第37話 筋肉聖女、自らの師匠を明かす!
アナスタシアは瞬時に首を傾け、ナイフによる攻撃を難なく躱す。
そして、教官役の男が突き出してきた手首を、片手で掴んでひねり上げた。
「ぐあーーーーッ!!!」
教官役の男は悲鳴を上げて、ナイフを落とした。
「な、何故だっ! なんで、ここまで対応できるんだッ?」
アナスタシアは剣を鞘にしまい、ニコッと笑顔を浮かべて話した。
「私の剣の師匠は、S級冒険者なのですよ。ですから、冒険者の戦い方もよく分かっています」
「え、S級冒険者!?」
その言葉を聞いた審判や判定役などは、お互いにキョロキョロと顔を見合わせた。
「う、嘘を付けっ! この国でS級冒険者なんて、二人しかいねぇじゃねえか!」
「あ、失礼しました。正確には『元』S級冒険者でした」
教官役の男の表情が、一気に青くなっていった。
「……えっ? そ、その方のお名前は……?」
「あ、じいやの名前ですか? えーと、『レオン・ドラコス』だったと思いますが」
「!!!!!」
その名前を出した途端、試験会場の空気が変わった。
他の教官たちの表情にも、明らかに焦燥感が現れていた。
「まっ、魔竜殺しの英雄!?」
「そういえば、そんな話も聞いたような……?」
周囲もざわつき始めた。
「そういえば、若くして引退した後、大貴族に囲われたって話だったな」
「ああ、それ以来、表舞台には出てこなくなったはずだ」
「まだ、ご健在だったのか」
レオン・ドラコスという名前は、冒険者たちにとって特別な意味を持っていた。
魔竜殺しの英雄。
魔竜との戦いで、ついに剣が折れてしまった。
しかし、自らの筋肉を駆使し、最後は素手で魔竜を殴り倒したという伝説を持つ男。
それが、『レオン・ドラコス』だった。
「そうだったのか……」
教官役の男は、完全に戦意を喪失していた。
その言葉に対し、アナスタシアは急に何かを思い出したような仕草をした。
「ああ、そうそう! じいやは常日頃から、口を酸っぱくして言っておりました」
「――ありとあらゆる可能性を考えて、最後まで油断するなと!」
「えっ?」
その直後だった。
――ドッゴーーーーーンッ!!!
火山の噴火とも思えるような、アナスタシアの巨大な筋肉に裏付けられた強烈なアッパーパンチが、教官役の男の顎に炸裂した。
教官役の男は、今度は十メートル以上の高さまで飛んだあと、放物線を描きながら地面に落下していった。
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