第19話 筋肉聖女、魔法の実技試験を受ける!
アナスタシアは鍛え上げられた筋肉を披露した。
しかし、その直後から受験生たちの注目はピタリと消え、むしろアナスタシアが受験生の方を見ても、目を逸らされるようになっていた。
――あれ? 急に余所余所しくなった? なんで???
少し戸惑ったアナスタシアだったが、そのまま魔法の実技試験の列に並んだ。
そして順番が巡ってきた。
「えーと、君は騎士コースの受験生だね。一番得意な魔法を一つ披露して」
「たくさんあるのですけど……」
その言葉を聞いて、試験官はイラっとした。
試験官は、次々と訪れる受験生を捌いていかなければならない。
試験の流れだけは滞らせたくなかった。
「忙しいんだから、一番強力な魔法とかはないのっ?」
「……あ、では、『神々の怒り』を!」
「はぁ? 神話に出てくる魔法じゃないか!」
「あら、術式はシンプルなんですよ。魔力を、ものすごく強い光のエネルギーに変換するだけなんですから」
「あー、分かった分かった。それでいいから早く見せて」
「え、ここでですか? 危ないのでは?」
試験官はイライラが増してしまい、強い口調で言ってしまった。
「きみさぁ、もしかして大学を馬鹿にしているのか?」
「防御魔法もあるし、専門の魔導師もたくさんいるから、君なんかが心配するようなことじゃないんだよっ!」
その言葉を聞き、アナスタシアはかえって安心した。
「そうですか! 分かりました。では、いきますね!」
アナスタシアが魔力を込め始めると、空に光のエネルギーが集まり始めた。
――ふん、なかなかやるじゃないか!
このくらいで終わると思った試験官だったが、膨大な光のエネルギーは、止まることなく膨らみ続けていった。
周囲の受験生も、上空での異常事態に気付き、ざわつき始めた。
「なっ! これは!?」
「えーと、まだまだですよ。まだ、ほんの少しの魔力しか使っていませんから!」
「……ところで、攻撃目標はこの大学でよろしいですよね?」
「はうぁっ!」
試験官は動揺し、尻もちをついた。
しかし、膨大な光のエネルギーはすでに大学の敷地を超えて広がり続けていた。
「私も全力でやったことは、まだないんですよぉ。防御魔法を、よろしくお願いしますね!」
空を覆う光のエネルギーは、すでに街全体を包むほどの大きさになっていた。
そのエネルギーのあまりの強さにより、すでに大学周辺の気温は灼熱の暑さへと変わり始めていた。
「……あばばばばばば」
試験官は、あまりにも想定外な出来事に発展したため、恐ろしさのあまり何も言えなくなってしまった。
「ただちに、止めるんだーーーーー!」
一人の魔導師が、全力でこちらに走ってくるのが見えた。
「い、今すぐ止めなさい! はぁはぁ……。こんな魔法を使ったら、王都ごと吹き飛んでしまうぞ!
「あれ? この方が大丈夫だから撃ちなさいって」
魔導師が試験官を睨みつける。
「この馬鹿者めがっ! 何故、そんなことを言った!」
「は、はぐぅ……。こ、こんなことになるなんて思いませんでしたぁ!」
「相手の力量も見極めず、一人一人に真摯な気持ちで取り組んでいないから、ミスを犯すのじゃ!」
「す、すみませんでしたぁぁ!」
その魔導師は、次にアナスタシアの方を向いて頭を下げた。
「私は宮廷大学学長のマギストロスと申します」
「えっ!? 学長さま?」
「申し訳ございません、今すぐ、その魔法を止めていただけませんか?」
「え、でも試験中ですよね?」
「大丈夫です。すでに実力のほどは十二分に分かりましたので」
「でも、とりあえず最後までやらないと点数が……」
再び、光のエネルギーが空に溜まり始める。
「いやいやいや、あなたさまは満点です! 大丈夫です! すでにこの科目は満点ですっ! どうぞ安心しておやめ下さい!」
マギストロス学長は、アナスタシアに慌てながら話した。
「やったぁ! じゃあ、この中途半端なレベルで撃っていいってことですね!」
「違いまーーーすっ! 違いますっ! 違いますっ! 絶対にお止めください! このレベルになったら、もう誰にも防ぎようがありません!」
「え、そうなのですか? さっき、この方が大丈夫だって……」
アナスタシアが試験官に目を合わせると、彼は全力で首を横に振りながら答えた。
「ぜ、絶対に無理です! いい加減なことを言ってしまい、申し訳ございませんでしたぁーーーっ!」
「分かりました。では、消しますね!」
今度は、上空に溜まってしまった『神々の怒り』の魔法を消すため、アナスタシアは空に向かって強力な消滅魔法を唱えた。
その直後、上空にあった光のエネルギーはパーンという音と共に一瞬で消え去ってしまった。
マギストロス学長はギロリと試験官を睨みつけた。
「……お前と私は、今から王宮に報告に行かねばならぬ!」
「恐らく王宮では、『すわっ、他国からの攻撃か?』『それとも魔人の襲来か何かか?』などと、大騒ぎになっているからなっ!」
その言葉を聞き、試験官は涙目のままがくっとうなだれた。
受験票に魔法試験の項目完了の判定が施され、アナスタシアは笑顔で魔法試験の会場を後にする。
そんなアナスタシアの背中を見て、マギストロス学長は思った。
「『神々の怒り』も、膨大な魔力を必要とする伝説級の魔法だ」
「だが、それを一瞬で消し去ったあの魔法――使い手が限られる特別な神聖魔法だったはず」
「……いったい何者なんだ? あの娘は」
マギストロスは、先ほどの魔法の灼熱による汗なのか、それとも驚愕の冷や汗だったのか、どちらか分からない汗が額から流れ落ちた。
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