第16話 『遊女六作』誕生
「でも、あんなに初めの日に新さん達に押し込まれるようにして相模屋に来て、アタシ等を不思議な生き物にでも出会ったような目で見ていた一学さんがその次の日にはあんなに変わっちまってアタシ等の絵を描きたいから道具を取って来るとか言い出すようになるなんてアタシも思わなかったよ。その一学さんが描いた、あの有名な絵のおかげであの店が女郎屋でなくなっちまうなんて……ああ、この話はおそらく新さんも詳しくは知らないだろうけどね」
お蔦は遠い目をしてそうつぶやいた。誠も同じく絵が好きな人間として、嵯峨から若い頃の話を聞くうちにどこか島田と似たような雰囲気のある安東貞盛や赤松忠満のようないかにも若く自信にあふれた軍人達の中でも、そもそも幼少時から日本画家としての才能を知られていたというどこか軍人らしくない嵯峨が言うには甲武の軍部によって英雄像を作り上げられたエースパイロット、戦時中には『鬼美濃』と呼ばれ、死後には『青葉の筆』と歌われた斎藤一学に興味を持っていた。
「ああ、一学とお美代さんの話か?まあな、あれは……俺からすればあの戦争の中でもありふれているけれどもそれが身近なだけにあまりに悲しい話さ。あの戦争で一学は俺達四人の中で一番死ぬべきじゃない人間だったんだ。アイツは戦争から帰ったら軍も武家貴族の濃州コロニーの荘官の地位も捨てて日本画家として生きていくと俺と二人になるとその事ばかり語っていたものな。そしてその際にはお美代さんを身請けして妻に迎えると笑顔で言ってた。アイツもコロニー群一つの領主として岡場所の女郎を妻に迎えるなんて言ったら家臣になんて言われるか……軍を辞めて日本画家一本で生きていくなんて言ったらどんな顔されるか分かってたはずだ。でもそんな俺から見ても夢みたいな話を真面目に語るアイツの目は本気だった。一学とお美代さんの二人の間柄……あれが本当の純愛と言う奴なのかな……俺みたいな人間に死んだ後に言われたところでアイツも迷惑なだけだろうけどね」
嵯峨はそう言うと静かにうつむいた。すべてを捨てて芸に生きる。ふとアメリアの方に目を向けるとそこには静かに俯いて涙をぬぐういつもは見られない光景が繰り広げられていたので誠は言葉を失った。
「かの有名な『お美代、一学の恋の物語』ですね……場末の岡場所の一女郎と殿上武家貴族の軍学校の学生との、結ばれることのない恋の物語……私も廓の中で芋ばかりで白米がほとんど入っていないご飯を食べながらあんな恋がこの世にあるのかと信じられない思いでいました。あまりにも悲しい物語です。今でも思い出すだけで涙があふれてきます」
最下級の女郎だった過去を持つ第二小隊二番機担当の渡辺リン大尉は涙目でそうつぶやいた。この場にいる岡場所や花街に詳しいかえでもうっすら涙を浮かべていた。
一方の父の嵯峨の乱行が許せないということしか考えていない茜は不機嫌そうに黙り込んでいた。
そんな一人で実父の恥に憤っている茜を見ながらかなめはニヤニヤ笑って嵯峨がいつくだらない話を口にしてお蔦を呆れさせるかを待っていた。
そしてそもそもそのような男と女の関係を理解できないランとカウラだった。そして誠もこの中で誰に一番立場が近いかと言えばランとカウラの立場に近いと思ってただその戦地で夢を見ながら戦死した青年画家とその思い人の遊女との関係の話に耳を傾けていた。
「ああ、たぶんリンやかえでや……もしかしたらアメリアやかなめも部分的に知っている話かもしれないけど、そんな世間で伝わってる話にはかなりの脚色があるもんだよ。お話としては実際のお美代さんより、もっと虐げられた女郎として描いた方が物語としては面白いし、一学が厳しい父の支配する家に縛られた悲劇の美少年と言うことにしといた方が芝居にした時に絵になるもんね。そもそも一学の親父はこの時はすでに死んでいたんだから親父なんて出てくるはずがない。でも現実はもっとどこにでもある当たり前の若い男と女の恋のお話にしか俺には見えなかったよ。たまたま男が女を買いに行く岡場所でそんな男と女の運命の出会いが起きたと言うだけの話だな。人が聞きたくもない程度の話でいいのなら甲武にはそんな男と女の出会いの物語なんて街中に転がってるなんて言ったら、そんな事とは全く無縁の神前には甲武がさぞ理想郷に見えるんだろうけど現実は違うけどね。まあ、神前がこの話を聞いて地球人の国甲武を誤解しかねないくらい、遼州人がほとんどの東和ではこんな甲武育ちの俺からすると珍しくもない出会いの話を今のところ聞いたことが無いのは事実だけど」
