第1話 異世界
諸事情が重なり作風大きく変えました。
一人称作品って初めてです。
ちなみに本作品は碧恋歌の方に行き詰ったら書きます。
この訳の分からない世界について結構時間が経った。行先も何も無いので街道を崖下に下っていた。多分、ドラゴンが通った道に着くだろうと思っていると本当に着いてしまい驚く。
「何これ・・・」
騎士の恰好をした人間が数人以上倒れている。たいまつは火が消えかけ、薄くオレンジに光っている。
途端に私は怖くなり、駆け抜けようとすると先から鳴き声が聞こえた。女の子がお母さんと叫びながら泣いている。
無視しても良かったかもしれないがそう出来なかった。私は腰から剣を抜き、女の子の声のする方へ走った。
女の子が居たのは街道横の草むらの陰だった。
「大丈夫?」
私が聞くと女の子は振り返った。可愛い顔をした子だ。と思うと吹っ切れたように泣き始め私に抱き着いてきた。無下に払う訳にもいかないので後頭部を撫でてやる。
「どうしたの?」
優しく聞くと、女の子はお母さんが、とそれを繰り返す。ただ事では無い、と分かったので女の子が泣き止むまで待った。
「ありがとう。お姉ちゃん」
まだ嗚咽を漏らしながらではあったが女の子は礼を言って来た。
「いいよ。それより――」と私が言おうとすると近くの草むらがガサガサと音を立てた。女の子は驚き、私は剣を前に構え草むらに向く。草むらから出てきたのは可愛い顔をした小さな羊の様な生き物だ。
「可愛いよ。ほら」
私は女の子に言うが、女の子は震えあがっている。何がそんなに怖いんだろう、と私は女の子の手を引きその生き物に近寄った。その生き物は何も声を出さず私に寄ってきて足にすり寄って来た。
私はその生き物を拾い上げ、女の子の顔の前に出しこう言った。
「ほら。可愛いよ」
女の子は腰を抜かし、再び泣き始め、私の後ろを見て目を見開いた。私も振り返った。すると、草むらの近くに人が倒れている。女の人だ。直感で分かった。この女の子の母親だ。そしてその母親の上では今私が抱えている生き物数匹が母親の肉を歯で抉って貪っている。
まさか、嫌な予感がし、私が前を見ると同時、頬に血の雫が数滴付いた。女の子の首が刎ねられた。私は目の前の光景に力が抜け、私の手から生き物は離れ女の子の身体の上に乗り、その肉を貪り始める。
もっと考えるべきだった。女の子が怖がっている理由をだ。
自分の浅はかさを呪いながら後ろを見ると、数匹のソレが私を見ている。
何で神様は死んだはずの私をこんな場所に・・・。
あぁ。次は私の番だ。
と覚悟した時、その生き物数匹に剣が刺さり、次の瞬間には生き物は全滅し、一人の男が私の前に降りてきた。
「遅かった・・。無事か?」
男は私に手を差し出してきてそう言った。
「・・・はい」
怖かったが頑張って声を出した。
「もうここには何もないな。全滅」
言いながら男はメモ帳を取り出しメモをしている。
「俺は村に戻るが、どうする。来るか?」
私は無言で頷いた。
案内されたのは木の風車が回る小さな村だった。もう、空は夕暮れが終わり暗くなって、街は外灯で照らされていた。
私はここに来るまでの間、助けてくれた男にこの世界の事を聞いた。大陸は1つしかなく、西と東で大国が1つずつ。魔物が当たり前にいて魔法もある。戦いは剣等の近接武器が当たり前。
もとの日本の記憶を持っているから頭が痛くなりそうだった。死んだのなら神様は何故記憶をリセットしてくれなかったのだろう。
「君はこれからどうする? ・・・いや、一度村長の居る所へ来た方がいい」
言われ、私は彼に着いて行き村長が居ると思わしき民家へ入った。民家に入るとすぐに、広い部屋にポツンと年寄りのおじいさんが座っていた。
「オリバーか。・・・そっちの娘は?」
「この世界の人間じゃないんだと」
村長と目が合い慌てて頭を下げた。
「成程のぉ・・・つまり、お嬢ちゃんは異世界人か。元の世界へ帰りたいかい?」
当たり前だ。私は頷いた。
「よし、ならば今から訓練学校に入っても間に合わんな。オリバー、明日からこのお嬢さんに戦い方を教えてあげなさい」
「え? 戦い?」
私が聞き返すと、隣のオリバーが私に向いた。
「君が元の世界に戻りたいなら色々な場所へ行かなければならない。でも、向かうなら自分の脚で行くしかない。その道中、どんな魔物が出て来るか分からないだろ? それに、戦う相手は魔物だけじゃない。戦い方は覚えておいて損は無い」
