第4話 筋肉聖女、人質を救う!
その瞬間――。
盗賊の刃が、人質の少女へ振り下ろされた。
誰もが目を閉じる。
しかし。
――ガキィン!!
砦内に、金属が弾かれる音が響いた。
「……な、なんだ?」
ナイフを振り降ろした盗賊は困惑する。
少女の身体を守るように、ドーム状の白い光が広がっていた。
しかもそれは一つではなかった。
人質となっている全員の周囲に、光り輝く盾が展開されていた。
「……ま、魔法だ!」
一人の盗賊が震える声で呟く。
神聖魔法の中でも、高度な防御魔法である聖域の盾。
使用できる者でも、自分に使うことだけで精一杯の高度な魔法。
それを――。
「複数……?」
「しかも、離れた場所にいる人間へだと……?」
盗賊たちは理解できなかった。
そんなことができる人間など、聞いたことがない。
アナスタシアはゆっくりと頭目に向かって歩み始める。
堂々と歩くその姿は、女神の加護を受けた者だけが纏う神々しい雰囲気を放っていた。
「私は、誰一人犠牲にしないとお伝えしましたよ」
にこり、と微笑む。
次の瞬間――
ウォーハンマーが風を切る唸り音をあげた。
――ドォォォン!!
頭目の身体が壁へめり込んだ。
「か、勝てるわけがない……」
「うわー!!!」
盗賊たちは完全にパニックとなった。
まるで蜘蛛の子を散らすように、一斉にあらゆる方向へと逃げ出した。
「逃がしません!」
――ドゴォォォン!!
――ガキ―――ン!!
鎧も盾も意味をなさなかった。
盗賊たちは次々と吹き飛ばされ、叩き伏せられ、戦闘不能になっていった。
しかし、それぞれが同時に別の方向へ走り出したため、数名の盗賊は砦の外へ出ることに成功した。
「あ、あんな化け物、相手にできるかぁ!」
しかし――
「そこまでだ!」
低い声が響いた。
「……えっ!?」
砦の外では、ルクサリス家家令のじいやと、その指示を受けた騎士たちが待ち構えていた。
「ほら、言った通りになっただろう? こんなチンケな盗賊たちでは、お嬢様の相手にもならん」
騎士の隊長は「信じられない」という表情を浮かべながら、静かに頭を下げた。
「では、私どもは人質の救出に向かいます!」
「おうっ!」
じいやは笑みを浮かべる。
「この程度で驚いているなら、中に入ったら驚愕するかもしれんな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突入した騎士たちは、その惨状に驚愕した。
ある者は鎧ごと粉砕され、ある者は壁に上半身がめり込んでいた。
「い、いったいどうやったらこうなるんだ……?」
ちょうどそのとき――
「あ、いらっしゃいましたのね」
両肩に巨大な米俵のように盗賊たちを四、五人積み上げ、さらにその首根っこを左右の手で掴んで引きずりながら、アナスタシアは悠然と中庭へ姿を現した。
「な、何という怪力……」
部下の一人が失礼な言葉を言いかけたため、隊長は慌ててその口を塞がせる。
「アナスタシアさま、ご無事ですか?」
「ええ、ケガ一つありませんわ」
「人質はどうなりましたか?」
「全員無事です。ただ、かなりの恐怖を感じたようなので、心と身体を癒す聖域魔法によって今は眠りについています」
「おおーっ!」
騎士たちから歓声が上がる。
「盗賊たちも全員生きていますので、こちらに集めていただけるかしら」
「は、はい。直ちに!」
こうして。
盗賊団は完全に捕らえられた。
――数時間後。
「……ん?」
盗賊の頭目に意識が戻った。
「……俺は、生きているのか?」
盗賊の頭目は自分の手足を見た。
不思議と痛みも感じない。
それどころか、どこもケガをしていない。
驚いた盗賊が顔を見上げた瞬間、そこにはさらに驚くべきものがあった。
「お、お前は……」
そこには、腕組みをしたアナスタシアが立っていた。
「私は、誰一人犠牲にしないとお伝えしたはずですよ」
アナスタシアがにこりと笑顔を見せた。
その笑顔を見た瞬間、盗賊は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
次回は明日8/2の20:00に更新予定です!
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