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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と『戦時の青春』と『初デート』と  作者: 橋本 直
第四章 『特殊な部隊』の隊長の青春

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第19話 それぞれの戦後

「そうして戦争が終わった。開戦派の若手の将校連は本土決戦を主張したけど、開戦派の中でもこの戦いを始める決断をした古株の将軍たちでもこれほど見事に負けると思っていなかったみたいだね。連中は地球圏や遼州圏での甲武の権益を守って来た外交官である義兄貴(あにき)に泣きついてなんとかしてくれって話になったんだ」


 そう言うと嵯峨は甲武を終戦に導いた全権特使だった西園寺義基の娘であるかなめとかえでにいつも通りの抜けた表情で目を向けた。


 そしてタバコを一服すると静かに話を続けた。


「まあ、さっきの俺とお蔦さんのことでどこまでも手が回るような義兄貴だもん。いったん腰を上げると義兄貴の仕事は早いもんだった。兄貴がまず目を付けたのが遼北人民共和国だ。遼北にとっては、甲武のわずかな利権を得るために、本土決戦を覚悟した相手と戦うのは損が大きすぎた。それに東和が戦時国債の引き受けを断ったせいで、遼北の継戦能力も限界に近かった。そこで義兄貴は、伊星の開発権の一部を譲ることを条件に休戦をまとめた。最初に手を引けば利益が得られると、他国へ見せつけたわけだ。そもそも甲武本土への攻撃に地球圏の最強国家であるアメリカがなぜか二の足を踏んでいたから、他の国も遼北の甲武との休戦協定締結をいい機会だと見て次々に個別に甲武と休戦協定を結ぶ形であの戦争は煮え切らない形で終わりを迎えた。ただ、俺は戦時中の行いが原因でアメリカ軍に捕らえられ銃殺された……まあ、俺は不死人だから銃殺されたくらいじゃ死なないんだけどね」


 嵯峨は皮肉を込めた笑みを浮かべた。


 何度か聞いていたかなめの父の外交手腕だが、ただ戦争を終わらせたとしか聞かされていなかったものの戦争を終わらせた方が利益になるとまず最初に休戦する相手を優遇して他の国の戦意を削ぐと言う形だったことは初めて知った。


 遼州人の誠には戦争は嫌だから止めるものだが、地球人たちにとってはあくまで利益の問題なのだと。


 遼北人民共和国も元は地球人の中国と言うところからやって来た元地球人たちが打ち立てた国だった。

 

 そもそも損になる戦争はしない。勝てると分かっていてもそこでの損害と提示された利益を比べて戦いをやめた方が得になると分かれば戦いをやめる。誠には、戦争すら損得で止める地球人の考え方が、少しずるくも、同時に恐ろしく合理的にも思えた。

挿絵(By みてみん)

「そうだね。アタシはとりあえず戦争が終わったから新さんが帰ってくるとそればっかり考えて西園寺様の御所の中の土地の食客向けの長屋と新さんのお屋敷を往復する日々を過ごしていたんだ。そしたら……その長屋の新聞屋に出入りしている若いのが新さんは地球で銃殺されたとか騒いでるんだ。でも、その頃はアタシは新さんが銃で心臓を撃ち抜かれたくらいじゃ死なないなんて知らないもんだから新さんが銃殺されたと聞いて首を括ったんだよ。でも、首を括ったところを長屋の連中に見つけられてね。完全に死んだと思われて、そのまま葬式の支度まで始まった。ところが、その最中にアタシは息を吹き返しちまったんだ。まったくこれじゃあどこかにありそうな落語だよ……」