日本より遥かに物騒だ。しかし、田舎で育ってよかった。体力とかは自信がある。
「お嬢ちゃん。名前は?」
そういえば名乗っていなかった。私はあわてて口を開いた。
「サクラバアキハです」
声が一度裏返り、老人は微笑むと「ではアキハちゃん、ようこそオルト村へ」と言ってくれた。歓迎してくれているようで助かった。
私は村長の計らいで余っていた民家へ住めることになった。簡易なベットにクローゼット、タンスしかないが外に行けば井戸もある。案外悪く無いかも知れない。
そう思いながら私は部屋を照らすランプを消し、ベットに横になり眠りについた。
「じゃあアキハ。早速だが村の外へ出るぞ。まずは弱い魔物から練習だ」
起きてすぐ準備をして村の広間に着くなりオリバーに言われた。本来なら剣で素振りなりなんなりすると思ったのに、この男は実戦で慣れろというタイプなのだろう。
「ある程度戦えるようになったらギルドへ行こう。帰る手段を探す為に旅に出るなら金は必要だ」
分かった。と私は頷いた。
村を出ると中途半端に舗装された街道を通って草原に出る。見晴らしがよく小高い丘になった場所だ。下って行くと大きな湖がある。
「さて、アキハ剣を抜け。今から魔物を呼び寄せる」
そう言ったオリバーは小さな笛を吹いた。するとあの女の子を殺したのと同じ魔物が2匹走ってきている。
「アキハ。あの見た目に騙されるな。魔物に情は掛けるな」
んな事知ってる。油断なんかしない。私は剣を後ろに構え走って突っ込んだ。
「いたっ!」
肘から手の甲まで大きく擦り、血が出ている。そこにオリバーが薬草を塗っている。かなり染みて痛い。
「我慢しなさい。それにしても、見事に撃沈だな・・・だが、魔物相手に殺気は出していたのは良かったが、最後の最後でビビったな」
この男、よく見ぬいたな。と思っていると薬草を塗り終わったオリバーは傷口を一度叩いた。また痛い。
「大体、最初にあれを見た奴は見た目に騙されるんだ」
「確かに、私も騙された。・・・だから」
「お前の近くに転がってた女の子の死体か?」
「うん」
今でも思い出す。あの魔物が女の子を殺して貪る姿。さっきの魔物はオリバーが全て片付けた。
「ほら、剣」
オリバーは私に剣を渡そうとして、刀身を見て驚いている。
「これ・・・回路だ」
回路? 何それ。
「魔術循環機構回路。体内の少ない魔力を増幅させ、攻撃、防御、状態変化に使用できる。戦略の幅を広げる装備だ・・・しかしアキハ、これ上等品だぞ。どうやって」
「知らないよ。だっていつの間にか腰にあったんだし」
そうか。と言うとオリバーは私に剣を渡してきた。
「じゃあ、魔法の練習をしてみるか。取り敢えず、剣をあの湖へ向けて」
言われた通り剣を湖へ向ける。
「風、水、炎他何でもいい。思い浮かべて湖に放て」
なんて大雑把。と思ったが風を思い浮かべた直後、剣の切っ先から風が湖へ飛び水面に水柱を立てた。
「な、何これ!」
あまりのそれに驚いている私だが、オリバーは平然と湖を見つめている。
「何って魔法だよ。しかし、いきなりあれだけの高威力魔法・・・お前は剣よりも魔法を頼った戦いの方が向いてるかもな」
「そうかな・・・自分じゃ分かんない」
魔法に頼った戦い方ってなんぞ?
「風の魔法は状態変化に使用すれば跳躍力を上げたり出来る。それを利用して剣で攻撃」
成程ね。説明してくんないと分かんなかったよ。
「取りあえず。アキハ、お前はこれから3か月。戦闘訓練だ。山籠もりとかもするからな」
山籠もり? 3か月? 待ってなにソレ意味わかんない。
「拒否権は無しだ。俺は3か月後に軍務復帰があるから、時間が惜しい、訓練再開だ」
「わ、分かった」
最初の2週間は草原で魔法の訓練。その後は魔物を相手に戦い、魔法と併用した攻撃を覚えた。ちなみに魔法は使用すると体力も失うらしく注意が必要らしい。
そして山籠もり。完全にサバイバルだった。キャンプに弱小魔物が押しかけてきたり、食料は自給自足。日本では考えられない生活で、最初こそ帰りたかったが慣れてしまえばそれきりだ。
ちょくちょく山から下りては近くの町まで行ってギルドでクエストを受注した。子供探しから周辺警護。中級魔物の討伐。案外、村の人とも仲良くなった。