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筋肉聖女 ~神聖魔法より筋トレを選んだ侯爵令嬢、ウォーハンマーで無双する~  作者: みーしゃ


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第14話 筋肉聖女、国王陛下に謁見する!

 国王陛下からの勅書。


 そこに記されていたのは、アナスタシアを王宮へ招き、多くの市民を治療した功績を称えたいという内容だった。


 十四歳の侯爵家の令嬢として、きらびやかな衣装に身を包む。


――本当に美しくなられた


 思わずじいやも見とれるほどだったが、すぐに気持ちを切り替える。


 これは、貴族の社交界においては戦闘服なのだと。


「……それでは、行きましょうか」


「はい」


 こうしてアナスタシアとじいやは、王宮へ向かうことになった。


 馬車に揺られながら、アナスタシアは窓の外を眺めている。


「王宮に行くのって、侯爵家を相続したとき以来ね」


「そうですな」


「あまり覚えていないのだけど、皆が優しかったことだけは覚えているわ」


「あの当時……お嬢さまはまだ幼かったため、特別な計らいで私も一緒に謁見しました」


「覚えているわ。安心できたもの!」


「あのとき……陛下に堂々と、自分の言葉で語られたのです」


「そうだったっけ?」


――そのとき私は、お嬢さまは大変な人物になると確信したのですよ


 そんな話をしているうちに、王宮へ近づいていく。


 しかし――。


「……お嬢様」


「どうしたの?」


「少し妙ですな」


 王宮へ続く道には、かなり前の段階で、多くの騎士たちが並んでいた。


 さらに、王宮へ近づけば近づくほど、明らかに自分たちに対し、特別に歓迎していることが分かった。


 騎士たちが礼服を着て整列している。


 宮廷の役人たちも正装で出迎えている。


「なんだか、すごい歓迎ね」


「……はい」


 じいやは窓の外を見ながら、難しい顔をする。


 そして、ぽつりと呟く。


「……これは、政治ですな」


「政治?」


 アナスタシアが首を傾げる。


「どういう意味?」


「明らかに政治的な意図をもって、お嬢様の気分を良くさせようとしていますな」


「わざわざ私の気分のために?」


「はい」


 じいやは少し間を置いて答える。


「恐らく、褒美や名誉が国王陛下から授けられるでしょう」


「……いいことじゃない?」


「……そこがかえって心配なのです」


「なぜ?」


「それ以外の何か――つまり、縛りや足かせになるものが付けられている可能性があります」


「……じゃあ、そのときは断ればいいの?」


「……」


 じいやは言葉に詰まった。


「いえ……それが簡単にできるのなら、私もそう申し上げたいところなのですが……」


「どうして?」


「国王陛下が直接お与えになる褒美や栄誉だった場合――」


「正当な理由なくお断りすれば、不敬と取られる可能性がございます」


「それって……」


「他の貴族たちの前で、陛下のご厚意を拒絶することになりますからな」


「さらには……」


 じいやは少し言いにくそうに話した。


「最悪の場合、王家に対する反意があると疑われる可能性すらあるのです」


「なるほど……。じゃあ、受けるしかないってこと?」


「……それは」


 アナスタシアはまだ十四歳。


 もちろん侯爵家当主としての教育は受けている。


 しかし、王宮という耳目の集まる場所で、国王からの提示に対し、その意図を瞬時に読み取って適切な返答をする。


 そんなことを、十四歳の少女に求めるのは酷というものだった。


「申し訳ございません、お嬢様」


 じいやは頭を下げる。


「お嬢様は、すでにルクサリス家のご当主でございます」


「うん」


「陛下のご提案に対し、その場で考えて、ご自身で答えを出していただくしかないのです」


「……そっか。分かったわ!」


 アナスタシアはあっけらかんと答える。


 じいやは目を丸くした。


 あまりにも平然としている。


 王宮。


 国王。


 政治。


 不敬。


 そんな言葉を聞かされても、アナスタシアには不安や恐怖、そして動揺もない。


「あまり心配しなくても大丈夫よ! 何とかするわ!」


 アナスタシアは屈託のない笑顔を見せた。


――ふふ、肝が据わりすぎている!


