第3話 筋肉聖女、交渉する!
「なんだ、ありゃあ……?」
砦で見張りをしていた盗賊が目を細めた。
丘の下から、一人の少女が走ってくる。
風になびく金髪。
貴族と分かる上品な装い。
「女……?」
「交渉役か?」
「でもよ……」
一人の盗賊が肩を担いだ武器を見て固まる。
「……なんだ、あのハンマーは?」
盗賊たちが困惑する中、少女――アナスタシア・ルクサリスは門の前で立ち止まった。
ウォーハンマーを静かに構える。
「盗賊の皆さん!」
澄んだ声が砦に響く。
「今すぐ降伏してください!」
「そして、人質となっている方々を解放しなさい!」
その直後だった。
――ガキン!!
ウォーハンマーが門へ叩きつけられる。
――バキン!!
さらにもう一撃。
「ちょ、ちょっと待て!」
「それ交渉じゃねぇだろぉ!!」
盗賊のツッコミも虚しく、
――ドゴォォォン!!
門は木っ端みじんに砕け散った。
舞い上がる土煙。
その向こうから、アナスタシアが優雅に歩いてくる。
「改めまして」
一礼する。
「私はアナスタシア・ルクサリス」
「ルクサリス侯爵家当主です」
盗賊たちの顔色が変わった。
「……侯爵だと?」
「……本物か!?」
「若くして跡を継いだって噂の……」
一人の盗賊が笑う。
「ってことは、とんでもねぇ人質が自分から来てくれたってことだ!」
盗賊たちが武器を構える。
「悪いな、お嬢ちゃん」
「もう帰れねぇぞ!」
アナスタシアは静かに目を細めた。
「……愚かな」
ウォーハンマーを握り直す。
「制裁開始です」
――ドォン!!
鉄槌が唸る。
構えた盗賊が盾ごと吹き飛ぶ。
――バキィン!!
二人目は壁へ叩きつけられる。
三人目は地面を転がった。
「ば、化け物だ!」
「ひるむな!」
盗賊たちは一斉に襲い掛かる。
しかし。
誰一人として彼女へ届かない。
舞うように振るわれるウォーハンマーが、次々と盗賊を戦闘不能へ追い込んでいく。
あっという間に中庭は静まり返った。
「安心してください」
「命までは奪いません」
「後ほど神聖魔法で治療いたします」
その時だった。
建物の中から、新たな盗賊たちが飛び出してくる。
「見た目で油断するな!」
「こいつ、とんでもなく強いぞ!」
アナスタシアは微笑んだ。
「ふふっ」
「つまり、まだ見た目で判断しているのですね」
くるりと背を向ける。
「では、判断していただきましょう! この鍛え抜かれた肉体で!」
背筋に力を込めた。
――ビリビリビリッ!
服の一部が、膨張する筋肉に耐えきれず裂け、筋肉が露出していく。
――バーンッ!
まるでメロンのように丸く盛り上がった肩
山のように盛り上がる腕。
蟹の甲羅か?それとも鬼が泣く姿か?と思えるような広い背中。
「…………」
盗賊たちは絶句した。
「な、なんなんだ……」
「いや、無防備だ!」
「今だ! やっちまえー!」
槍やナイフが一斉に放たれる。
アナスタシアは首をかしげた。
「あれ? じいやは『鍛え抜かれた背中を見れば、誰もが屈服する』と言っていたのですが……」
武器が迫る。
「ユースティリアさま、ご加護を……聖域の盾!」
黄金の結界が彼女を包み込む。
――キン! キン! ガキン!
飛来した武器は全て弾き返された。
「これが皆さんの返答というわけですね」
ウォーハンマーを構える。
「では――こちらの番です」
暴風のような一撃が吹き荒れた。
盗賊たちは次々と防具ごと吹き飛ばされ、地面へ倒れていく。
気付けば立っている盗賊は、一人もいなくなっていた。
アナスタシアは建物へと足を踏み入れる。
「首謀者はどこです?」
「今すぐ人質を解放し、降伏しなさい!」
その時。
「……そこまでだ!」
低い声が響く。
盗賊たちの奥から、一人の男が姿を現す。
片目には、古びた眼帯が巻かれていた。
「やれやれ、とんでもないお嬢さんがいたもんだ」
「あなたが頭目ですか?」
「ああ、そうだ」
「では、今すぐ降伏するよう命じなさい」
頭目は笑う。
「くくく……」
「お前みたいな正義感の強い奴を止めるために、わざわざ人質を取っているんだよ」
その後ろには、ナイフを突き付けられた娘たちがいた。
泣きながら助けを求めている。
アナスタシアの表情から笑みが消えた。
「……あなた!」
怒りを押し殺した声が響く。
「おっと、早まるなよ! 俺たちを倒せても、何人かの人質は確実に死ぬぜ?」
盗賊頭目の言葉に、周囲が静まり返る。
普通ならば、ここで動けなくなる。
しかし――。
アナスタシアは動じなかった。
「……なるほど」
「あなたは、人質がいるから私が何もできないと思っているのですね……」
俯いていたアナスタシアは、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、女神ユースティリアの加護を受けた者だけが宿す、神聖なる光があった。
「私は、誰一人犠牲にしません」
その言葉に、盗賊頭目の顔が歪む。
「……気に入らねぇ! 分からせるために、一人殺せ!」
盗賊の刃が、人質の頭上へ振り上げられた。
皆さま、読んで下さり本当にありがとうございます!
もし、面白かったり楽しんでいただけたり、また、続きが気になりましたら、下にある【評価用の星(★★★★★)】をポチッと押して応援していただけると、作者の励みになります!
もし、感想やレビューをいただけた場合には、もしなろうの作者様の場合には、こちらも感想を書かせていただきます!
皆さまの一票が、執筆への大きな力になります。
一言だけでもよいので、感想やレビュー、応援の星をどうぞよろしくお願いいたします!




