第17話 折れた剣と女王からの褒美
問題が発生した。私の剣が折れてしまった事だ。はっきり言って、この剣が無ければ私は戦力外もいい所だ。
取り敢えず、王城の武器全般を任されているフォウ商会、その担当区画である2階に向かった。
聞くと、フォウ商会は武器の整備に関してもかなりの腕を持った人間がいる、らしい。
ライラさん情報。
取りあえず、受付に言うと私の事を知っているらしく案内してくれた。
案内されたのは、奥の部屋。絵画や、武器のサンプルが展示されている。多分、待合室。
「聞きに違わぬ美しさだ。初めまして」
出て来たのは、スーツ姿のポニーテールのイケメン。何とも、胡散臭い、いやエセ爽やかな人間だ。
「初めまして、サクラバアキハです」
「フォウ商会2代目、クシュルズ・アルフレッドです。お見知りおきを」
握手し、長椅子に案内された。座ると、メイドさんが紅茶を出してくれた。
「さて、アキハさん。あなたの要件を伺いましょう。今日は、このフォウ商会にどういった要件で?」
「この、私の剣です」
鞘を置き、抜いた剣をテーブルに置く。
すると、クシュルズさんは剣を手に取る。
「見事な剣だ。……帝国製? いや、かといってローゼンバーグの武器でもない。美しい、が」
クシュルズさんはゆっくりと刀身を撫で、折れている所で止める。「この有様では」
「直せませんか?」
「申し訳ない。無理ですね。みた所、この剣我々が所有する鋼鉄類とはまるで違う」
手に入らない。という事だ。
どうしよう。
「いえ……ですが、お手伝いはできます」とクシュルズさんは紙切れを取り出し、私に渡す。「これは?」
「もしかすると、この職人が、剣を直せるかもしれません」
刀鍛冶、ミハイル・ロメント。と書いてある。
「アルバート、ローゼンバーグ双方に名の知れた職人です。何でも、直せない剣は無いとか」
「はぁ」
「取りあえず、折角来て頂いて我々からは何も出来なかった。これでは、フォウ商会として宜しくないので、その剣が治るまでの代わり、を提供させていただきます」
いえ、そこまでと私が言う前にメイドさんは青い剣を見せて来た。
「お受け取り下さい。差し上げます。ですが、回路、剣の精度、何もかもは下回りますが、上等品です」
武器として、申し分ない性能らしい。が、お高いんでしょう?
「はは、無料ですよ」
彼には、読心術でもあるのだろうか、私は恥ずかしくなり頬が赤くなった。
「一応、フォウ商会では最高クラスの魔法剣です。きっと、あなたの助けになります」
「では、お言葉に甘えます」
「で、それを?」
うん。もらっちゃった。
私の向かいに立つカノンに言うと、ライラさんが出て来る。
「その剣だが、フォウ商会のモノなんだろ?」
「はい。あの、これ普通に購入したら幾らくらいですか?」
うーんと悩まず、ライラさんは即答した。「家が買える」
本当に高かった。マジ? 何でこれをタダでくれたんだろう。
「多分ですけど、フォウ商会の新作ですよね、それ。ですから、アキハさんを実験台に?」
えーっと、あれ? モニター的なヤツ?
「何です? モニターって」
いや、気にしないで
「しかし、アキハを実験台に選ぶとは、考えたなフォウ商会」
「どういう事です?」
「アキハは異世界人だ。下手をすれば、軍人やってるより手強い敵との戦闘もあり得る」
私は実験台として、かなりいいセン行ってた、という事か。
何だか嫌な感じだけど、助かった事には助かった。回路搭載の武器はそう簡単に手に入らない。
「まぁ、使えば高性能は確かなんだ。よかったといえばよかったな」
ええ
「そう言えばライラさん。アキハさんは居ましたけど、ミルフィは?」
あ、本当だ。いないよあの子。どこで何をしでかしているやら
「ああ、あいつか。ミルフィならメイドさんに可愛がられてたぞ」とライラさんは奥の部屋を指さす。
私たちの居る王城の長い廊下の先、木製の扉だ。取り敢えず、開けてみると
「可愛がられてますね」
言葉通りだった。ミルフィはメイドさんに抱き着かれ、頬をスリスリされ、案外きつそうで、彼女の前のテーブルにはかなりの数のスイーツが乗っている。
「アキハー! 助けてー!」
「どうします? アキハさん」
いいんじゃない? 楽しそうだし
「楽しくねーよ! ケーキ食べたいよ!」
「気にするな。私達が食べてやる。おいメイド。そいつを可愛がっていいからケーキ貰うぞ」
ライラさんが言うとメイドさんは一層抱き着きを強くしたようで、ミルフィは首が絞まり「おフッ」と苦しそうだ。
流石に可愛そうになり、メイドさんに「そろそろ」と言った所、力が弱まったらしく、ミルフィは私に抱き着いた。
「アキハ―。もうやだ。怖いよメイド」
「もう、泣かない。ほら、もう怖くないでしょ?」
頷いたミルフィは涙目の上目遣い、ああ、すっごく分かる。マジで可愛い。
ねぇ、ミルフィ。ちょっと抱きしめていい?
