終章 アリスの母様は世界一!!
アリスと常世の子が暴れた秋葉原の公園は完全に封鎖された。
常世の力があちこちに飛び散ってて、意外と大変なことになっていたのだ。
後始末を指揮するのは周介と特対課の面々。
現場の修繕や立ち入り禁止、交通整理を担当するのは所轄のお巡りさんたちである。みんな目まぐるしく公園周辺を駆け回っている。
「先輩も手伝ってくださいよー! ここまで来たら呉越同舟でしょー?」
「それを言うなら乗りかかった船だ! 後始末までする義理はねぇぞ!」
泣きつく周介を幽谷響は無体なくらい足蹴にしていた。
そんなやり取りは放っておいて、信一郎はアリスの傍にいてやる。
アリスは常世の子が帰って行った虚空を見つめたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた。その瞳には羨望にも似た光が宿っている。
「ねえ母様、アイツは……母様のとこに帰れたんですか?」
「うん、ちゃんと帰れたよ。お母さんも迎えに来てくれていたしね」
そうなんだ、とアリスは最期のポツリと呟いた。
「…………いいなぁ」
聞こえないくらい小さなアリスの言葉は信一郎の胸を抉った。
アリスの本当の母親はもうこの世にはいない。
それはアリスも幼いながらに理解しており、それでも寂しいから信一郎に母親役をねだり、母親のいない辛さを紛らわそうとしているのだ。
だが──信一郎は本物の母親じゃない。
しかし、あの常世の子は母親の元に帰れた。
それが眩しいくらい羨ましいのだろう。
アリスの気持ちを察した信一郎は、思わずアリスを抱き締めていた。
「母……様……?」
思い掛けない信一郎の行動に、アリスの漏らした声は震えている。
「私がアリスちゃんのお母さんじゃ駄目……かな?」
至らないのは重々承知している。
それでも、今の信一郎にできるのはこれしかない。
「本当は男だし、血も繋がってないし、母親らしいことは何もできないし……アリスちゃんの本当の母様には遠く及ばないけど……アリスちゃんのこと、ずっと愛してあげるから……」
アリスの望む限り、アリスの母親を努めようと心に誓う。
「だからさ、そんな顔しないで……もう、悲しまないで……アリスちゃん」
抱き締めていたアリスが動いた。
その手を信一郎の首に回して、自分から抱き着いてきたのだ。
信一郎に縋りつき、良い香りのする頬を信一郎の顔に擦り寄せてくる。
幼い温もりと彼女の鼓動が伝わっくきた。
アリスは信一郎の耳元に口を寄せ、幸せそうな声でこう囁いた。
「──やっぱりアリスの母様は世界で一番の母様だ!」




