第11話 黒魔術のヘルファイア
特に前触れもなく敵になりそうな人間を出しました。
ファンタジーっぽいかな
修道院の回りに貼られている護符のある個所は距離にしてどの位かはしらないが、結構遠いらしい。
「ねぇ、スケルトンってさ。一種のゾンビみたいな奴だよね?」
「そうですね。それに近いですが、スケルトンはどこから沸いてくるか分かりませんから」
「そうそう。地面に水中。木の上、岩の陰。どこに居るのやら」
私の後にカノン、ライラさん。
「ねえねえ。あの走って来てる奴ってスケルトン?」
ミルフィが言い、私たちは一斉にその場所を見ると、骸骨が走ってきている。
スケルトンだね。
「呑気にしてらんないよ! 狂暴化してんだ!」
「私が魔法で止めます!」
その私の言葉を合図、と言わんばかりにカノン、ミルフィ、ライラさんはスケルトンへ向け走る。
私は回路を起動させ、バスケットボール程の大きさの氷塊を形成させ、風魔法でスケルトンへ飛ばす。
氷塊の命中と同時、スケルトンは尻餅を付き、ミルフィがハンマーで攻撃。
その後ろに続くスケルトンの足元に氷結魔法。脚を凍らせる。
「貰ったぁッ!」
動きを封じられたスケルトンへカノン、ライラさんが同じタイミングで攻撃。そして攻めて来たスケルトンは全滅させた。
しかし、本当に油断が出来ない。スケルトンが攻めて来たが、その様子が尋常ではなかった。殺気立っている。いや、何かに駆り立てられている。ただの狂暴化ではない。
「一種の呪術……」
ふとミルフィが言った。
「おい、呪術って?」
ミルフィにライラさんが聞くと、ミルフィは顔を向ける。
「いや、さっきのスケルトンさ、狂暴ではあったけどそれ以上のモノを感じたっていうか」
歯切れ悪い。ミルフィは言葉を探している。
言ってみよ。
「何かに駆り立てられてる。とか、操られてるとか?」
「そう! それだ!」
私が言うとミルフィは叫ぶ。するとカノンが考え込む。
「なぁ、そうだとして、それが呪術に近いものによるものだとして……術者が居る訳だよな?」
ライラさんが言うと、カノンは頷く。
「そうなれば、考えなければいけませんね。この護符貼り直しですが、戦う相手は魔物だけではないかもしれません」
「術者は敵……でいいの?」
私が聞くと、カノンは頷く。
「まぁ、こんだけ操って、護符に関してもだが、あたし達を襲わせてんだ。明確な敵意がある、と考えて間違いないだろう」
よく考えりゃ普通にそうだ。
「だから、警戒を厳として用心して進みましょう。術者が複数いるという可能性もありますので」
考えられる可能性をカノンが言うと、私は頷く。ライラさんは腕を回し「おっしゃ!」と張り切っている。
ミルフィはハンマーを両手で握ったまま「魔物じゃないなら怖くねぇやい!」と同じように意気込んでいる。
そして、多分関係ないのだけれど、私は術者の事を聞いてからというもの胸騒ぎが収まらない。
嫌な予感がする。が正しいのだろうが、それが当たらない事を祈るばかりだ。
「今通ったでっかい樹があったろ。あれは目印だ。もうすぐ護符のある神社だ」
通り過ぎた巨大な樹木を背に、ライラさんは言った。
しかし、神社とは。知っている手前どういう神社か楽しみ。
「普段、護符の確認なんかはあたしが一人でやってんだ」
「修道女の皆さんは?」
「あくまであのシスター達はまだ見習いだ。しっかり戦える奴もいるが、ほとんどは治癒魔法の訓練だ。戦闘訓練は加護を受けるシスターとしては駄目らしいから。正直、今日はあんた達が一緒に居てくれて助かったよ。……考え過ぎとは思うが、あたしはさっきから胸騒ぎが収まらない」
そうライラさんが言う。私も同じく胸騒ぎが収まらない。
「あ、見えてきました。あれが……」
「鳥居でしょ」
見えてきた鳥居を指さしたカノンはそれが分からない様だったので答えたのだが、どうもライラさんやカノン、ミルフィは驚いている。
え? 鳥居って答えたのそんなに駄目だった?
「アキハすげぇッ!」
「アキハさん。良く知ってましたね」
「ああ、神社なんざ聖職者位しか出入りしないから……物知りだな」
違うんです。普通に日本にはあったからなんです。
「あ、そっかアキハは異世界人だからな」
「はぁッ!? あたし聞いてないんだが!」
言ったミルフィの肩をライラさんは掴み、ガクンガクンと揺さぶる。
「あー、ライラさんには言ってませんでしたね。私は異世界から来たんです。まぁ、死んで気が付けばここに居た。という事です」
「へぇ……そいつは大変だなぁ。お前、神社を知ってるって事は」
「あ、はい。私の居た国。日本に古くからあるんです。神社って」
ライラさんはそれを聞くと、何か考え始める。
だが、それをライラさんはすぐに止めた。
私たちが鳥居の前まで来た時。鼻歌が聞こえて来たからだ。
声からして男。何かご機嫌だ。
「これって、ビンゴって訳だよな?」
言ったミルフィに私が頷くと、カノンは袖口からブレードを出し、ライラさんは薙刀を構える。
「皆、私が先行する」
私が言うとライラさんは不満げだが、そんな事に構わず私は階段を風魔法で駆け上がり、参道へ入ると、スキンヘッドで黒いコートを羽織った男がタバコを咥え、鼻歌を歌っている。手には魔術発動に必要な回路を搭載した杖。
魔導杖
オリバーから聞いている。
そこで他3人が武器を構え、上がってくる。階段は結構長かった為、3人ともゼェゼェ言っている。
「んー……4人かぁ。俺知ってるよ、お前が異世界人ってなぁ」
そう男は言うとタバコを吐き捨て、左手をポケットに入れ、中からお札の様なモノを取り出す。
それには何か、呪文のようなものが書いてある。
あれが護符?