とりあえず嵯峨は目の前の聴衆の中では一番反応が面白いのは誠だと認めたようで明らかに誠を意識しながら話を続けた。
「確か……夕飯にはまだ少し早い時刻に、たまたま一学が、お蔦のところへ向かう俺の後をついて歩いていた時だった。その店の一番のごひいきのお客の座敷に呼ばれていくお美代さんとすれ違ったんだよねえ。神前にはそれが後々歌にも歌われる出会いになるなんて想像もつかないだろ?俺がお蔦に三味線を教えているところに乱暴に襖を開けて入って来た一学のその辛そうで涙を流しそうな顔を俺は今でもはっきり覚えているんだよ。一学が一目見た時から変わったのは俺にも分かった」
そう言うと静かに嵯峨はタバコをふかした。その間の取り方がいかにも嵯峨らしいので誠は苦笑いを浮かべていた。
「それから一週間。ほとんど俺達がすることが無い時に自由に使って良いとされていたつけ馬のための掘りごたつで俺と貞やんで店の女の話をするのに忠さんが耳を傾けている間も一学は俯いてせっかく店の女の絵を描くために持って来た画材にも手を伸ばそうともしないのを見て俺もこれは何かコイツは考えがあるんだろうなと思ってた。そんなのを見たら誰だって一学がお美代さんにぞっこんだってわかるってもんだ」
嵯峨の言葉には相変わらず悪友三人の中でも一学に対してだけは思い入れが深いと言うように彼を語る時だけ嵯峨の言葉からふざけた調子が消えた。
「まあ、相手は店一番の売れっ子……俺はさすがにそれはいくら濃州の国主だったアイツでも楼主が手放すわけがないと横目で黙って様子を見ていたんだが、こんな時に黙っていられないのが義理堅いことだけが取り柄の貞やんなんだ。自分が俺にやたらと暇な女郎を追いかけまわすことで迷惑をかけていることなんて棚に上げてすべては引き受けたような顔をしてぼんやりしている一学を空いてる部屋に呼んで一学の肩を叩いてさ……『一学、俺に任せろ』っていきまいちゃってね。店一番で確実に毎晩好きでもない客を取らされるお美代と一学の心が通じ合ってることが分かるとあの義理の男は見ていられなかったんだ。客が来ない女郎ですら『新さん、貞盛さんをどうにかしてくれよ』って言われてた男がだよ?まったく俺はいつから貞やんの保護者になったんだよ」
嵯峨は苦笑いを浮かべながら話を続けた。
「そして訳も分からずに部屋に一学を残して、その足で自分の鏡都屋敷に帰って当主の親父に無断で家宝の伊賀政宗の男太刀を持ち出して家臣に見つからないように抜け出してきてそれを楼主に差し出して、『お美代を身請けするからこれを置いていく』とか言うんだよ。さすがの俺もアイツの考えなしにはこの時ばっかりはあきれ果てたよ」
心底呆れたようにおどけた口ぶりの嵯峨の様子を見て誠もつい笑ってしまっていた。
「いくら親友の為だからって言ってもそれが親にバレたらそれこそ貞やんの方が切腹もんだ。それに平民の楼主に刀なんて価値が分かるわけがないじゃないの。楼主から『こんなものでうちの一番女を好きにできるとは所詮軍人さんはものを知りませんね』と笑われてそれで終了。当然、友のために死ぬ覚悟だったアイツは怒りに怒って楼主に食って掛かってなんならここで切腹してやるとか暴れるんだからこういう時にすべてを任される俺の身にもなれって言うんだよ。俺がなんとか貞やんのオヤジさんに頭を下げて家宝を持ち出した一件に関してはとりなして事なきを得た……さすがの俺もあの時ばかりは肝を冷やしたよ」
嵯峨は呆れたようにそう言うと再びタバコに手をやった。
