転生少女の敵
ドラゴン、と呼んで間違いないであろうそれは、私を見たまま動きを止めている。どうしてか、恐怖は感じない。
私が近寄ろうとすると、カノンに手を引っ張られる。
「何を考えているんですか! 駄目ですアキハさん!」
心配してくれているのであろうが、ここに来てから最初に見たのはこのドラゴン。もしかすると、何か元の世界に帰れる方法が。
どういうわけか、ドラゴンは私にゆっくりと近づいて来ている。
そして、ドラゴンが手を差し出そうとすると、展開していた1人が槍を振り上げる。
でも、次の瞬間には私以外吹き飛ばされていた。
風魔法の一種だろうが、桁違いだ。
ドラゴンと目があい、私は自然と言葉が出て来た。
「あなたは、何を知っているんですか」
答えるかどうかなんて、気にしてはいない。
「私には何もしなかった。何かあるんでしょ、答えてよ!」私は何か、一生懸命になっており
「アキハさん!!!」
と叫んだカノンの声で我に返ると、ドラゴンの巨大な手が振り下ろされていた。
走馬灯を見る間もなく、死ぬ。と思った。
しかしそうはならず、ドラゴンの巨大な爪はギリギリで止められていた。
隣を見ると、オリバーが剣で防いでくれている。
「ボサッとするな! 逃げろアキハ!」
そうしたいのだが、脚は動かず腰が抜け、その場にへたり込んでしまった。正直、拍子抜けだった。
何かあのドラゴンに期待していたのだが、まぁ、期待した私が悪い。
「ぬぁー!」
と可愛い声が聞こえ、左を見るとミルフィ。タックルされ、そのまま引きずられた。すると、手伝いにイェーガーの面々も私を引き摺ってくれた。
何とも情けない。
心配してくれたのか、カノンとミルフィは私に抱き着いて泣いている。
だが、何をしようにも体が動かない。
しかし首は動いた。ドラゴンの方を見ると、オリバーに止められてはいるが、何か、違和感がある。
あのドラゴン、私を殺そうとしたのだろうか。
普通に考えればそうなのだが、今、見て居るとドラゴンは私をただ連れ出そうとしているだけのように見えてならない。
もう、一度は死んでいる。死んでも関係ない、大きな賭けだ。
英語では、ロングショット。
「ごめん」と私はミルフィとカノンを退け、剣を抜くと、風魔法でドラゴンの方へ飛び、勢いに乗ると剣を捨てる。
するとドラゴンはオリバーを抜き、私を優しく掴んでくれた。そこから一気に上昇し、私は気を失った。
頬を突かれ、私は目を覚ました。辺りは暗く、どうやら夜らしい。何だか体の節々が痛いが、気にせず立ち上がり、見渡すとどうやら背の高い樹木に囲まれた森らしい。
「ここは」
と私は声を漏らす。
「エルフの森です」
と声が掛り、後ろを見た。村娘A、と言わんばかりの女の子が私を見て居る。
「あの、ドラゴン知らない?」
「知ってるよ?」
女の子は平然と答える。「ドラゴンは、あなたを渡しに預けて飛んで行った……」
まじまじと見られ、私は腰に手を当てる。
考えてみれば武器は捨てたんだった。
「本当に異世界人? あんまり、変わんないみたいだけど」
「本当に異世界人なの。私はサクラバアキハ。あなたは?」
「スターシャ・マーセナス。スターシャでいいわ」
分かった。と私は言うと、スターシャに聞いた。どういう目的があって、私は此処に居るのかを。
「1つ、あなたはかなり危険だった。だから、一時的に避難させた。2つ、言わずもがな、絵本のお伽噺と一連の流れが一致しているため、あなたは色々と知る必要がある為」
スターシャは奥を指さす。「向こうに村があるわ」
「安心して、エルフしかいない。エルフは悪意の無い人間には優しい種族だから、あなたは歓迎されるわ」
私の一瞬の警戒を見抜いた彼女に感心しながら、彼女の後を追った。
案内されたのは、西部劇の映画でありそうで、静かな森には不釣り合いな酒場だった。陽気な男達が酒を片手に踊り、女性も同じだ。この分なら、大事な話をしても聞こえやしないだろう。
スターシャが案内したのは、一番奥の席。私とスターシャは向かい合う。
「さて、ちゃっちゃと話しちゃいましょう」
私が頷くと、スターシャはテーブルに手を置く。
「まず、私、スターシャ・マーセナスは異世界人の味方よ」
