第16話 敗北の少女
ゴーレムの咆哮は、私たちに居場所を教えた。進む先、木々が倒れる音。すると後ろからの砲撃音。
風を裂くような音の後、オレンジの弾がゴーレムに命中し、2度、3度、4度と爆発が広がる。
「止まるな! 抜けろ!」
一瞬怯んだ脚は、パトリックの言葉で持ち直した。
「ゴーレムはこっちが引き受けた!」
「餞別だ! 行け!」
後衛のゴーレムと戦う部隊の人間の声。直後に、私たちは風魔法に押され、ゴーレムを抜けた。
そのままの勢いで森を駆け抜ける。
「アキハさん! 魔物です!」
カノンの声に当たりを見回す。黒い影が動き回っている。夕刻前、空には雲がかかっているので森の中は視界が悪い。
「後衛が魔物を引き受けるんじゃなかったのか!?」
「全体はカバーできないだろう。ゴーレムが想像以上なんだろう。アキハ!」
ミルフィの後ライラさんは止まり、私を見た。「ここは私たち3人が引き受けた。その軍人と行け!」
でも、と言う前にカノンは魔物に斬りかかっていた。
ミルフィもハンマーを構え、ライラさんも武器を構えている。
「術者相手に数が減るのは、仕方ない。君と俺の2人だがやるぞ」
頷き、私とパトリックは風魔法で森を抜ける。
出たのは、湖にほど近い場所。
港だと思う。船が沢山ある。
そこに、見覚えのある色が見えた。
回路から出る瘴気の色。
その回路の前に、銀の甲冑の人間が居る。多分、騎士団の人間だ。肩に騎士団のマークがある。
私と同じ、パトリックは気付いたようだ。やっぱり黒幕は騎士団。
すると、騎士がこっちに気付いた。手に持っているのはかなり刀身の長い、日本刀に似た刀だ。
私は剣を抜き、回路を起動させる。炎魔法、剣にエンチャント。
パトリックも戦闘態勢に入ろうとしたが、叶わなかった。
いきなり飛んで来た岩、パトリックの所にゴーレムが突っ込んできたからだ。
「くそが!」
パトリックは言いながら弓をゴーレムを撃つが、その頑丈そうな体に弾かれる。
「すぐに片付ける!」
そう声が聞こえると、パトリックはゴーレムを引き離し、森に消えた。
実質、術者の相手は私一人。
やだな。
私、女子高生だよ。
「貴様が、異世界人か」
くぐもった声。顔全体を覆う甲冑の頭部だから。
「まさか来るとは思わなかったよ。回路の試験運用中に思わぬ収穫だ」
騎士は刀の切っ先を私に向けた。
「殺しはしない」
感覚で分かった、足元に来る。風魔法で飛び、それは正解だった。
私の居た場所の足元からは、岩のトゲが幾つも生えている。
抜いた剣を騎士に向ける。回路を起動させ、ファイアウィップを発動させ騎士に振るう。
案の定、炎の鞭は装甲に弾かれ、消えた。
―――だったら
風魔法で加速し、接近しての一撃。だが、相手は騎士団だ。私の剣なんて、いとも簡単に手で止めている。
「硬化魔法を知っているか?」
言葉の後、拳が迫り剣で防ごうとしたが、剣は砕けた。
嘘、と声が出る前に顔に重い衝撃が来て地面を転がった。
「随分上等な回路を使ている様だが、使う人間に恵まれなかったな」
足音が聞こえ、起き上がると髪を鷲掴みにされ投げられる。
木箱の崩れる音がし、見ると本当に回りは木箱で、手近なところに剣があった。
痛いのを我慢し、剣を持ち上げ、立ち上がり騎士に振るうが、同じだった。
通用するわけない、裏拳で頬を殴られ、回し蹴りを叩き込まれた。
「っ……」
回し蹴りは腹部で、痛かった。でも、蹴りの痛みじゃない。何か尖った物が何個か刺さっている。
痛いわけだ。
「異世界人。それなりの目標があっての旅なら、その程度では持たんぞ」
私は膝を着く。意識が遠のいているようで、声も聞こえるが、遠くからの声の様に感じる。
「今日は見逃してやる。今の貴様は、つまらんが。素質がある。戦え、そして己を磨き上げろ。精進する事だ」
騎士の声が聞こえた後、多分、どっかへ行くような足音。そして、私は目を閉じた。
心が落ち着く鼻歌が聞こえ、私は目を覚ました。
「お母さん?」
「ん? なぁに?」
私が聞くと、お母さんは顔を向けた。辺りを見ると自分の部屋だ。
音楽機器に、適当な有名マンガ。
クローゼット、小物入れ隣のクマのぬいぐるみ。
学校のカバン
制服
友達と撮ったプリクラ
懐かしいにおい
香り的に夕食はカレーだ。
私のデコには冷えピタが貼ってあり、お母さんは濡れたガーゼを絞って、私の顔を拭く。
ぬるいのが気持ちいい。
「ねぇ。私、お腹怪我してなかった?」
「え? 何ー? あんたねぼけてんでしょ?」
あれ? 何で、私はそんな事を思ったのだろう。
あれ? 何で? 何でだろう
何で、私は自分の部屋に居るんだろう。
「ねぇ。お母さん……」
「ん? どうしたのよ」
お母さんは私に優しく微笑んでくれる。
「これって、夢なんでしょ?」
すると、一転変わってお母さんは喋らなくなった。
「ねぇ。喋ってよ。違うって、夢じゃないって。そう言ってよ」
私は悲しくなり目を閉じた。
泣いているんだろうな、目の端から涙が垂れている。
「お母さん……」
小さな声だったと思う。声の後、私は何かに優しく撫でられた。
でも、お母さんじゃない。何だか、タバコのにおいがした。
ゆっくり目を開けると、知った顔だった。
「ライラさん……」
「うなされていたぞ? そんなに夢は怖かったか?」
私はゆっくり頷き、半身を起こす。
すると、ライラさんは優しく抱きしめてくれた。
「わ、私……」
何だか知らないが、泣きそうになった。
「我慢しなくていいんだアキハ。お母さんに会いたいのか?」
「は、はい」
「お前はまだ若いんだ。それは仕方ない。すまないな、うまく言えなくて」
私は泣き顔を隠し、ライラさんの胸に顔を埋め首を振った。
「そうか」の声の後、ライラさんは私の頭を優しく撫でてくれた。
泣き止んだ時、カノンとミルフィが泣きながら私に抱き着いた。
すごく心配してくれたようで、私は嬉しかったが手加減して欲しかった。