「あー、ごめんごめん。シスターさんの大切な護符を剥がしちゃったよ」
無表情のまま、悪びれの欠片も無い男は護符をヒラヒラさせ、もう一枚を取り出す。
「さぁて質問。護符が無くなった今、狂暴化し、尚且つ俺のマジックスタッフで操られた悪意ある霊系魔物はどうするでしょう?」
後ろを見ると、レイラさんが動揺している。
そう、普通の魔物よりも、霊系の魔物の方が性質が悪い。
「あぁー。まぁ時間の問題だな。サムエル修道院は、直に壊滅……かな?」
と男がとぼけてみせた瞬間、ライラさんは走り出し、薙刀を振り上げた。
「へぇ」
男は小さく言うとスタッフを振るい、ライラさんを吹き飛ばす。ライラさんは吹き飛ばされ、燈籠にぶつかる。
吹き飛ばされたのは、風魔法を発動させたからだ。
それも強力だ。
戦わなくても分かる。
私たちでは絶対に勝てない。
「……異世界人。お前は利口みたいだな。力の差を理解したか、だが」
再び男はスタッフを振るうとカノン、ミルフィが吹き飛ばされる。2人は参道脇の樹木に激突する。
「さ、邪魔は消えた。安心しろ、戦闘の意思はない」
「だったら目的は? 私? 護符?」
「お前と、巫女だ」
私は分かる。異世界人だからだ。しかし、巫女は居ない。
「我々はまだ巫女を見つけていない。見つけなければ条件はクリアされない」
「条件って……絵本?」
「ほぉ。良く調べ上げたなぁ。その通りだ」
巨大構造物に空中艦隊。本当に? 嘘を言っている可能性もある。
「我々にとっての脅威はローゼンバーグ、アルバートの軍事力ではなく、4聖剣とお前とその仲間達だ」
「どうして私たちが?」
「こちらの目的を阻害できるのはお前たちだけだからだ」
「……殺す?」
聞くと男は顔を伏せ、ため息を吐く。
「残念。お前たちを殺す事は出来ない。今はまだ……まぁ要件はこれだけだ」
男はそう言うと背を向ける。
「急いで修道院に戻った方が良い」
「え?」
その瞬間、修道院の方角が爆発する。黒い煙が空に上がっている。
「俺の名前を教えておいてやろう。第6私設部隊長。黒魔術のヘルファイアで通ってる。以後お見知りおきを」
と言い残すと、ヘルファイアと名乗った男はジャンプして飛んで行った。
風魔法みたい。私のモノとは力が違う。
違う、今はそれどころじゃない。
3人を起こして修道院へ戻らないと―――!
私はすぐに剣を空に向け、回復魔法を発動させ、3人は目を覚ます。
起きた3人はすぐにヘルファイアの事を聞いてくるが、それ以上に修道院。私が黒煙を指さすと、ライラさんは大きく動揺する。
「おい! やべえんだろ!? 急ぐぞ!」
そうミルフィに言われ、ライラさんは「あ、ああ」と返事をすると走り出す。
それに私とカノンは続く。
帰りは黒煙までただ走り、修道院が近づく頃。木々がオレンジに変わる。
火が燃え移っているのだ。
その為、熱く、汗が服に滲む。
そして、修道院が目に入り、森を抜け、修道院の目の前に出る。
「ひ、ひでぇ」
そうミルフィが声を漏らす。
私も同じだ。カノンも同じだろう。
魔物の死体が転がっており、修道院は燃えている。辺りには武器が刺さり、血液が飛び散って、肉片が飛び散っている。
湖畔では数名の修道女が、他の仰向けに倒れている修道女の顔に布を掛けている。
「ぁ……シスターライラ」
数名の修道女達は、疲れ切った顔で礼をする。それにライラさんは駆け寄る。
「アキハさん。あの仰向けになってる人達」
カノンは分かっている様だ。
あの布を被せられた人たちは―――死んでいる。
死体。
十数人ほどの死体だ。
「シスターライラ。私たち数名以外皆……」
報告しようとした修道女は目の端に涙を溜め、震え始め、それをライラさんが抱きしめる。
「アキハ……人って簡単に死ぬんだな」
ふとミルフィが言うと私は静かに頷いた。
そして、頭を最初の日の女の子が過った。
そうだ。
人なんて本当に、凄く簡単に、当たり前と言わんばかりに―――死んでしまうんだ