 お蔦は嵯峨を見ながら自分の短慮を嗤うように隣に座る嵯峨の肩に手をやった。その顔は笑ってはいたが、嵯峨の肩へ置いた手はわずかに震えていた。


「でも息を吹き返して慌てて逃げていく長屋の連中の後ろ姿を見ながら分かったんだ……アタシはもう普通の人間じゃなくなってる……こんなことはあり得ないってね。たぶん食客の誰かが騒ぎを御所中に広めたんだろうね……その時珍しく西園寺康子様がお見えになってね。そして言われたんだ。アタシはもう普通の地球人じゃなくなっているんだって……それも新さんのおかげだったんだね。ただ、それだけ言っていなくなっちまうなんてのはあの人は少し変わったお人だね。義基公の奥さんだってことは知ってたけど……どう見ても良い親父さんと言う風体の義基公から見るとその娘と言う見た目の美しいお方だったんだが……その目はまるで氷のようで……正直怖かったよ。本当にその気配が冷たくってどこか怖いお人だったね……義基公がどこまでも人を包み込む人情の分かるお人に対して康子様は……あの二人が夫婦だなんてアタシには信じられないね」


 お蔦の言葉に哀しみの色が浮かんだ。そしてお蔦の康子評にかなめは大きくうなずき、かえでは相変わらず自分の前髪を弄るばかりで聞いている様子が見えない。誠はまだ見ぬこの二人の姉妹の母である康子がどのような人物なのかを聞きたかったが、嵯峨を見て黙り込んだ。


「義姉(ねえ)さんは昔からあんな人だよ。お蔦を見て言いそうなこととその後すぐ立ち去るのも義姉さんならそうするだろうね。まあ、すべては俺のせいだってことなんだよね。そして俺は三年後、アメリカ陸軍に捕らえられていた法術師の実験設備を俺に残された数少ない法術を発動して吹き飛ばして脱出した。ちょっと連中の研究の理由に頭に来ることがあったんでね。俺が犯した罪を考えればその地で永久に地球人たちの好奇心を満たす使い減りしない実験動物として朽ち果てても仕方ないかと思っていたが、連中は俺が考えるよりあまりにあくどい人間でそれが俺には許せなかった。あそこにいた法術師は、俺みたいな戦争犯罪人ばかりじゃなかった。何の罪もない奴までいた。それが数日ごとに一人、また一人と消えていく。研究者どもは、それを俺の前で笑いながらそのことをおもしろおかしい出来事でも語るように話していたんだ。殺した相手と俺との違いすら、連中には理解できていなかった。だから……と言って俺がしたことが許されるかどうかは別だがな。何でもあの後で一つの州全域が立入禁止になるとまでは思ってもいなかったけど……あんな目に遭ってまでもまだ俺は世間が見えているとは言えなかったかもしれないね。まあ、当時の俺の年がかなめ坊くらいと考えるとそれも当然……だろ?かなめ坊。俺も当時は拳銃は必要な時しか持ち歩かなかったよ?」


 相変わらず深刻な話題になるとこうして誰かを弄るのは嵯峨の癖で誠も嵯峨と顔を真っ赤にして嵯峨をにらみつけるかなめを見比べた。


「叔父貴!なんでそこでアタシの話が出てくるんだ!アタシは関係ねえ!」


 かなめは当たり前のように嵯峨に噛みついたが、嵯峨はニヤリと笑っただけで無視を決め込んだ。

 

「ぶっ壊れた研究施設の中で全裸で呆然としている俺だったんだけど、まあ、俺の事が心配で迎えに来てたかつての部下だった連中のおかげで面倒な手続きもせずに色々手を使ってそのまま地球圏を脱出して甲武に舞い戻ったんだ。そうでも無きゃあの国が俺みたいな都合のいい実験材料を簡単に手放すわけがない。あの爆発は派手だったから連中が来ていなかったらアメリカ軍も血眼になって俺を探して再びひっとらえて別の実験施設で同じ目に遭ってたと思うよ」


 嵯峨は再びタバコに手を伸ばした。そこにはなぜか安堵したような笑みが浮かんでいたので誠は断片的に知っているアメリカ陸軍の嵯峨への実験については嵯峨自身あまり触れたくない事なのだろうと思っていた。


