第10話 筋肉聖女、神託を授かる!
――ドーーーーン!
――フゥゥーーーーーン
――ドーーーーン!
――フゥゥーーーーーン
「これで、三角筋まで終わりました! 次はようやく背中の筋肉ですよっ!」
腕の筋肉の名前を一つずつ確認されながら、司教は三十回以上も、両膝を砕かれては治され続けていた。
司教は目に涙を浮かべながら、絞るように声を出した。
「……も゛う゛、ゆるじてぐだざい……」
「――それは、自らの過ちに気付いたということでしょうか?」
「……はい」
「『魔力が多い者は、魔力の少ない者に何をしてもよい』この考え方が間違っていたことに気付いたということですね?」
「はい……。それはすでに、二発目のときから……」
「あら、そうだったのですね。では、本当に気付かれたかどうか確認をしますね」
アナスタシアは嘘を見抜く神聖魔法を発動する。
「おおっ!」
アレセイオス司祭は驚嘆の声を上げた。
「アナスタシアさま、どこでその神聖魔法を学ばれたのですか?」
「本で読んだことがあるのです。このような神聖魔法があると」
――いくら魔力量が多い者でも、通常は勉強や修行を重ねなければ神聖魔法を使うことはできない。
しかし、この少女は……いや、このお方は間違いなく聖女になられるお方だ!
司祭が確信を得たタイミングで、アナスタシアが「……終わりました」と声をあげる。
「自らの暴力や、何をしてもよいことについての過ちは認められましたが……」
「――『魔力を持つ者は特別だ』と思われたままですね?」
「……それは、そうだろう。神がそのように我々を作られたのだ!」
「果たしてそうでしょうか? 最初の神である光の女神ルクシアさまは、自らの子供たちに、全ての能力を分け与えました」
「そして、娘である七人の女神さまたちも、地上の生命へその力を分け与えられたのです」
「あなたはなぜ、女神さまから与えられた力を、分け与えようとしないのですか?」
「!!!」
司教は自らの身体に稲妻が走ったように感じた。
それは若き頃、『この優れた魔力は、世のため人のために使おう! 聖職者の道に進もう!』と決心したときの自分の気持ちを思い出させるものだった。
「そ、それは…………」
「私は……私は今までやってきたことが、すべて上手くいってきたんだ! これは、女神さまが私を認めて、応援してくれた証ではないのかぁっ!」
それは、司教の心の奥底から沸く、魂の叫びでもあった。
「……いいえ、違います。女神さまたちは、全てを地上に生きる存在へ託し、『見守る存在』へとなられたのですよ」
「……見守っているなら、なぜ、誤ちを教えてくれないのだっ?」
「それは――支配になってしまうからですよ」
「あなたが従者にしてきたことや、今、ご自身が置かれている立場は同じではありませんか?」
「少しでも間違えたら天罰が下る……。もし、そのような世界だとしたら、私たちは健全に発展してこれたのでしょうか?」
「それは……」
「女神さまは深い愛情と覚悟を持って、私たちに全てを任せたのです」
「そして……人が過ちを犯しているときには……」
「過ちを犯しているときには?」
「『どうか気付いて欲しい』と愛情を持ちながら、見捨てずに見守り続けてくれているのですよ」
「!!!」
司教は再び身体に稲妻が走ったような衝撃を受けた。
「お前は……いえ、あなたさまは、どうしてそれを……」
「女神さまが直接教えてくれたのです」
「ま、まさか? その若さで『神託』を受けているのですか!?」
「神託……? 女神さまとの会話のことでしょうか?」
「そうです! 『神託』は長年修行を積んだ者や、祭壇や魔道具の力を借りることで、初めて出来るものなのです」
「え? そうなのですか? 私は自らの良心を通じれば、普通にできるものだと思っていましたが……」
「……そうだ! 今のこの状況について、ユースティリアさまに直接お尋ねしてみましょう!」
「えっ!……まさか、本当に?」
司教は絶句した。
司祭も息を呑み、従者たちは互いの顔を見合わせる。
アナスタシアが目を閉じる。
次の瞬間――
周囲の空気が澄み渡り、アナスタシアから聖なる魔力が溢れ出していく。
「間違いない! 御神託だっ!」
司教が叫ぶと同時に、皆が一斉にアナスタシアに向かって手を組みひれ伏した。
優しくて神々しい、暖かく白い光が周囲を癒していく。
「……ユースティリアさまの声が聞けました」
一同は姿勢を糺す。
ごくり。
「お伝えいたします。ユースティリアさまは『垣根を取り払うように』と仰せでした」
「おおーっ」
全員から感嘆の声が上がり、皆から感謝の涙がこぼれ落ちる。
「……ということなので、私は行ってまいります」
「えっ、どちらへ?」
「決まっています」
「垣根を取り払いにです!」
「……?」
「ウォーハンマーで!」
「???」
アナスタシアは愛用の超重量級ウォーハンマーを取りに、じいやたちの元へダッシュした。
一同が女神さまの愛を感じて感動していたのも束の間、その響き渡る爆音からすぐさま現実に引き戻された。
――ガキーン! ドーン! バキーン!
音に合わせて、地震が来たかのように神殿が揺れ動く。
「皆さーん、ユースティリアさまの御神託により、この神殿は破壊されることになりましたぁー!」
「――早く避難してくださいねーー!!」
そして――
――ドォォォーーーーーーーーンッ!
衝撃がこの部屋まで伝わってきた。
「あ、ああぁぁーーーっ!」
司教が叫びながら、アナスタシアの元へ全力で駆け出した。
「『垣根を取り払え』の意味は、『人の心』に対してですぅ! 『物理的』にではございませーん!」
「誤解ですぞぉーーー、誤解なんですぅぅーーッ!」
今度は司教の絶叫が、木霊のように神殿中に響き渡っていた。
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