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異世界人

 王都の温泉、の筈が地下水脈の爆発的活発化により、温泉が厚くなったとかで、王都、まぁ首都。から出る羽目になった。

 ミルフィは付かれたのかライラさんに抱き着き、カノンは警戒し続けている。

 既に、辺りは夕焼け。

 暗くなってしまえば、魔物の有利な状況の誕生だ。


 結局、温泉は諦めた。別の街に行けばあるだろう、と言う結論で私たちは納得した。

 かれこれ、首都から出てどの位だろうか、既に城壁は見えず、かなり歩いてきた。


 足痛い


「……おかしい」


 カノンが声を漏らし、ライラさんはミルフィを離す。


「何がだ?」

「魔物が居ません。……気配も何も無い、何もいない」


 確かに、気配は無い。一体、と思った直後、かなり遠くから鐘が鳴り私は一瞬、身体を震わせた。


「この鐘!」

「ああ!」

「あれだろ! ヤバいときに鳴らすヤツ」


 カノン、ライラさん、ミルフィは理解したらしく、すぐに走るが私は横に見えた、抉れた土を見て


「待って!」


 と皆を止めると、カノンも気づいたようだ。


「気付かれない様にしよう……多分」

「騎士団ですか?」


 私は頷く。この抉れた土、多分戦車が通った後だ。それに、爆発したみたいな抉れた土もあるし。

 聞けば、あの鐘は街がピンチになった時に鳴らすモノらしい、魔物が居ない。

 普通なら、魔物が攻め入った、と考えるべきなんだろうけど


「あ、アキハぁ!」


 ミルフィが怖がりながら私に抱き着いた。ミルフィが見たのは、殺された、夥しい数の魔物。それに、見ると人間の死体も転がっている。騎士団と民間人。


「多分、騎士団が攻め入ったと思う」


 どうする? と確認するようにライラさんが私を見る。


「当然、ミルフィを虐めたんだから。報復でしょ?」

「乗りました」

「乗った」


 カノン、ライラさんは乗って来た。ミルフィも「もう! 乗っかるよ!」と渋々。

  




 街が目に入ると、戦車の砲撃で炎に包まれていた。本当に、騎士団が攻め入っていた。私たち4人は、裏口、と言って良いのだろうか狭い入口から入った。見張りの2名は、カノンのアクロバティックな動きでの攻撃で殺された。

 裏口はほぼ下水道に近い。明るく視界は広く、街の中にはすぐに入れたが酷い有様。

 街は燃え、辺りは炎。

 騎士団は民家に押し入り女子供を連れ出しては、男を殺し、お金になりそうなものは全て奪っている。


「分散は危険だから、離れない様にしよう!」


 私が言うと、3人は頷いた。私たちに気付いた騎士数名は攻撃しようとしたが、動きの速いカノンに斬殺される。 

 貰った剣を騎士に向け、炎を撃ちだし攻撃。

 ライラさんはミルフィを援護しながら、2人でコンビネーション攻撃。


「一応、シスターとしての仕事もさせてもらう」


 けが人の治療だが、数が多い。

 誰かが離れるのはマズイ、と思っていると軍人ではないであろう男達が、私たちに攻撃しようとしていた騎士を倒す。

 何にせよ、助かった。味方?


「軍属か?」


 1人、長髪の仮面をつけた男に聞かれ私は首を振る。


「民間人の救出に来たのであれば、手を貸してほしい。けが人がまだいる。頼む」


 断る理由は無い、頷き、騎士団の撃退に当たった。






 1時間程の激闘の末、私たちは何とか騎士団を撃退し、とらわれていた人全員の救出を完了した。カノン、ライラさんはまだ元気そうで、ミルフィは肩で息をしている。

 私も、ミルフィ程ではないがかなり疲れた。

 

「助かった。礼を言う」


 仮面の長髪の人が握手、の為だろう手を差し出して来た。一応、握手をしておく。

 それを確認したライラさんは「治癒魔法、けが人に使って来る」怪我をした人が居る場所へ走って行った。

 ミルフィも包帯やらなんやらを抱え、ライラさんに続いて、残されたのは私とカノン、そして仮面の男。 


 あの、あなた方は?