「どうして、異世界人の味方を?」
「世界を救えるのは、異世界人だけだから。それに、今となっては明確な敵意を持つ幾つかの組織が出てきはじめたんだから」
多分、騎士団やあの魔術師の居た組織の事だろう。と考えると、スターシャは私の手を握った。
「やっと……やっと、ここまでたどり着けた。やっと、出会えた」
「え、ええっと」
対応に困る。何か、スターシャは泣きそうな顔で、いや嬉しそうな? よく分からない顔で私を見ている。
「殆どの異世界人は、ここまでたどり着けなかった。ここにたどり着く前に、死ぬか、それとも居場所を手に入れたか」
一瞬、詩織さんが頭をよぎった。
「でも、あなたはここに残りたい、とも思いながら帰りたいとも願った。そして、私と会った。だから、話すわ」
一度目を閉じ、スターシャは続ける。
「あなたの敵の事を」
ローゼンバーグ、銀翼の騎士団は、近衛的存在でもある。銀翼の騎士団の騎士団長 アイザック・マーキュリー。スターシャによれば、ネイビーポートの際、私の回路を破壊した騎士が、その騎士団長らしい。
そして、銀翼の騎士団は、アイザックが主導権を握った頃合いから、陰での行動が多くなった。聞けば、裏方の仕事に関しては、ヘルファイア、とかいう奴。あいつの組織、ゼルフレスト教団なるところと繋がっているらしい。
ゼルフレスト教団の目的は、巨大建造物である空中都市と空中艦隊を手中に収める事。アイザックはその力に魅せられ、仲間を率い半ば協力する形になっているらしい。
と、ここまでの事情説明を聞き、向かいに座るスターシャに声を掛ける。
「ねぇ。この空中艦隊とかに関わりある巫女って、今どこにいるの?」
「それが分かんない」
「女王陛下に聞いた時は、ローゼンバーグ……ごめん、聞いてなかったけどさ。ここどこ?」
ああ、とスターシャは続け、私を見る。「ここは、アルバート領。首都からもかなりはなれてる。東の外れかな」
「そっか……じゃあ、明日には帰らなきゃね」
「え? ……あ」
と何かを忘れていたようなスターシャ。あまり考えたくないので聞きたくは無かったのだが、もう聞くしかない。
「何? その、あ、って」
「いや……ごめん。ドラゴン帰っちゃったから」
「……は?」
「いや、あの。ごめん。もう1週間くらい待てば来てくれるかも」
なんて適当な娘なんだろう、等と思いつつ私は考えた。1週間程度、ともいえるがアルバートには列車も走っている。実質、帰る事自体は簡単だ。そう考えれば、アルバートを見ておいて損は無い筈。
でも、パーティーの3人には少し申し訳ない……けど、もうそんな感情に構っていられない。
「スターシャ、朝になったらさ、外まで案内してくれない?」
「いいけど、自力で帰るの?」
「帰る場所なんて無いよ。でも、仲間がいるのはローゼンバーグだし、まだアルバードには行った事ないしさ」
「そっか」
と肯定の返事を聞き、私はスターシャと共に彼女の自宅へ向かった。大きな木の中にある家で、かなり住み心地がよく、よく眠れた。
朝になり、私はスターシャに案内され森を抜ける。
森の出口にはゲートがあり、そこでスターシャは剣と鞘をくれた。
剣を抜いてみると、折れた剣と同じ回路が仕込まれてあった。
「これ……いいの?」
「うん。その回路って、この世界の人間には使えないの。異世界からの人間限定。それに、丸腰で女の子一人じゃ危ないよ?」
確かに、と思いながらありがたく受け取る。ベルトに鞘を付け、剣を仕舞う。他にはどこからかき集めたのかリュックに水や食料。
「それじゃ、ありがとうね。スターシャ」
「うん。いつでも来てね。アキハなら歓迎だから」
とびっきりの笑顔で微笑まれ、私は彼女の頭を一度撫でてあげた。嬉しいのか目を細め、気持ちよさそうにしている。それを見て、私は続く道を歩き始めた。
首都での出来事、ドラゴンが飛来しアキハを連れ去った。アキハのパーティーメンバーであるカノン、ミルフィ、ライラは翌日になり、捜索を始めた。
だが、ドラゴンは真っ直ぐ上に飛んで行ったため、どこに行けばいいのかなんて分かりはせず、取りあえずは何か情報が手に入るまで、イェーガーで任務をこなす事になった。




