第29話 筋肉聖女、再び左の列へ進む!
ヨルに促され、アナスタシアも右の列に並ぶことになった。
二人がしばらく他愛もない会話をしていると、一番左の天幕から担当者が出てきた。
「準備ができた! こちらの列でも試験が受けられるようになったぞ!」
しかし、その言葉を聞いても、受験生たちは誰も左の列に移ろうとはしなかった。
先ほどのアナスタシアの発言が、受験生たちの間で広まってしまったからだ。
「……どうした? 誰も来ないのかっ!」
担当者は先ほどよりも大きな声で促したが、誰一人動こうとはしない。
その様子を見て、担当者は怒り出した。
「……おい! いい加減にしろっ! お前らの実力なら、どこに並んでも一緒だっ!」
担当者は受験生たちを睨みつける。
皆が目を逸らす中、たまたまヨルと目が合ってしまった。
「おい、お前! こっちに――」
そう言いかけたところで、その言葉に被せるように大きな声が響き渡った。
「私に受けさせてくださいッ!」
アナスタシアだった。
彼女は悠然と前に進み始める。
「え、アナ?」
彼女は振り向き、小さな声で語る。
「大丈夫。心配しないで」
アナスタシアは微笑んだ。
自分が左の列を避けるようにと伝えた以上、誰かがあの列を受けなければならない。
――ならば、自分が行けばいい。
自分なら、多少の不正をされたところで、負けることはないはず。
そして何より――。
友達になったばかりのヨルを、あの場所へ行かせるわけにはいかなかった。
アナスタシアが左の入口の前まで来ると、担当者が声を荒げた。
「……また、お前か! 今度は、そう簡単にはやらせねぇぞ!」
思わず口にした言葉だったが、それは自分たちの性質を暴露する言葉だった。
(……今度は、だと?)
(前の試験で、何かをしていたんだな……)
(彼女が言っていたことは、やっぱり真実だったんだ!)
アナスタシアは、左の天幕の中へと消えていった。
その奥からは、先ほどとは明らかに違う、不穏で重苦しい気配が漂っていた。
「あの担当者のやつ、あんなことを言ってたけど、彼女は本当に大丈夫か?」
「何か嫌がらせをしてくるかもしれないな……」
「でも、やっぱり、勇気があるなぁ。凄いよ!」
受験生たちのざわめきが広がる中、誰よりも彼女を心配している人間がいた。
――どうか、酷いことをされませんように!
アナスタシアのために、ヨルは必死に祈っていた。
皆さま、読んで下さり本当にありがとうございます!
毎日20:00頃、更新予定です!
もし、面白かったり楽しんでいただけたり、また、続きが気になりましたら、下にある【評価用の星(★★★★★)】をポチッと押して応援していただけると、作者の励みになります!
一言だけでもよいので、感想やレビュー、応援の星をどうぞよろしくお願いいたします!