 気になっていた事を聞いてみる。


「ああ、失礼。私たちは、この付近のギルドの者だ」

「そのギルドの名前は?」

「ネバーヴィップ」


 カノンは知っているようで、少し驚いていた。

 取り敢えず

 

 私たちは、イェーガー所属です

 

 と言っておく。


「あの……通りで強いわけだ。しかし君達が来てくれたおかげで助かった」

「何がどうしてこんな状況に?」


 今いる場所は街の中心の大きな広場。街は、まだ燃えている。


「分からない。いきなり、騎士団が攻めて来て、私たちはここの長に雇われて警護についていたんだ」


 仮面の男は言うと、何か思い出した様に「失礼」と手に持っていた剣を下に下げた。


「私の名前はまだ言ってなかったな。ウィエルだ。宜しく」

「カノンです」

「サクラバアキハです」


 私が名乗ると「変わった名前だな」と言いたげな顔だ。まぁ、珍しいんだろうね。


「ウィエル、捉えた騎士だがどうする?」


 巨漢の男と数名が、捕まえた騎士団の人間数名を連れてきた。


「吐かせる。待機してくれ」


 巨漢は頷き、1人をウィエルに引き渡し

 

「さて、答えてもらおう。自白を促す魔法は使えないんで、手荒に行かせてもらう」


 手荒な尋問、拷問を開始し、


「アキハさん、行きましょう」


 私がこういった事が苦手、と知っているカノンは気を利かせて、一緒に別の場所へ。




 街の住人は思いのほか子供が多かった。聞けば、孤児院があったらしい。

 でも、騎士団は孤児院だろうが容赦なく押し入り、競って子どもを追い回し、殺して行ったらしい。

 悪趣味すぎて、何も言えない。

 考えてみれば、オリバーも騎士団所属だ。こんな事を知ってしまった以上、どんな顔して接すればいいのだろう。

 いや、彼がこんな事をするとは考えにくい……でも


「アキハさん?」


 多分、意識が遠のいていたんだろう。カノンの声にビクッと震えてしまった。

 今、私の胸では小さな女の子が泣きじゃくっている。

 

「ごめん。考え事してた」

「いえ、いいんですが……お疲れでは?」

「ううん。大丈夫だよ。ありがとうカノン」


 カノンは、私がこの惨い光景に滅入っているのが分かったんだ。カノンは勘が鋭いから、気付かれたら彼女を疲れさせるだけだ。


「ねぇ、カノン」

「はい」

「騎士団の目的ってさ……何だと思う?」


 ただ聞いてみたのだけれど、カノンは言い難そうに私を見る。


「私、前に住んでいた村があるんです。アルバート領ですけど」


 頷く。


「そこで一度、大きな騒ぎがあったんです」

「騒ぎ?」

「ええ。公にはなっていないんですが、山賊に扮した軍人が、村を襲ったんです」


 かなり驚いたので、私はカノンから目を離す。


「怖かったですよ。沢山の男達が村に入って来て、略奪虐殺暴行を繰り返して……。私の家族も、そこで離れ離れになって、3日後死体で再会しました」


 彼女からは想像できない、暗い過去。私は押し黙った。


「後で聞いたんです。メイド養成学校の私の担当のメイドさんが軍に詳しくて……ガス抜きです」

「ガス抜き?」

「はい。アルバードはローゼンバーグと同じ、割と平和です。あって地方での魔物、盗賊山賊の騒ぎ」


 ここで一旦止め、カノンは私を見た。


「鬱憤が溜まってたんですよ」


 まさか、と私はカノンを見た。思いついた可能性は多分大当たり、カノンはゆっくりと頷く。


「この街は、占領したって何のメリットもありません。集落に近いですから。でも、人は多く、広さもそれなり」

「鬱憤晴らしには丁度よかった」


 はい、とカノンは頷いた。


 


 ウィエルに聞くと、鬱憤晴らしで正解だったらしい。はっきり言って、最悪だ。


「アキハ大丈夫か?」


 私を心配してくれたライラさんは、声を掛けてくれた。辺りは既に夜。街の炎は、魔法が使える人間で水魔法を発動させ、消した。


「はい……聞きました?」

「ああ。鬱憤晴らしだろ?」

 

 私は頷くと、その場に座り込む。


「私の居た世界、そこでは映画……いえ、お話があって、戦争モノです。鬱憤晴らしでこんなことをする話があったんです」

「ああ」

「実際、見て見ると酷いですよね」

 

 ライラさんは同じように「ああ」と返事をすると私の隣に腰を降ろす。


「でもなアキハ。これが、現実なんだよ」

「現実?」

「ああ、誰でも、どんな組織でも溜まる。だから晴らすんだ」

「でもこんな!」


 気付けば、私は立ち上がっていた。


「世界はこうやって上手く回ってるんだ」

「上手くなんかありませんよ! おかしいですよ……こんなの。目を瞑りたいくらいです」


 ライラさんは立ち上がって、私をゆっくりと抱きしめる。


「おかしいんだよ、こんな回りかた。でも、こんな事、他にも起こってるんだ。でも、誰も目を向けない。知らないからだ」

「はい」

「お前の居た世界は平和だったか?」


 私は首を振る。平和じゃなかった。日本は第二次世界大戦が終わって、憲法9条があって、平和だった。

 でも、世界じゃ紛争や戦争があってた。

 第3次世界大戦の危機。冷戦。キューバ危機。イラク戦争、湾岸戦争、ベトナム戦争。

 社会の先生が話しており、授業でも習った。

 