「戦争が終わって三年後だろ?そんときにはアタシは西園寺様の御所の中の長屋にいたよ!じゃあなんで新さんは相模屋時代に聞いた話みたいに気軽にアタシも住んでる食客達の長屋に寄らなかったのさ!アタシはそこで新さんが来るのを首を長くして待ってたんだよ!新さんが生きているって知った時、必ず御所に舞い戻るか嵯峨のお屋敷に戻るに違いないって長屋からあの御成門まで通ってたアタシの気持ちをどうしてくれるんだよ!」


 激しい口調でお蔦はそう言った。その真剣な瞳を一瞥した後、嵯峨は遠くを見るような視線をランに向けた。


「こればっかりは俺のわがままだ。その時にお蔦さんがあの幸せな時間を覚えているなんて俺には思いもつかなかった。だから俺は別の目的をそれに優先したわけ。それは……ランよ……お前さんを倒すことだ。それが当時の俺の目的だった。お前さんがいつも言ってるお前さんを利用して権力を握り、独裁者となったガルシア・ゴンザレス大統領の座っている『翡翠(ひすい)の玉座』。甲武のこれからなんかよりもあそこにあのデブが座っているのが俺にはどうにも腹に据えかねてね。その支配する央都近郊は群雄割拠する乱れた元遼帝国である『遼南共和国』と呼ばれた土地だ。そして、その権力の源である『真紅の粛清者』クバルカ・ラン。これを打倒しなければ俺の生まれた国……そして数々の間違いを犯した国は取り戻せないのは分かってたからな」

挿絵(By みてみん)

 ゆっくりと顔をランに向ける嵯峨とそれを見てニヤリと笑うラン。その二人の目がぶつかる様を見てその後の激しい遼南内戦の火花は、この時すでに散り始めていたのだと、誠は知ることになった。


「ただ、一介の甲武に居場所がなくなった俺と俺の部下の二百人にも満たない兵でお前さんをどうにかできると考えるほど俺も驕っちゃいないよ。その為にはしっかりとした後ろ盾と入り乱れる群雄たちを結び付ける何かを見つけてこれを飲み込むなり飲み込まれるなりしてまとめ上げてお前さんを倒す統一戦線を作らないとお話にならないからね。俺はそのための準備のためにとりあえず足場を固めようと茜を連れて東和を目指そうとした……そのための準備資金を稼ぐためには西園寺御所や嵯峨の屋敷に居座っていたらただの軍人としてまた甲武陸軍のどうでもいい役職を振られてそこにしがみつくことを迫られる……何てこと今の俺を見ているお前さん達なら分かるけど出来ると思う?」


 どんなに深刻な話題の間にもそんな自虐ネタをはさむのがいかにも嵯峨らしかった。


「さらに甲武じゃ厄介なことに前の戦争での開戦派の連中が看板を『官派』に掛け替えてまた動き出した。それに対抗する形で義兄貴を『民派』の大立者として、甲武を二分する派閥抗争が始まった。西園寺の屋敷でも俺の屋敷でもそこに俺がいるというだけで嫌でも『民派』の貴族達が押しかけてきて俺が遼南に行くなんて言うことが出来なくなるのは間違いなかったんだ。それが嫌だから俺は鏡都の主君が戦死して空き家になった廃墟の軒先とか岡場所よりももっとひどい泥とヘドロに塗れたドヤ街を茜を連れて転々としたんだ。茜もその頃は覚えてるだろ?」

挿絵(By みてみん)

 嵯峨は相変わらずのとぼけた視線の先のランと茜に笑いかけた。ランはその視線を受けてどう見ても8歳女児の姿からは想像できない鋭い眼光を嵯峨に向けた。


 一方の茜は四大公家の姫君が暮らすにはどうにも似つかわしくない廃墟やドヤ街での暮らしを懐かしく思い出すようにこれまで父への敵意むき出しだった表情を緩めて静かにうなずいた。


「でも、そんな時からデカい夢を隊長は立ててたもんだな?このアタシを倒す?随分とまー、大きく出たじゃねーか。『最弱の法術師』であるアンタが?そんなの無理な話じゃねーか?最終的にアンタに負けたアタシが言うのもなんだが、ガルシア・ゴンザレスに歯向かう連中はどれもアタシが出撃したと言うだけでそれまでの反抗的な態度が一瞬で変わるんだぞ?そんなアタシを最初から狙ってたとは……随分とまあ気が長い話だな」