「うん、アキハならいいよ」
彼女は天使だった。抱きしめると、何とも可愛らしく「えへへ」と声を漏らす。
ああ、こんな妹欲しかったなぁ。
と思った矢先、刺さる様な視線を向けて来るメイドさん。
怖い。
離しておこう。
「えぇ……アキハもう終わり?」
うぅ……可愛い。
参った、ミルフィがこんなに可愛いなんて。
「アキハにミルフィ。ケーキを食べたらどうだ?」
「そうですよ。ミルフィずるい。アキハさん。私も抱きしめて下さい」
とカノンが私に飛び掛かる。
同時にミルフィも抱き着きを強くする。
「アキハって何だかお姉ちゃんっぽい……落ち着く」
「ミルフィ。私は?」
「うーんと、ライラはお母さん」
むぅ、とライラさんは考え込む。まだ若いのにね。
「いよう! お待たせ! 海軍のパトリック・ラフィルス参上だ!」
一連の流れを知らぬお調子者が入って来た。
メイドさん、あの人不審者です
「かしこまりました」と頷くと、メイドさんはスカートの中からナイフを数本取り出し、ナイフ投げの要領でパトリックに投げる。
「ちょ! ちょっと! メイドさん! 俺海軍だって!」
あれはあの変態の常套句です
「かしこまりました」
「アキハ! 君は俺と協力しただろう!」
遺跡で怖かった。あの人
「貴様! アキハさんに何をした! 生きて帰れると思うな野蛮人!」
さて、冗談はここまでに、と言おうとしたのだが戦闘態勢に入ったカノンは、ミルフィを率いパトリックへの攻撃を開始した。
いや、ただその辺から拾ったクッションを投げているだけだけど。
「で、俺は海軍の人間。いい?」
「申し訳ありません。あまりに私の嫌いなタイプだったので」
項垂れるパトリックへ辛辣な本音のカノン。容赦ないな……ごめん、パトリック。
「で、私たちに何か用なのか?」
「ああ。陛下から、褒美がある」
褒美? ああ、よく考えればネイビーポートの件は正式な依頼だった。
いや、すっかり忘れてたよ。
「褒美って? 食べ物?」
子供の様にミルフィが聞くとパトリックは首を振る。「いいや」
どうやら、違うらしい。
「褒美は、サクラバアキハ個人への物と、お前たちへの物とがある」
私個人の?
「ああ」
耳を貸せ、とパトリックが言うので顔を近づける。
「何でも、異世界人のお前にだからこそ話せる事、らしい」
多分、そんな事だろうな。と思っていると
「お前、肌がきめ細かくてきれいだな」
こいつだ。
「アキハに近づくな変態!」
ミルフィがクッションを投げ、私とパトリックの前に立つ。
同じように、カノンもパトリックに敵意を向けている。
あぁ、2人とも可愛い。
一方、パトリックは何だか心地よさそうにしている。
Mか?
「まぁまぁ、とっとと褒美をもらいに行こう」
ライラさんに言われ、私たちは女王陛下の元へ向かった。
「遥か昔の事です。この、王政国家ローゼンバーグの領空には、空中都市と、それを守護する空中護衛艦隊。巨大空中戦艦があったそうです」
私だけを別室に案内した女王陛下は語り始めた。
確か、絵本の
「ええ。ですが、これはお伽噺ではありません。現実に存在していたものです」
私は全容を知らないので、頷くしかなかった。
「この空中都市、空中艦隊。そして、巫女です。流れる銀髪。碧眼」
私は、過去。日本でその女の子と会っている。
いや、一度だけ見た。
別にそれが本当に巫女かどうかなんてわからない。でも、なんだかミステリアスは雰囲気の女の子で、どうしてだろう。
巫女、と確信が持てる
「私が提供できるのは、この巫女の存在です」
巫女の存在?
「ええ。この大陸のどこかに、一種の新興宗教によって構成されている集落があるのですが、そこは選ばれた人間しか入れない聖域。空間魔法で覆われた聖なる地です。そこに、巫女はいます。巫女があなたの側に付けば、状況は進展するかもしれません」
それは、確かな情報ですか?
「確かです。そしてもう1つ、その集落の特徴は一定のタイミングで場所が移動している事です。空間魔法によって、土地ごと移動するのですが、厄介な事に、一度、ローゼンバーグで目撃され、次にはアルバートで見つかったりと、不規則で神出鬼没。あなたの運、いえ、幸運を祈ります」
ありがとうございます。と私が一礼すると、女王陛下はチケットの様な紙を3枚渡して来た。
これは?
「フォウ商会で使える無料券です。王室に武器はありませんので、これで一番高い武器を購入してください」
いいんですか? このようなモノを頂いても
「構いません。あなたがたの旅がどうなるかは、私自身も楽しみですし。ああ、あとこれと、これも」
と女王陛下は小さな箱とまたまたチケット。
箱の中身は宝石の山。チケットは、確か、王都の有名料理店の無料券……それも期限なしだ
「この宝石は換金すれば相当な額になります。旅に役立てて下さい」
「で、ですがここまで」
「いえ、先の任務では貴女方を危険な目に遭わせました。それは、私のミスです。謝罪には、まだ足りないと感じていますので、もう1つ、プレゼントを用意しています」
何を、と聞く前にお迎えが来た。
さっきのメイドさんだ。
「さ、アキハ様。皆さまがお待ちです。行きましょう?」
「ええ? 行くってどこに?」
「心身ともに癒せる、王都の温泉宿です」
行ってらっしゃい、と女王陛下が手を振るので取りあえず振り返すと、メイドさんはとんでもない力で私を引きずった。