「そこで新さんの出番なんだよね……新さんが西園寺の太閤西園寺重基様に声をかけて、今度は楼主でもその価値が分かるような大名主の持ってる土地を一つ用意するからと言ったら楼主は態度をころりと変えたんだよ。平民なんて立派な刀を見せられてもその良し悪しなんて分かるわけがないけど、見慣れている現金がいくらでも湧いて出る土地の権利書さえ見れば態度なんてころっと変わるものさ。それで、お美代さんは晴れて自由の身となり、両想いの一学さんと結ばれたんだけどねえ……」
お蔦はまるで自分の事の様に嬉しそうな顔をしてそう言った。
「ではおかしくないですか?斎藤一学の代表作で甲武国立美術館にある『遊女六作』は相模屋で描かれたと記憶にありますが……そのお美代さんと言う方が義父上が相模屋に居候を始めてそう早く身請けされたのなら鏡都の斎藤美濃屋敷で描かれたことになると思うのですが……それではその作品の制作時の説明が多くの美術研究家のそれと食い違ってしまいます。ではなんで身請けをされたお美代さんは相模屋を出なかったのですか?」
かえでは不審そうな顔を嵯峨に向けた。さすがに教養においては嵯峨に次ぐエリート軍人であるかえでは義父の親友である日本画家斎藤一学の業績については知り尽くしているらしく、絵を見てもそれにただ感心しているだけの自分とは違うんだと誠はかえでを少し見直していた。
「ああ、俺が相模屋に世話になるようになって二月もしないうちに確かにお美代さんは自由の身になったよ。自由の身になったということは何処にいても良いってこと。当然相模屋に居ても何のおかしなことも無いと俺は思うけどね。お堅い女中や怖い顔の家臣たちにかこまれるよりも顔見知りの女郎たちといつでも楽しく話ができる相模屋で暮らしたいとお美代さんが言い出して何が悪いの?」
得意げに知識をひけらかしたつもりのかえでに向けて嵯峨は現場で一学とお美代を見た生き証人として逆にそう尋ねてきた。その言葉にはかえでも言葉も無く頭をかいて笑うしかなかった。
「まあ、お美代さんと言う人は本当に控えめな娘でね。御大名の奥方なんて私には出来ない。女郎として一生を終えます。確かに身請けをされたかもしれませんがそれは新三郎様が無理を言って用意したお金で私のお金ではありません。ですので、年季が明けるまで相模屋の調理場で働きますと言って相模屋から出ようとしなかったんだ。その顔を見て逆にお美代さんの方も本気だと思ったから俺は気を利かせてじゃあ調理場で働くにしても部屋がどこでも自由だろって言って相模屋の一番高い部屋……まあ、当時は一番の上客はお美代さん目当てでその部屋でお美代さんを抱いていたんだが……その部屋に二人を住まわせたわけなんだ。気が利いてるだろ?俺は色恋には疎い遼州人だけどどこまで行ってもその性根は粋の国甲武で作られたんだ。そのくらいの配慮は出来て当然というところかな?」
平然と嵯峨はそう言ってタバコの煙を吐いた。誠はいくつか疑問が浮かんだので手を挙げて口を開いた。
「それって……どう見てもお美代さんと一学さんをくっつけたいと言うか……くっつける方向が隊長のいつものパターンとほぼ同じことを一学さんとか言う人が望んでいるっていうことが前提なんですね?」
そんな誠の問いに嵯峨は目を逸らして相変わらずタバコをくゆらせるだけで答えようとしなかった。
嵯峨に代わって話し始めたのはお蔦の方だった。
「なあに、二人ともその時にはもう心と心が繋がってたんだよ。お美代ちゃんだって何かって言うと私と新さんのことをからかいながらもほかの男の話なんてほとんどしないのに、ろくに言葉も交わしていない一学さんのことばかり話すんだもん。時々部屋に遊びに来る安東さんや赤松さんの話なんてまるっきりだったね。でもそうして新さんの気遣いで二人で床を共にするようになっても、もうすでにすべてを差し出すつもりのお美代ちゃんのことを一学さんは見つめるだけで……最初の夜は添い寝をしただけで手も触れてくれなかったってお美代さんはアタシに愚痴ってた。でもそれが一学さんの優しさだと言って笑うんだよ。あの子も女郎なんてやってたが根は純粋だったんだね。なんで女郎屋にこんな二人が居るんだろうとアタシもドキドキしてたよ」
お蔦もまた遠い目をしてそうつぶやいた。