 ランは自信ありげにそう言い放った。


「そうだ。無理な話なんだ。後ろ盾?誰を頼るのも無駄だよ。肝心の遼北はあれから国内で派閥対立でそんなことに関わってくれるはずがない。隣の西モスレムの国王は俺のことが本当に嫌いでね。そして東和と地球圏だが……東和は『一国平和主義』が国是で、支援を期待するだけ無駄だし、地球圏は軍閥のいくつかに唾を付けてお前さんを倒した暁にはどんな無茶な要求をしてくるか分かったもんじゃない。だから、自分でどうにかお前さんとかち合うことだけを最初は考えた。ただ、勝てはしないが時間を稼ぐくらいの強さを身につける必要があるってね。ガルシア・ゴンザレスも切り札のお前さんが俺に足止めされてるとなれば勝手な真似ができない上に、他の軍閥がいつ寝首を掻くために動くか分からないとね。それで俺は時々義姉さんのいる西園寺別邸を訪ねたんだ……自分の法術師としての限界を試そうって考えてね」


 嵯峨はランのすごむような視線を避けてかえでに目をやった。


「お母様の所ですね。そこで不死人にしかできないような修業を続けた……聞いてますよ。あの時の義父上は狂気の領域に入っていたと……これ以上強くなる要素なんて何もないのに必死に強さを求めていた狼みたいな風貌だったと常々お母様はおっしゃってましたから」


 かえでは相変わらず余裕のある表情でそうつぶやいた。


「そうかい、じゃああのアタシの選択も正しかったのかもしれないね。それで新さんはあのこの世の地獄と呼ばれた『遼南共和国』を倒したんだろ?それなら二十年ぐらいなんて待ってあげるよ。だから今こうしてアタシが惚れ直した新さんになったんだから。そこのちっちゃい子にも感謝しなきゃなんないかね?アンタのおかげで新さんはより立派になったよ」

挿絵(By みてみん)

 お蔦の感謝の方向が理解できないと嵯峨には向けていた余裕の笑みが急にランの顔から消えて当惑の表情が浮かんだ。そのいつもの表裏の無いランの表情の変化に誠とかなめは噴き出していた。


「結局、新さんに会えなかったアタシは御所にお世話になって五年くらいした後だったかねえ……そのまま御所を出て日川宿に舞い戻って小さな店を始めたんだ。このまま新さんと会えなくても仕方がない。でもアタシには康子様が言うには長すぎる時間がある。だったらいつまでも限りある命の義基公には頼っていられないってね」


 お蔦はそう言って静かに天井を見上げた。


「なんだよ、その店くらいは教えてくれれば東和に来てからも『殿上会(でんじょうえ)』とかの抜けられない用事で甲武に入ってたんだからその時に会えたのに……って過ぎたことを言っても仕方がないね。俺もいくら鍛えても今以上には強くなれないと分かって自分の能力の限界を悟ったわけだ。所詮、俺はいくら鍛えて狂気の領域まで至ったところで『最弱の法術師』でランの敵になんてなれない存在なんだってね。そしてこんなところでいくら時間を潰していても、独裁者に苦しむ人が増えるだけだと考えるようになった。そして、甲武に舞い戻って三年くらいして……茜が十三歳になった年に甲武を捨てて東和に移った。もう後ろ盾を探すことなんてやめて東和でランの主である独裁者がどんな馬鹿をしでかして自滅の道を歩むことになるかを見定めてその隙を突く機会をうかがおうと考えたんだ。俺には確かに戦ってランに勝つ見込みは無いが、状況を読む力と『策』がある。そう自分に言い聞かせることしか俺には出来なかった。当時の俺にはそのことしか頭になかった……お蔦さん、すまないね」


