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道参人夜話  作者: 曽我部浩人
第八章 ~ 変性女子
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序章 青島葵の談




 それはきっと──稚拙(ちせつ)な感情だったのでしょう。


 幼い頃、父母と死に別れたわたしは祖父に引き取られました。


 祖父は山奥で武術の道場を営んでおり、そこにはわたしよりも年上の方々が稽古のために通い詰め、日々鍛錬に打ち込んでおりました。


 その方たちは祖父のお弟子さんです。

 わたしの祖父は「お師匠様」と呼ばれておりました。


 ただ1人、祖父と一緒に住んでいる方もおりました。


 その方は道場における師範代のような人だったらしく、祖父の代わりに皆さんの指導も務めてもおりました。


 当初、わたしはこの人を好きになれませんでした。


 口を開けば罵詈雑言(ばりぞうごん)、態度は粗暴、話しても返ってくるのは悪態ばかり。


 第一印象は最低を通り越して最悪でした。

 こんな人と一緒に暮らすのか、と思うと幼い私は泣きたくなったほどです。


 ですが、ひとつ屋根の下で共に暮らすと──印象は逆転しました。


 相変わらず口の悪さは酷いものでしたが、彼は幼いわたしの面倒を甲斐甲斐(かいがい)しく見てくれて、どんな手間も惜しまず世話を焼いてくれたのです。

 その心遣いは言葉にせずとも伝わってきました。


 お弟子さんたちがこの人を慕う理由もわかります。


 彼は態度こそ悪人でしたが、寛大な心を持った男性だったのです。

 偽善者ならぬ偽悪者(ぎあくしゃ)、とでも言えばいいのでしょうか?


 その魅力に気付いた頃、わたしは彼に心を開いておりました。


 初めは両親を失った寂しさを埋めるため、その優しさに甘えていたのでしょう。やがてそれは兄に憧れる妹のような感情へと育ち、それが恋慕(れんぼ)の情へと昇華するのは時間の問題でした。


 そう──初めは稚拙な感情だったはずなのです。


 その感情を種とした気持ちは、いつしかわたしの胸で花開いていったのです。




「お慕いしております──お兄様」




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