第12話 筋肉聖女、女神を降臨させる!
「ふぅ。これでよしっと」
日も暮れてきた頃、ようやく最後の希望者の治療を終えた。
多くの神官や、途中からは司教まで加わって魔法での治療を行った。
しかし、アナスタシア以外は全員魔力切れとなり、最後まで治療を行い続けたのは彼女一人だった。
「アナスタシアさま、少しよろしいでしょうか」
司教が恭しく頭を下げた。
「はい、なんでしょうか?」
――バサッ
その場に司教はひれ伏した。
「えっ!?」
アナスタシアはあっけに取られる。
「どうか、どうか聖女さまになってください!」
「……そして、愚かな私どもを、正しい方向へお導きください!」
その言葉を聞いた神官や従者たちは、同じようにアナスタシアに対してひれ伏した。
皆の視線がアナスタシアに集まる。
「……うーん。どうしよっかなぁ」
アナスタシアは迷いをみせる。
尋常ならざる筋力を持ち、桁外れの魔力や加護を持つとはいえ、まだ14歳の少女なのだ。
「……あっ! そうだ! こういうことは、ユースティリアさまに直接聞いてみましょう!」
あっけらかんとアナスタシアは話す。
再び御神託が行われると知り、神官たちに動揺が走った。
お互いに顔を見合わせる。
すると、目を閉じたアナスタシアから、人間を圧倒する神々しい魔力が溢れ始めた。
「こ、これは!」
司教が驚きの声を上げた。
アナスタシアは光に包まれ、身体が空中に浮き始めた。
「ご、御神託などではない。身体を依り代にした『ご降臨』だ……」
眩しさと、恐れ多さが相俟って、誰もアナスタシアの姿を直接見る事はできなかった。
明らかに人間のものとは異なる波動があたり一面を包み込んでいく。
そして――少女のものとは思えない荘厳な声が響き渡った。
「……この子に依存してはなりません。従うだけでは、何も『学び』は得られません」
「……自らの進むべき道は、自らで決めるのです……」
その言葉を聞き、一同は涙が溢れるのが止まらなかった。
女神さまが地上にご降臨されることは、記録上にはあるものの、まさに伝説級の出来事だった。
しかし、その神々しい魔力が広がる様子は、全員が『女神さまの降臨』を確信できる、疑いようのない出来事だった。
ゆっくりと地上に降りてきたアナスタシアに意識が戻る。
「……えっ!? 何があったの?」
彼女が周囲を見渡すと、全員が感動の涙を浮かべていた。
じいやまでも。
「えっ、えっ? どういうこと?」
「お嬢さまの進むべき道は、少なくとも、今は……ここではなかったようです」
どういうことか分からず、アナスタシアは司祭の顔を見た。
「アナスタシアさま……。あなたがここで神聖魔法や奇蹟を体現されると、人々は依存するようになってしまうのです」
司教もひとことを添える。
「それは、特に未熟な私共にも言えることなのです」
「……ですから、またどうしても必要になったときにこそ、そのお力をお貸しいただけないでしょうか」
アナスタシアはじいやを見た。
すると、じいやは黙って頷いた。
「……分かりました」
「では、また、私の筋肉が必要になったときはいつでも言ってくださいね!」
「はい?」
皆に困惑が広がる。
――ああ! またもや誤解しておられる……。
司教が心の中でそう思っていると、アナスタシアはくるりと背中を向けた。
そして、両腕ではちきれんばかりの筋肉を見せる。
一同がポカーンとしていると、じいやが皆にそっと耳打ちをする。
「こういう時は、こう言うのですぞ……」
すると、皆が一斉に賞賛の声を送り始めた。
「キレてる、キレてる!」
「僧帽筋が並みじゃないッ!」
「仕上がってるゥゥッ!」
恥ずかしくて言うのをためらっていた司教だったが、思い切って声を上げた。
「……両肩に神殿を乗せてるのかいっ!」
司教が言ったことで、神官も従者も腹を抱えて笑った。
じいやが口を開く。
「それでは、皆さま! 最後にご唱和くださいッ!」
「……せーのっ!」
全員が一斉に大きな声で叫んだ。
「ナイスバルクッ!」
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