アイラ・イルフリーデと戦乙女の騎士
正直、今ほど自分の事を考え無しと思ったことは無かった。どうして、アルバートを移動するのに地図を持たなかったんだろう。いや、ローゼンバーグを始めて旅した時は、道も聞いてたし、途中からはカノンのガイドがあったからよかったけどさ。
「どうしよ」
アルバート帝国、ローゼンバーグと同等の広さで気候何かに目立った特徴は無い。なんて情報があっても地図が無ければ意味ないよね。
どうしよう、いやホントに。これはヤバい。
等と思うが足は止められない、今更エルフの所に戻ってごらんなさいよ、良い笑い者だ。それは嫌だ。
……変に意地っ張りだな、私。
何て空を見上げ、大きくため息を吐いた時だった。すっごいデジャブ。何か、いや魔物じゃないけど猫が行き倒れの人を叩いている。
あー……何かアクションを起こした方がいいのだろうか。
「あのー」と猫を抱き上げその人を叩いてみる。紫の髪の女の子、凄く綺麗だ。恰好的に村娘Aなんて役職じゃない、きっと騎士か何かだろう。鎧に長い剣。
しかし起きない。本当に起きない。しゃがみ込んだ私は女の子の頬をつんつんするが反応なし。
「まさか、死んでる」
そうであっては大変だ。咄嗟に取り出したボトルのキャップを取り、女の子の口、鼻から水を流し込んだ。どうしてか、倒れた人にはこれをしたくなる。
案の定、この策は正解だったようで女の子は咳き込み、肩で息をしながら起き上がった。少しの罪悪感はあったが、まぁ結果オーライ。
ドンマイだね。
「そ、そなたは悪魔か」
開口一番それですか。変わった人だなぁ。
「まさか……ここは地獄?」
「いや、普通の街道だよ」
「何だと? 貴様!」
と立ち上がった女の子は腰から剣を抜く。装飾の行き届いた、刀身が緑の剣。綺麗だけど、私に突き付けられている。
「私の身ぐるみを剥ぐ気だな! そして、この花も恥じらう年頃の私の柔肌に……この変態が!!」
「変態はあんたでしょ!? 私そこまで聞いてないし、しないし! どんだけ想像力豊かなのよ!」
「ええい! 黙れ! 騙されんぞ……そんな優しそうな顔をしても中身は悪魔、ふふ、私位になるとそれくらいの見分けは付く。天性の千里眼だな」
多分、その目は節穴だし、私が間違って無かったら千里眼の使い方違う。
きっと、個性的な馬鹿な子なんだろう。
だって、ああ言ってドヤ顔でグッドラックって言いたげ……絶対バカだ。
「……はて、そなた……あぁッ!」
え? 何、私の事知ってるの?
「女か!」
「今更かよ!!」
いや、私の恰好で気づいてよ。スカートだよ、髪だって長いよ。今はポニーテールに結ってるけど。そんなに男みたい? 何かショックだな
「いや、申し訳ない。てっきり私を狙う暴漢かと……しかしそなたその頬の傷、みた所戦場で付けられたモノだな。さぞ、大そうな武勇をお持ちだと思うが」
あの何言ってんの? この頬傷は猫に引っ掛かれたんだよ。
いや、本当に目が節穴だね
「何、謙遜することは無い。かくいう私は人を見るには少し自信がある」
はは、もうあなたの目は信用してないよ。ってか、それよりもこの人はどういう人なんだろう。
「おっと、失礼。名乗るのを忘れていたな。私はアイラ・イルフリーデだ。命の恩人を前にしてこれでは、私はメイド失格だ」
「え? あなたメイドさん?」
「ふふ、そうだ。私はメイドさんだ。何だ、見てわからないか?」
ガチガチに鎧で固めた人間を見て「あの人メイドだよ~」なんて言う人がいたら、その人はきっと可哀想な人なのだろう。私は違う、可哀想じゃない。
「あ、鎧だ」
いや、武器持ってる時点で気づけよ。と思うがツッコまない。キリが無いからだ。
「あ、これも言い忘れてたな。私は女だぞ」
「見てわかるわ!」
時には言わずにいられない事もある。今がそうだ、私はゼェゼェと肩で息をし、その場から去ろうとする。
「待ってくれ。命の恩人だ。どうにかもてなしたい。メイド養成学校へ来てくれないか?」
「メイド養成学校?」
「そうだ。メイド長に話しは付ける。そなたの働きを話せば、メイド長はきっと感激する」
口と鼻に水を流し込んだだけなのに?