「少なくとも、お前の居た世界でもこういった事があったかも知れないんだ」


 ライラさんは、私の肩を掴み、離す。


「お前は何でこの状況に介入しようと思ったんだ?」

「わ、私は……ただ助けになればと」

「それで良い。でも、見てしまった以上、目を瞑るなんて許されない」


 正直、こんな状況は予想していなかった。私の想像能力不足なんだろう


「アキハ、世界を回る、というのはこういった面も含めてだ」

 

 私はただ頷き、ライラさんに抱き着いた。



 朝を迎え、私たちはネバーヴィップの人たちと共に、生き残った人たちを首都に運ぶまでの護衛を担当し、ネバーヴィップのウィエルさんは、1つの情報をくれた。

 それは、私と同じ異世界人の居る場所だ。 

 1つ、希望が見えた。

 

 聞けば、その人は首都にいるらしい。

 そして何と、その人の居る場所は、私とカノンの良く知る店だった。

 



「あーら! あんた達戻って来たの? やだわーもう、先に言いなさいよ。パーティーしたわよ」


 相変わらずシャムさんは私たちがお気に入りの様で、カノンはいつもの様に「お酒ー!」と騒ぎ、ライラさん、ミルフィを巻き込んでの飲み比べを開始した。


「いい飲みっぷりね。アキハあなたは何にする?」

「あ、いえ私は……シャムさん。このお店の従業員にフェルトって人います?」


 驚いたようで、シャムさんは「いるわよ」と言うとフェルトさんを呼んでくれた。


「んだよあたい今日非番だろ?」

「お客さんよ。まったく」


 口の悪いその人はかなりきれいな女の人。咥えタバコで、ぼさぼさの髪をポニーテールに結っている。


「で、んだよお前。非番のあたい呼んだんだかんな、つまんねぇ事だったらぶっとばすぞ……名前は?」

「さ、サクラバアキハです」


 名乗った瞬間、その人はカウンターから席の私に身を乗り出し、テーブルをぶっ叩いた。


「……日本人?」

「はい」


 フェルトさんは、笑顔で私に抱き着いた。痛いし煙草臭い。


「おお! そっかそっか! 日本人に会えるなんて夢みたいだ」

「よかった。私も、日本人に会えるなんて思ってなかったから」

「はは、そりゃそうだ。よし! 飲めアキハ! あたいのおごりだ」

「飲みませんよ! 未成年です!」

「ここは日本じゃねえからいいんだって! 吸うか? タバコ」

「吸いません!」



 落ち着き、私とフェルトさんはテーブル席へ移動した。この短時間で、フェルトさんは灰皿に山を作っている。

 どんだけヘビースモーカーなんだよ


「で、アキハ。あんた出身は?」

「福岡です」

「お、あたいと同じじゃん」


 驚いた、意外に近場だ。


「福岡の何処なんです?」

「ん? ああ、北九州だよ。八幡西区な」

「……私もです」


 フェルトさんも驚いている。考えてみれば、このフェルトって偽名だよね……


「ああ、あたしの本名は三階堂詩織だ。ここに来て早2年。何か無かった? 失踪事件とかニュースで報道とか」


 正直に言うと、2年ほど前に話題になったニュースがあった。

 八幡西区で女子高生が大勢の人の前で急に姿消した


「……あったの?」

「ええ。かなり有名な事件です。女子高生消失事件」


 マジかよ、とフェルト、いや詩織さんは頭を抱えた。


「詩織さん。帰りたい、って思わないんですか?」

「どうかなぁ……慣れてしまえばこっちはこっちで楽しいしさ、そりゃ帰れるなら帰りたいけど、こっちにも残りたい」


 あんたは? と聞かれたので私は正直に言った。


「同じ気持ちです」

「そっか」


 ガサツな女性かと思っていたら、優しそうな表情顔で微笑まれた。

 本当にきれいな人だ。


「詩織さん、恋人とか居るんですか?」

「候補はいる」


 やっぱり、この世界で新しい生活を見つけたんだな


「目の前に」


 前言撤回。何を言ってるんでしょうねこの人


「アキハ、お前髪の毛に灰が付いてる」

「え?」

「取ってやる。動くな」


 私は大人しく従い、何でか目を閉じた。すると唇に柔らかいものがあたり、口の中に何かが入って来た。

 目を開けると、詩織さんの顔が目の前に。

 これは、俗に言うディープキス……!


「っぷぁ。アキハ……お前可愛いな」

「ふぇ?」


 力が抜け、私は力なく返事をすると、詩織さんの後ろに悪鬼の形相のカノン。

 まずい、逃げてと思うが遅く

 カノンは詩織さんにディープキスをされ、その場にへたり込んだ。


「あ、ごめんねぇ。言ってなかったわ。フェルトったら、とんだ女好きでね」


 思い出した様に言いながら、シャムさんは私を抱き起してくれた。


「キス魔なの」


 先に言ってよ。と私はテーブルに突っ伏した。


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