 私ごときが心配するお方ではなかったわ。


 じいやは思わず苦笑した。


「では……」


 じいやは深く息を吐く。


「お嬢様が無事に切り抜けられることを、じいやは祈っておりますぞ」


「ありがとう、じいや!」


 アナスタシアの表情は、変わらず明るかった。



   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 やがて、王宮へ到着する。


 巨大な門を抜け、長い廊下を進んでいく。


 そして――。


 謁見の間の一つ前にある場所で、二人の道は分かれることになった。


「では、お嬢様」


「ここから別々なのね」


「はい、私は陪臣ですので」


 じいやも騎士であり、勲爵士の資格は持っている。


 そのため、謁見の間へ入ること自体は許されていた。


 しかし、陪臣であるため、貴族たちとは別の、謁見の間の一段低い場所へ並ぶことになっていた。


 アナスタシアとは入口も異なる。


「お嬢さまなら、きっと上手く切り抜けられるはずです」


「任せて!」


「ふふっ」


 じいやは微笑む。


 そして、先に横の入り口から入っていった。


 アナスタシアは一人、謁見の間へ続く扉の前に立った。


「ルクサリス家ご当主――」


 大きな声が響き渡る。


「アナスタシア・ルクサリス侯爵、ご到着です!」


 扉が開く。


 謁見の間にいた者たちの視線が、一斉にアナスタシアへ集まった。


 美しく整えられた礼装。


 長く輝く金髪。


 透き通るような青い瞳。


 そして――。


 普段鍛え抜いている筋肉は、礼装によって巧妙に隠されていた。


 その姿だけを見れば、誰もが優雅な令嬢を想像するだろう。


「……お美しい」


「なんという凛々しい姿だ」


「まだ十四歳だというのに、堂々とした態度……立派なものだ!」


「噂通り、聖女さまの雰囲気をお持ちだ」


 貴族たちから感嘆の声が漏れ聞こえる。


 アナスタシアはそんな声や視線を全く気にせず、堂々と国王の前へと歩いていく。


 そして――。


 淑女らしく、両手でスカートを持ち上げて挨拶をする。


「陛下、お呼びにより参上いたしました。アナスタシア・ルクサリス侯爵でございます」


「よい。面を上げよ」


「はい」


 顔を上げる。


 国王と目が合った。


「久しいな、アナスタシア」


「はい。陛下におかれましては、ご健勝のこととお慶び申し上げます」


「うむ」


 国王は微笑む。


「まずは、急遽呼び出してしまったことを詫びよう」


「いえ、国王陛下からお声を掛けていただいたことは、何より光栄にございます」


 しばらくは、当たり障りのない会話が続いた。


 そして――。


「侯爵が自ら魔法を駆使し、大勢の市民を治療してくれたことについて、国王として礼を述べたい」


「ありがとうございます。しかし、国王陛下からお礼を賜るほどのことではございません」


――陛下は、神殿の破壊も、神託も、女神の降臨についてもあえて触れなかった。


 やはり、栄誉か何かで仕掛けてくるな……。


 後方で並んでいたじいやの眉がピクリと動く。


「そう、謙遜しなくてもよい」


 国王は笑顔を見せる。


「そなたが無償で神聖魔法を施してくれたことで救われた者がとても多く、市民の間ではルクサリス家の名声が上がり続けておるのだ」


「そうとなると、余も何もしない訳にはいかないのだ」


「……この功績は、王国としても決して小さなものではない!」


 国王は立ち上がり、むしろ並んでいる重臣と貴族たちを意識しながら話していた。


「そこで――」


 国王が言葉を続ける。


「そなたに、私から褒美を与えたいと思う!」


――来た!


 アナスタシアは思った。


 その言葉を聞き、謁見の間にいる貴族たちの注目が一斉に集まった。


「アナスタシア・ルクサリス侯爵」


「ははっ」


「そなたを――」


 一瞬の間。


「我が名において、特別に勲爵士として叙任したいと思うのだが、いかがだろうか?」


「……!」


 一見すると、何の裏もない、名誉ある褒美にしか見えなかった。


 しかし、そこには重大な意図が隠されていた。


 謁見の間では、小さなどよめきが走った。


「国王陛下自らの名による特別叙任だぞ」


「女性で十四歳とは……早い!」


「これは大変な栄誉だな」


 アナスタシアは考えた。


 前もってじいやが『政治』について話してくれたことが功を奏していた。


 カリスティア王国では、貴族の家に生まれた男性、あるいは貴族家の当主となった者は、成人として一人前と認められるために、騎士または魔導師として勲爵士の称号を得ることが求められていた。


――国王陛下の話は、決して悪い話ではないわ。


 むしろ、名誉的な褒美であり、ルクサリス家を特別に優遇するものでもないので、他の貴族たちからの嫉妬や問題視もされないよい褒美であった。


 アナスタシア自身も、いずれはルクサリス家の当主として、騎士か魔導師の称号は得なければならない。


 それが少し早くなっただけなのだ。


 しかも、国王からの栄誉付きで。


 しかし――アナスタシアは何かが心に引っかかっていた。


 アナスタシアから離れた場所で、じいやは隠された意図に気付いていた。


――王国の騎士団か魔導師団で、お嬢さまを囲い込むつもりだ!


 教会に『聖女』として囲い込まれる前に、国王自ら、騎士か魔導師として勲爵士に叙任する。


 しかし、騎士や魔導師になるには、実際の訓練や指導が必要になる。


 その訓練や指導を、自国の騎士団か魔導師団に入団させて行えば――お嬢さまを囲い込める!


 しかも、国王直々の叙任を断れば、王に恥をかかせ、不敬にあたってしまう!


 じいやの心の中で葛藤が起きる。


――叙任自体は、お嬢さまにとっても、ルクサリス家にとっても、そこまで悪い話ではない。


 しかし、『政治』に巻き込まれてしまい、王宮はお嬢さまの力を利用しようとし続けるだろう。


 それに何よりも、お嬢さまの自由が制限されてしまう!


――お嬢さま、どうされますかっ?


 じいやの額からは、吹き出るように汗が流れ始めた。


 アナスタシアは国王を見つめた。


 国王は穏やかに微笑みながら言った。


「どうだ? ルクサリス侯爵」


 謁見の間にいたほぼ全員の視線が、アナスタシアに集まった。


 アナスタシアが口を開いた。


皆さま、読んで下さり本当にありがとうございます!

毎日20:00頃、更新予定です!


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