 嵯峨はいつにない柔らかい笑顔でお蔦を見つめた。


「そうかい、男なんてみんなそんなもんだろ?アタシは康子様の言ったとおりに一向に老けていかない自分の身体を不思議に思いながら店を切り盛りするのに必死だった。近づく男は居たよ……ただどれも新さんみたいな力のある生きた目はしていなかった。太夫時代に上客ばかり相手にしていたせいだろうかねえ……どの男に抱かれても思い出すのは新さんの事ばかり。そうするうちに男なんてどうでもよくなってきちゃってね。結局、アタシには新さんだけ。心も身体もさ」


 そう言うとお蔦は遠くを見るような目で嵯峨を見た。


「ああ、お蔦さんにしゃべらせとくとかなめ坊たちがうるさいから俺から良い話の続きはするわ。東和に移って3年後。俺は当時の遼南帝国の反政府武装勢力の一つである遼南人民戦線の理論的指導者でかつての恩師だった人物の誘いを断れずに遼南に向かった。ランを倒せなきゃあの独裁者はどうにもできねえことは分かっていたがもう待てなかった。ただ、俺はツイていた。俺の陣営に遼州人をこの星に導いた『女神』本人が加わったんだ……あの奇跡が無きゃ……俺はランに殺されていただろうな。俺が何かをやったって?俺はただツイてただけ……そうだと思うよ」


 嵯峨は諦めたような視線をランに送った。


「あのシャム……ナンバルゲニア・シャムラードと会ったのか?アイツは隊長とどこでどうやって会ったのかを何回も聞いても言わねえし、手紙にも何も書いてこないけど……まーアイツに具体的にそれを文章にする力はねーだろーがな……アイツの文章力は神前どころか島田以下だもんな」


 皮肉を込めた笑みを浮かべてランは嵯峨に笑いかけた。


「ともかくあのナンバルゲニア・シャムラードという存在とその愛機であるシュツルム・パンツァー『クロームナイト』のおかげで俺はランを倒すことが出来た。その後も色々あってね。シャムはランに勝つための切り札だったんだ。その後も色々と悪だくみを企む馬鹿な軍閥の首領どもを血祭りにあげるか懐柔したりする方法で俺は戦いを続けて遼南を統一した。そっから先はあんま話したくねえや。そんなこんなで今はこの第三期『特殊な部隊』の隊長をしているわけ。どうだ……これでお蔦さんと俺が出会って今俺とお蔦さんが再会した時までの話は繋がったろ?」


 嵯峨は何かをごまかすように話を端折った後そう言ってタバコの煙を吐いた。タバコの煙を追う嵯峨を見ながら誠には、この目の前の『駄目人間』扱いしていた男が、ただの女好きの『駄目人間』ではなく、いくつもの国の運命をねじ曲げてきた存在なのだと、今さらながら思い知らされた。


「アタシは日川の小料理屋の常連客の一人からなんでも嵯峨惟基と言う元甲武陸軍の有能な軍人が遼南で暴れてるという噂を聞いてね……もうアタシのことなんて忘れちまったに違いないと思い定めて店の切り盛りに集中したんだ。そうこうしているうちに年月が経って、十年前にニュース映画で遼南共和国の首都央都が陥落したと聞いて……あの新さんならそのくらいのことはやってのけるだろうと自分のことのように喜んで……でも遼帝国は入国にものすごい手間がかかると聞いて会いに行くこともできずにいたんだ。それがこの前の『近藤事件』のニュース映画で、なんでも司法局実働部隊とか言う部隊の隊長を新さんがやっていて、金さえあれば入国に手間がかからない東和にその本部があると聞いて……店を処分して身一つで今ここにいるんだよ」

挿絵(By みてみん)

 そう言うお蔦の目には涙が浮かんでいた。


 確かに二人の出会いから今までの出来事がこれでこの場にいる全員の中でつながった。


 最初に西や誠が誤解したような話は一つもなかったのは事実だった。


 そして誠には、毎朝当たり前のように出勤してくるこの隊舎さえ、無数の偶然の末に辛うじて存在しているもののように思えた。

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