第38話 筋肉聖女、完全勝利の後、秘密の告白を受ける!
アナスタシアは、力強い握りこぶしを作った片腕を、まるで天を衝くかのように高々と上げていた。
そして、ほんの数秒後、衝撃音が伝わった。
――ドシンッ!
高い放物線を描き、試合会場の場外まで吹き飛ばされた教官役の男が、落下したのだ。
審判が慌てて近づき、確認をしにいく。
しかし、教官役の男に意識は無かった。
「意識無しっ! 戦闘不能により、受験生の勝利!」
そして審判は、急いで担架を要求する合図を送る。
ただ、教官役の男の胸にある不正防止の水晶が、赤く光り続けていた。
バツが悪かったためか、男が運ばれていく際に、審判はそっと赤い光を隠すように白い布を覆うのだった。
アナスタシアは、冒険者たちの視線に気づいた。
――!!! 冒険者だし、きっとこれを求めているんだわっ!
アナスタシアはくるりと背中を向け、両腕で、はちきれんばかりの筋肉を見せる。
――バァァァァァーンッ!
膨らみきって、割れる寸前のようにパンパンに張り詰めた、まるでスイカのような両肩の筋肉。
三角チョコパイと見間違えるほど、盛り上がった太い腕。
職人が力強く彫った木彫りのクマと見間違えるかのような、凹凸に溢れた背中。
バックダブルバイセップスのポーズを決め、アナスタシアは背中を魅せ続ける。
そして、ちらりと視線を動かすと、判定役の冒険者と目が合った。
すると、判定役の教官は慌てて目を逸らし、真っ青の顔のまま採点表に記載を始めた。
――完璧に決まった! じいやの言っていた通り、この背中を魅せ続けることで、完全に屈服させたんだわ。
アナスタシアはそう思い込んでいたが、冒険者たちの心は全く別のところにあった。
――まずは大学に不正判定の説明をしなければならない。
――そして、不正に関する調査を受け、責任の追及が待っているかもしれない。
――それだけに留まらず、英雄『レオン・ドラコス』が、冒険者ギルドを通じて我々に恐ろしい処分を求めてくるかもしれない……!
冒険者たちは、その後の自分たちの未来を想像し、暗澹たる気持ちになっていたのだった。
「……最早、何も弁解はできません」
「――私たちは大学や国などから、何らかの処分を受けることになると思います」
審判がそう言うと、判定役の冒険者も慌てて口を挟んだ。
「あ、あなた様はもちろん満点です! 戦闘不能によるKO勝利ですっ!」
そして、全員が口を揃えて語った。
「本当にすみませんでしたっ!」
委託されている冒険者たちは、一斉に頭を下げた。
アナスタシアはその言葉を聞き、安心したかのように応えた。
「もう、よろしいですか?」
――???
冒険者たちは困惑し、お互いに顔を見合わせる。
その中の一人が、とりあえず返答しなければと、即答をした。
「はい、十分に理解出来ましたァッ!」
両者の内心の想いは全くかみ合っていなかったが、とりあえず冒険者たちも頭を上げた。
そして、アナスタシアも、背中を見せるポーズを解いた。
「……皆さんに伝えておきたいことがあります」
冒険者たちが神妙な顔つきになった。
「この宮廷大学の騎士コースの入学試験は、魔力をあまり持たない平民の方々にとって、立身出世できる唯一ともいえる機会です」
「あなた方も平民出身の方がほとんどだと思います。どうか……どうか、若い人の可能性を、こんなことでつぶさないでください!」
アナスタシアの真摯な想いからの言葉は、平民出身の冒険者たちの心に響いていた。
皆が申し訳なさそうな顔をしている中、ついに冒険者の一人が、我慢しきれずに口に出してしまった。
「こ、今回のことは、私たちから持ち掛けた行為ではありません! 王家の方から――」
「おいっ、この馬鹿っ!」
慌てて、他の冒険者たちが男の口を塞いでいく。
「えっ!? ……どういうことですか?」
アナスタシアの中の正義の心が、再び大きく刺激されようとしていた。
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