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道参人夜話  作者: 曽我部浩人
第五章 ~ がしゃどくろ
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序章 がしゃどくろの談




 ──許すまいぞ、決して許すまいぞ。


 恨み骨髄(こつずい)に徹するとはよく言ったものだ。

 骨の髄にまで染み込めば、忘れたくとも忘れられなくなる。


 骨髄に詰まっているのは怨みだけではない。


 忘却の果てに打ち捨てられたことへの恨み、置き去りにされて水底(みなそこ)に沈められたことへの憎しみ、誰もが顧みようとしてくれなかったことへの辛み。


 何より骨髄を沸かせるのは怒り──()の浅ましさに対する怒りだ。


 先祖代々の土地を売って水の底に沈めただけでは飽き足らず、その地に眠る我々を見捨てたのだ。


 我等を地の底に鎮めたまま──私を亡き者にしたままでだ。


 ──忘れまいぞ、決して忘れまいぞ。


 ありとあらゆる薄暗い感情が、骨の内側へと浸透していくのがわかる。


 はらわたが残っていれば煮えくり返っただろう。

 脳髄が残っていれば煩悶(はんもん)としただろう。


 しかし、それらは皮や肉と共に腐れてしまった。

 この水底の汚泥に飲まれ、(よど)んだ泥流に押し流されてしまったか……。


 今の我等は骨──腐り果てることのない骨でしかない。


 その内に巡るのは恨み、憎しみ、悲しみ──そして怒り。


 どうやらその怒りが骨の隅々にまで行き渡ったようだ。

 肉も筋も失った骨だけの総身に力が漲る。新たな躍動を感じ取れた。


 ゆっくりと湖底から身を起こす。

 見上げると水面の瞬きが満天の星のように煌めいている。


 その息を飲むような美しさに感動する心はもう残っていない。


 それはあまりにも人間がましい。


 今の我等はただの骨──行き場のない怒りで満たされた骨なのだ。



「……われぇはぁぁ……ほねぇぇぇ……ぼぉぉぉねぇぇぇぇ……」




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