスが盾役をし、リンが時々隙を見て攻撃を加えている。
サーシャとレイリアは戦闘補助に徹し、回復しながら、四対一で何とか戦闘を維持している。
相手の魔族は、余裕を持って戦闘していたようだが、僕の戦闘が終わるのを察知した。
「まさか、カディスがやられたというのか…?時間の猶予はない、これでも食らえ!」と唐突に強大な無詠唱魔法を放った。
火球が放たれたかと思うと、それが破裂するように分裂し、メンデス達を襲った。
爆発による光で一瞬視界が閉ざされた。
そして、視界が戻ったとき、もう魔族はいなかった。
「みんな、大丈夫か?」
僕は振り返り、仲間を確認した。
…リンが倒れている。
「っリン!」
リンは、魔族が最後にはなった魔法をもろに受けてしまったようだ。
「リン!」
「サーラ・シンシュラーネ・リュータラント。慈悲なる光よ、癒やしの風となりて、奇跡をもたらせ、シュプリームヒール」
「駄目だわ!もう一度!」
「サーラ・シンシュラーネ・リュータラント。慈悲なる光よ、癒やしの風となりて、奇跡をもたらせ、シュプリームヒール」
「…レイリア。もうそれ以上は…」
「どうして!何でよ!リンはまだ目を開けていないわ!どうして目を開けてくれないの?」
「リン…、ボク、何もできなかった…。リン…」
「みんな、すまない。盾の僕が不甲斐ないばかりに…」
…僕は呆然と立ち尽くすしかなかった…。
僕たちは、何かの間違いではないかと、何度も何度もリンの状態を確認しなおした。
…でも、リンは目覚めない。
…最後には、ようやく悟ったように諦めた。
そして遺体を焼いた後、丁寧に土に埋葬し、墓標を建て、丁重に弔った。
みんな虚無感に襲われている…、でもまだ調査は終わっていない。
僕たちは、残りの調査を足早に済ませると、急いでリーズ村に戻り、ライトとディアに報告した。
ライトとディアからは、しばらく村で過ごすように勧められたが、僕たちはそのまま王都リベリスへと戻ることにした。
王都に戻ると、すぐにギルドに立ち寄って、森の周囲の調査報告と魔族との戦闘、リンの最期を報告した。
僕たちのパーティーは、この二週間ずっと沈んだ気持ちで過ごした。
通常、この世界では、仲間の死から立ち直るのは案外早い。
この世界では、死は身近なものなのだから…。
でも、僕たちはそうではなかった…
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