「その『鬼美濃』にも実は遼州人の血でも流れてたんじゃねえの?実際うちの親父お気に入りのアイツも遼州人の血を……あ、そうするとアタシやかえでも半分は遼州人……これは自爆だな」
さっきから嵯峨が調子に乗って話をあらぬ方向にもっていこうとしていながら自分から、誠と同じ『モテない宇宙人』の遼州人の血が半分流れていることに気付いてかなめはタバコを派手に吹かして誤魔化しにかかった。
「でも一学も男だからねえ……それにお美代さんは……実はこれは内緒なんだが俺も一度お美代さんに『一学にふさわしい女かどうか俺が試してやる』なんて冗談のつもりで行ったんだけど『それならお受けします。私が右大将様のお眼鏡にかなえば、一学様の妻になる資格があるということですね?』とか真顔で言ってくるのよ……そん時思ったね。恋に狂った女は怖いってね。そのまま俺を廊下で押し倒そうとするからそれはヤバいと思って……でもその時の出来事に関しては俺は被害者だよね?この行為はお美代さんが一学を思うがあまりに暴走したちょっとした過ちだよね?ってこのことはお蔦には言うなよ。死んだ一学にも俺は言わなかったんだから」
こういうところでわざと駄目なところを見せなければ気が済まないのが嵯峨だと知っている『特殊な部隊』の隊員たちは一斉に笑ったが、茜だけは相変わらず鬼の形相で父のふしだらを責め立てるような目をしていた。
「聞こえてますよ新さん。というか相模屋の女の子で新さんが手を出さなかったのは一人もいないことくらい相模屋で知らない人間なんて誰もいませんよ。それにお美代さんはすっかり一学さんに夢中でなんとか一学さんのものになりたい一心でねえ……結局三日目に耐えきれなくなってね」
そう言うとお蔦は思い出すような顔で嵯峨を見つめた。
「お美代ちゃんはまず『私はもう売り物じゃありません。だから、あなたが嫌なら私を選ばなくてもいいんです。それだけは分かっていてください』とか言うけれども一学さんはただ曖昧な返事をしてどうにも煮え切らないもんだからお美代ちゃんも耐え切れなくなってそのまま一学さんを押し倒して晴れて二人は結ばれたってわけさ」
お蔦は得意げにそう言うと童貞の誠を舐めるような視線で見つめた。
嵯峨とお蔦は若さのままに互いを求め合った。
一方、一学はお美代と同じ寝床へ入っても、最初の二晩は手を握ることすらできなかった。
確かに誠がどちらの物語が好きかと言えば後者の方なことは確かだった。
「あの頃は俺も若かったからね。しかもお蔦さんもすっかり俺にぞっこんで俺がお蔦が客に呼ばれた日に他の女郎に手を出すと文句を言うんだ。文句を言いたいのはこっちだよ。毎晩、客に抱かれてるのを知りながら俺はその間は他の女郎たちも客を取ってるから一人でこたつでミカン食ってんだよ……こっちの身にもなれってんだ」
そう愚痴るように嵯峨は言った。
「そりゃあ、それが女郎のお務めだからねえ……でも他の男に抱かれながらもアタシは新さんの事しか考えていなかったよ。ときどきアレの最中に『新さん!』って叫んじゃって嫉妬深い客と揉めたこともあったっけ」
あっけらかんとお蔦はそう言った。
「お父様の暮らしは昔も今も変わりませんのね。私には理解しかねます!いかにお父様の性根が腐っているのかだけはよく分かりましたが」
そう言いながら軽蔑の視線を浴びせて来る娘の茜に嵯峨は一瞥をくれた後話を続けた。
「茜、そんな目で見るなって。まあ、俺がこんな男なのは昔から。別に否定もしないけど娘からそんな目で見られると父親として情けなくなるけど身から出た錆か。まあ、俺はプライドゼロで売ってるから別にどうでもいいっちゃどうでもいいことなんだけどね。それよりお前ら、女郎屋ってのはいつも客でいっぱいだと思うだろ?しかし、当時は戦時色が強くてね。客は少なかったんだ。だから空いてる女郎が一杯いた。特に一学の一件が片付くとそれを狙ってた貞やんが俺の手を焼かせてくれちゃって……。あの甲武最強のシュツルム・パンツァーエースがそんな女にだらしない餓鬼だったなんて世間は知らないけど俺や忠さんは知ってるんだな。アイツも戦争中や戦後は堅物で通ってたらしいけど根は女好きでね。人気の子が暇だと聞くとすぐにその部屋に行って……まあアイツは自分では遊んでいるって俺に自慢していたもんだけど、俺から言わせればそんな女に遊ばれてるなんて感じだった。それがのちに『甲武の大百足』なんて地球軍から恐れられるトップエースに育つんだから世の中面白いよな」
