第13話 筋肉聖女、国王陛下から勅書が届く!
ある少女が神託を授かり、神殿を破壊した。
その後、集まった市民たちを神聖魔法で治療し――
さらには、女神ユースティリアさままで降臨させた。
その一連の出来事は、瞬く間に王都中へ広がっていった。
人々は、口々にこう噂した。
――聖女さまが現れたのだ、と。
そしてその噂は、当然、宮廷の耳にも入ることとなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――王宮の執務の間
「――つまり、その少女は、神託を受けたあと、自らウォーハンマーを振り回して神殿を破壊したということなのか?」
「はい」
「……なぜ?」
「それが神託の内容だったからです」
「なるほど、そういうことか……」
国王は頷いた。
しかし、すぐに首を傾げた。
「いや、いや、いや、全く理解できぬ」
「……私もです、陛下」
報告役の文官も、困った顔をしている。
「……うむ、では次だ! まず、その神託は本物だったのか?」
「はい。教会側の複数の神官が確認したようです。間違いなくユースティリアさまのものだと」
「……神殿を破壊せよ、と?」
「そこは解釈が分かれたみたいですが……ただ、間違いではないと」
「……うーむ」
国王は額に手を当てて考え続けた。
「ところで、本当に神殿は破壊されたのか?」
「はい。完璧なまでに」
「どうやってだ?」
「ウォーハンマーを振り回して」
「……」
「……」
「……」
国王は深いため息をついた。
「そもそも、聖女候補というからには、か弱い少女なのだろう?」
「十四歳の少女です」
「十四歳か。ならば――」
「ただし」
文官が言葉を挟む。
「かなり鍛え上げられていたとのことです」
「……鍛え上げられた?」
「はい」
「どの程度だ?」
「詳しくは分かりませんが、筋骨隆々で片手で巨大なウォーハンマーを軽々と振り回すほどだそうです」
「……」
国王は、しばらく黙り込んだ。
「まったく想像がつかん!」
国王は両手で頭を抱えた。
「そして――」
「そして――?」
「その少女が、今度は神殿に集まっていた市民に、無償で神聖魔法による治療を行ったそうです」
「全員を?」
「はい、全員を。魔力切れが起こらず、全員を治療しきったそうです」
「……」
しばらく悩んだあと、国王は急に何かを思い出した。
「そうだ! あの司教はどうしている?」
「それが……」
文官の表情が変わる。
「司教は神殿を再建せず、むしろ、壁や段差が一切ない広場のようにし、それを神殿とすると宣言しているそうです」
「本当か!?……あの傲慢で、あの強欲な司教がか?」
国王は驚いた。
カリスティア王国の王都周辺を統括する司教として、国王も幾度となく関わってきたからだった。
「……一体、何があったのだ?」
「どうやら、少女が女神ユースティリアさまを『ご降臨』させたようなのです」
「ご、ご降臨まで……」
「……それ以来、司教はすっかり心を入れ替えたようです」
国王は、またしても頭を抱えた。
「なんという……なんという娘だ……」
そして、ぽつりと呟いた。
「神託を受けた」
「はい」
「神殿を破壊した」
「はい」
「人々を治療した」
「はい」
「女神さままで降臨させた」
「はい」
「そして、司教まで改心させた」
「……はい」
国王は椅子の背もたれに深く身体を預けた。
「……その少女は、一体何者だ?」
「あ、それは先ほど判明しました!」
「ルクサリス侯爵家当主、アナスタシア・ルクサリスさまです」
「!!!」
「……ルクサリス家のあの娘か!」
国王の顔がぱぁっと明るくなった。
王家に近い譜代の名門ルクサリス侯爵家。
残念ながら、若くして侯爵夫妻は流行り病で亡くなってしまったが、一人娘が無事だったため家督を相続した。
「今は亡き侯爵も、娘のことになると、自慢ばかりしていたな」
「はい」
「……まあそれで、聖女候補になったという訳か」
「それが……」
文官が少しだけ声を落とす。
「ご降臨の結果、どうやら聖女候補への就任は辞退されたようなのです」
「……何、辞退だと?」
国王が目を細める。
「陛下、これは格好の機会ですぞ!」
宰相が口を挟んだ。
「我が国の名門貴族の当主であり、これほどまでの力を持つ人間が、教会の影響下に置かれることは望ましくありません」
「うむ、まさしく!」
「むしろ――こちらから手を伸ばすべきです」
その言葉を聞いた国王は、にやりと笑みを浮かべる。
「実は、私めに一つ考えがございます」
「なんだ、申してみよ」
「それは――」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、その頃。
「ふんっ……!」
ルクサリス侯爵家では、そんな宮廷の思惑など知る由もない少女が、今日も己の限界へ挑んでいた。
「ふんっ!!!」
「まだまだですぞ、お嬢様!」
じいやの声が響き渡る。
「あと一回!」
「くっ……!」
アナスタシアは歯を食いしばった。
巨大なバーベルが、ゆっくりと持ち上がっていく。
「ここからですっ! お嬢さまなら出来るッ!!」
「うぉおおおおおおおおおっ!」
最後の力を振り絞る。
そして――。
「アガったぁぁぁぁぁ!」
「新記録ですぞ、お嬢様!」
じいやが両拳を突き上げる。
「……また一つ、限界の壁を超えましたな!」
「うんっ!」
アナスタシアも満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう、じいや!」
「では、この調子で次を――」
そのときだった。
「お嬢様ーーーっ!」
メイドが慌てた様子で駆けてきた。
「どうしたの?」
「はぁはぁ……宮廷から書状が届いております!」
「宮廷?」
「はい」
メイドは一通の封筒を差し出した。
その封筒の裏にある封蝋を見た瞬間、じいやの表情が変わった。
「……こ、これは!」
「どうしたの?」
じいやは封筒をじっと見つめる。
「国王陛下自らの御印ですぞ」
「えっ?」
アナスタシアは目を丸くした。
「国王陛下からの……勅書?」
「はい。間違いありません」
アナスタシアは封筒を受け取った。
――なぜ国王陛下から私に?
アナスタシアは疑問に思いながら封を切った。
そして、中に入っていた手紙を読み始める。
「…………」
「お嬢様?」
「…………え?」
アナスタシアの表情が固まった。
その様子をじいやが心配そうに見つめる。
「私……王宮へ行くことになったみたい」
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