「それは私を助ける為だ」
それ半分、やってみたかった半分ってのは内緒にしておこう。
「よし! そうと決まればメイド養成学校へ行こう!」
何も決まっていないのに、アイラは私の手を引き歩き始めた。
「迷った」
辺りが暗くなり始めるまで私を連れ回したアイラはそう告げた。イラッとしたが、こうなる事を予想できなかった私のミスだ。諦め辺りを見ると平原な為何も無い。
ただ小麦畑の麦が風で鳴り、吹き抜ける風が虚しい。
「さて、何故私は迷ったのだ」
バカだからじゃない? とは口に出さない。
「そうか……メイドだからか」
何て頼りない人なのだろう。もっとよく考えるべきだった。
「そういえば、まだそなたの名前を聞いていなかったな」
「え? あ、うん。アキハ」
「アキハか……まるで秋の葉っぱの様だな」
漢字で書くとそうなんだよ。と言ってもこの世界じゃ漢字なんてモノは無い。
この突っ込みすら虚しい。
「……ところでそなた。剣の腕は?」
聞かれ、私が身構えるとアイラは抜刀。目にも止まらない速さで、剣の切っ先を、私の顔を掠めるギリギリに伸ばす。直後、後ろからザク、と何かに刺さる音が聞こえ、バッと後ろを向くとゾンビみたいなのが剣の刺さった顔を抑えている。
「これッ!」
「アンデッドだ。死してなお動き続ける」
スケルトンと似て非なるモノ。スケルトンは骨だがアンデッドには腐っているとはいえ肉体がある。
「弱点は炎と光! アイラ! 炎をエンチャントさせるよ!」
「心得た!」
とアイラは私の前に立つとアンデッドを回し蹴りで突き飛ばし、私の炎のエンチャントを受けた剣で首を刎ね、胴体に十字切りを入れ止めを刺す。
だがこの周囲の地面からはゾクゾクとアンデッドが出て来ている。
暗くなり始めたため視界が悪い。
「この視界の悪さでは不利! ここは戦略的撤退を!」
「分かった!」
とファイアウィップで自分の周りを斬り、燃えるアンデッドを蹴り倒すと走る。でもアイラが続いて来ない。
「アイラ!」
叫び見て見るとアイラはこけている。自分の武器も少し離れた場所にあり、取りに行こうにも囲まれている。
「ドジを踏んだ」
「もうッ!」
私は自分の剣に炎をエンチャントさせ、風魔法で飛び上がるとファイアウィップを発動させる。回路が光り、炎の鞭が形成された所でアイラの周囲に振り回す。アンデッドは燃え上がり、熱いのかもがきながら倒れ込み、着地した私はアイラを小脇に抱えるとアイラの武器も拾ってその場から逃げ出した。
何とかアンデッドから逃げ出した私たちは、国内を警備巡回する女性騎士団と遭遇した。アルバード帝国の部隊の1つ、戦乙女の騎士らしい。その名の通りかどうかは知らないが、騎士団の女性たちは皆美人だ。
取りあえずは野営地まで案内してくれ、今日はそこで過ごす事に。
「災難だな。まさか、この地方でアンデッドに出くわすとは」
と騎士団長、アネラスさんが暖かいココアを出してくれた。今は、野営地の作戦会議テントの中だ。
「安心してくれ。直に夕食も出来る。ヴァルキリーナイトの飯は美味しいぞ」
「ありがとうございます。こんなにしていただいて」
「何、気にする事は無い。……君達がアンデッドに遭遇したのは、我々の巡回が甘かった所為だ。すまない」
いえ、とブンブン手を振っていると、20代くらいであろうアネラスさんより若い騎士の人がテントに入ってくる。
「騎士団長。夕食が出来ました。山菜カレーです。それと、お迎えが」
言うと、騎士の人の後にメイドさん。まだ30代だろう。優しそうな人だ。
「め、メイド長!」
と叫び立ち上がったアイラは敬礼。あ、この人が、と思っていると目があい会釈する。
「アイラ、あなたは。見ず知らずの人を巻き込んだんですか?」
「違います。助けてもらったんです」
「あら、それは」
と頭を下げられ「どうも」と言っておくとメイド長さんは笑みを浮かべたままアイラを見る。
「でも、修行中の身でありながらこの様な施しをしてもらって……」
「ち、違うんです! 色々ありまして!」
「問答無用です! 帰りますよ! もう、心配してそんしたわ。お説教ですからね」
まるで母親の様にメイド長さんはアイラの襟をつかむとそのままズルズルと引っ張っていった。
「そなた! 今日は無理だが必ず学校を訪ねて来てくれ!」
はーい、と気の無い返事をしてアネラスさんを見ると、騎士の人とヒソヒソと話している。
聞こえたのは、例の回路……まさか
「あの」と聞くとアネラスさんは「どうかしたか?」
「その、回路の事で……もしかしたら、お役に立てるかもしれません」
どういう事だ、とアネラスさんは顔を険しくさせる。
「私、ギルドイェーガーに所属しているんですが、回路は何度か見た事があります」
「どんな回路だ」
「闇魔法の瘴気を放っていました」
言うと、アネラスさんと騎士の人は顔を見合わせ頷く。
「イェーガーの所属と言ったな。名は?」
「アキハです」
アキハ、と名乗った瞬間、アネラスさんは驚いたような顔をし笑みを向けてくる。
「そうか……お前があの異世界人か」
「知ってるんですか?」
「ギルドに知り合いはいる。しかし、接触経験があるなら頼む、その回路の捜索を手伝ってはくれないか。正式な依頼だ」
「分かりました」
と答えてしまったが、良いのだろうかと考える。まだローゼンバーグには皆が居る。私に着いてきてくれた仲間だ。でも、目の前の回路に関わる事を放っては置けない。
「早速だ。明日我々は更に東へ向かう。そこに既に壊滅した町がある……偵察隊によれば、そこに回路があるらしい」
「はい」
「アキハ、お前が回路を見つけた時、どういう状況だった?」
「魔物が狂暴化して、術者が居ました」
「強いか?」
「とても強いです」
そうか、と考え込む様にアネラスさんは外を見る。
「仕方がない。おい」とアネラスさんは近くの騎士を呼ぶ。「帝都へ連絡だ。ここなら半日もあれば輸送車で戦車が送れる。此方に戦車を回すよう連絡」
かなりの大声で返事をした騎士の人は、柱に設置されていた通信端末に戦車を求む、と大声で言っていた。向こうの人はうるさいだろうに。
「アキハ、その術者とは教団の人間か?」
「は、はい」
いきなり聞かれ、私は驚きながら答える。教団の事を知っているんだ。
「これはアルバートが独自に調べた。と言っても、エルフに訊いたんだがな。エルフはアルバードに味方してくれている」
そうなんだ。と思いながらスターシャを思い出す。
「教団の魔術師であれば、流石の騎士団でも手を焼く。がやるしかない」
「はい」




