第28話 筋肉聖女、初めての友達ができる!
騎士コースの受験生が次々とやって来る。
しかし、並ぶのは唯一実施されている右の列だけだった。
「……私のせいで右の列だけになっちゃった」
アナスタシアは全力で試験に臨んだだけであり、彼女に責任はなかった。
しかし、責任感の強い彼女は、自分のせいで受験生たちに迷惑をかけてしまったと感じていた。
そのため、アナスタシアは右の列に並ぶことを躊躇していた。
そんな彼女の様子に気付き、優しそうな受験生が声をかけてきた。
「気にしなくていいですよ。対戦役の騎士は交代制のはずですから、すぐに新しい騎士がやって来ますよ」
「えっ、ありがとう。でも私、『左の列は止めた方がいい』とまで言っちゃったから……」
「いや、逆に僕はありがたかったですよ。例え時間がかかったとしても、左の列で不利な試験を受けずに済むのですから」
「そうなの? 私はかえって余計なことをしたんじゃないかな?」
「そこは自信を持ってください! あなたは自分が知ったことを正直に伝えてくれただけなのですから」
その言葉を受け、アナスタシアは心に引っかかっていたモヤモヤが取れてすっきりした。
「うん、そうね。悪い事を黙っているよりはいいよね!」
「はいっ!」
受験生が笑顔を見せると、アナスタシアも安心し、自然に笑顔がこぼれた。
「すみません。もしよければ、お名前を伺ってもいいですか?」
「はい、私はヨルゴス・シデリスと申します。平民出身です」
「ありがとう。私はアナスタシア・ルクサリスです」
「えっ!? あの名門侯爵家の?」
「あ、ええ……まあ、そうです」
「こ、これは、失礼しました! 気軽に話しかけてしまい、申し訳ございません!」
譜代の名家で、王家との婚姻も何度も行ってきたルクサリス侯爵家。
その名を聞き、ヨルゴスは雲の上の存在と感じ、何度も深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっとやめて! 私は大学で皆と対等な立場で学んでいきたいから……」
「でも、僕は魔力も乏しい平民ですよ?」
「身分は関係ないわ。そもそも宮廷大学は、実力次第で誰もが対等に学べる場所でしょう?」
「それはそうですが、平民と貴族さまでは……」
「ねえ、私はあなたを『ヨル』って呼ぶから、あなたも私のことは『アナ』って呼んで!」
「!!!」
「お願い! もし、お互いに受かったら……友達になって欲しいのだけど……」
「わ、私なんかでよろしければ……光栄でございます」
ヨルゴスは再び頭を下げる。
「いやいや、敬語は止めて。友達ならそんな言い方しないでしょう?」
「え、でも……」
「私がいいって言ってるのだから! ねえ、ヨル?」
「はい………………ぅん、ヨル」
アナスタシアは若くして侯爵家を継いだ。
領地経営や公務、そして毎日の鍛錬。
彼女は同年代の子供と遊ぶような暇はなく、周りは常に大人ばかりだった。
そのため、彼女は宮廷大学に入学したら、叶えたい密かな夢があった。
それは――友達を作ること。
そして今日、大学入学前ではあったが、その願いが初めて叶った。
アナスタシアは、初めて対等な友達ができたことが、本当に嬉しかった。
「よろしくね、ヨル!」
「こちらこそ……アナ……さま」
「だから、もう! それは止めてって!」
「う、うん…………アナ」
その言葉を聞き、アナスタシアは笑顔になった。
――友達。
その言葉を、アナスタシアは心の中で何度も反芻していた。
しかし、それとは対照的に、ヨルゴスの顔は真っ赤になっていた。
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