第25話 筋肉聖女、受験生の心を掴む!
アナスタシアは休憩することもなく、次に空いていた真ん中の列に並び始めた。
アナスタシアがふと視線を移すと、右の列に並んでいた受験生に気が付いた。
その受験生は、即座に目を逸らした。
彼は先ほどアナスタシアに暴言を吐いていたため、膝を震わせながら「どうか話しかけられませんように」と祈っていた。
「あなた、さっきの……」
「す、すみませんでしたぁっ!」
受験生は、深々と頭を下げて謝罪した。
それに釣られて、アナスタシアを批判した受験生たちが、一斉に頭を下げた。
「すみませんでしたっ!」
「えっ? えっ? 何で?」
アナスタシアは全く気にしていなかったため、なぜ謝罪されたのかが分からなかった。
「どうして私に謝罪するの?」
すると、受験生の一人が、理由を説明した。
「さっき、失礼なことを言ったから……」
「なんだ、そんなことを気にしていたの! 私は全く気にしていないから、あまり気にしないでね」
アナスタシアの丁寧な応対を受けて受験生たちは安堵し、アナスタシアとの距離も一気に縮まった。
「えーっと、貴族さまですよね?」
「うん、貴族ではあるけれど、大学では平民・貴族の区別はないはずだから、もっと気軽に話してほしいかな」
アナスタシアに差別の心がないことが分かると、受験生たちはむしろ積極的に声をかけ始めた。
「対戦相手の教官が上空に吹っ飛んでいたように見えたんですけど、あれ、そのハンマーでやったんですか?」
「え? あー、うん」
受験生たちから歓声が上がる。
「強い! 強すぎます!」
「こんな人いるんだ!」
「俺は最初、左の列で戦ったんだけど、一方的ですぐにやられちゃったよ」
その言葉を聞いたアナスタシアは、ふと表情を曇らせた。
「……一つ聞いてもいい?」
「え? 何でしょう?」
「あなたは平民出身なの?」
「はい、そうですけど……」
アナスタシアは沈黙した。
受験生たちは、「急にどうしたんだ?」と疑問の表情を浮かべる。
「皆さんに伝えたいことがあるの。左の列の教官は、平民を差別していたみたいなの」
受験生の間に動揺が走る。
「たぶん、次の試合では別の教官になると思うけれど――」
「念のため、左の列は避けた方が、公平な試験を受けられると思うわ」
受験生たちの間でざわめきが起こり始めた。
「それでか!」
「道理で容赦がないと思った」
「そういえば、貴族っぽい受験生は左を選んでいたぞ!」
アナスタシアは、不正や差別が大嫌いだった。
他の受験生たちはライバルだったが、彼女は自分が知り得たことを全て正直に伝えたのだった。
それは、両親からの教えだけでなく、自らの加護である女神ユースティリアが、正義や導きの神であったことも影響しているかも知れない。
しかし結果として、アナスタシアは、他の受験生たちに「正義」や「勇気」の心を芽生えさせ、そして何よりも「信頼」を得る結果となった。
こういったアナスタシアのエピソードは、後に語り継がれていく伝説の一つとなっていった。
受験時のエピソードでは、「あえて強い敵を選んでいた」「受験の不正を暴いた」などがあった。
しかし、その中でも特に有名になったのが、「ウォーハンマーの一撃で、悪徳教官を七メートル上空まで吹き飛ばした」というものだった。
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