嵯峨はまたタバコに手を伸ばして火をつけた。
「へえ、あの『義の人』と呼ばれて堅物のイメージのある甲武軍人の鏡みたいに言われてる御仁がねえ……叔父貴はどうだったんだ?叔父貴の事だ。一日中女を追いかけまわしてたんだろ?」
かなめはニヤニヤ笑いながら隣で顔を赤らめてうつむいているカウラと誠をしり目にそうつぶやいた。
「俺?俺は三日に一度しかお蔦さんが相手してくれないから他の女を追いかけまわしてたのは事実だから今更否定しない。さっきの話はたぶん貞やんが生きていたら真っ赤になって否定するだろうけど、俺は事実は事実と認める主義だから。だがね。俺くらいになると女の良し悪しが分かってくるの。お蔦さんクラスの女は……お美代ちゃんくらいしか相模屋には居なかったかな……それで楼主に掛け合って次の年からは毎日お蔦さんを抱いてたのもついでにここで認めちゃう。どうせ義父が金を出してるんだろ?俺に借りのある義父に、少しくらい吠え面をかかせてやろうという覚悟でね。生きてる義父の前に俺が甲武に来る原因を作った責任の話を一度もしなかったことを考えれば安いもんだろ。それにしても……あの払い、いくらになったんだろう?まあ、その分を今節約生活してるんだから人生全体の帳尻は合ってるわけだ。それより、酒とタバコで今でも贅沢三昧のかなめ坊には俺の事をどうこう言う資格は無いよ。分かってんの?その辺」
嵯峨はそう言うと優しい視線をお蔦に向けた。
「あの日々は身体が壊れちまうかと思ったよ。でも、それがアタシにとっては嬉しくってさ。身体が壊れてもいい。一緒に繋がっていたい。それしか頭が考えられなくなっていた。でも、さすが西園寺様の御威光だねえ……女郎は本来店からは出られないもんだが新さんはアタシが新さんの求めに耐えられないと分かると外に連れ出してくれるようになったんだ……というか新さんにはそうなるのが狙いだったんだろ?」
お蔦は嬉しそうにそう言って嵯峨を見つめた。
「それってもしかしてデートですか?隊長がデート……行き先はラブホぐらいしか僕には思いつかないんですけど……どこ行ったんですか?」
デートと縁のない童貞である誠はお蔦に向けてそう尋ねた。
「そこの大きなお兄さん。新さんの好きなその『ラブホ』ってなんだい?ああ、これからは新さんがいつもそばにいるんだから今度の休みにでも連れてってもらおうか。それよりデートがアタシらの言う逢引だってことはアタシにも分かるよ。逢引の先ねえ……そうだねえ、芝居見物にお花見。特にアタシは少女歌劇が好きでねえ……新さんはあんまりお気に召さなかったみたいだけど。それにしても新さんの話が分かる方の娘さん……かえでさんと言ったかね。アンタ言われるだろ?少女歌劇の男役になったらトップを取れるって。アタシも新さんがいなかったらかえでさんを一目見ただけでコロッと行っちまうね。モテるだろ?特に女に」
あまりのお蔦の迫力にいつもは余裕のかえでも戸惑いながらうなずいた。
「さすがに人を見る目のある美しい女性には僕の魅力は隠せないようですね。実際、僕はよく女性から告白されて困っているんですよ。まあ、それを全員受け入れるのが僕の主義ですが。ああ、そう言えばこの部隊で僕に告白する女性がいないのはなぜなんだろう?」
かえでは金髪をかき上げながら前歯を光らせて決めポーズをした。
「それはアタシがオメエの本性をこの隊の女子全員に言いふらしているからだ。分かったか?誰もがオメエのドSのアタシですら手に余る変態世界に入り込みたがるなんて思わねえことだ。オメエは変態だ。あんなプレイを毎日のようにされたがる奴がうちの隊に居るわけがねえ」
かなめは不機嫌そうに女たらしのプレイガールである妹に向けてそう言い放った。
「あの頃が一番幸せだったねえ……そう思うだろ?新さん」
お蔦はとなりで悠然とタバコをくゆらせる嵯峨にそう語りかけた。




