第3話 「男気の証明」
月曜日の朝。
満員電車に揺られながら、西岡恒一は吊り革を握っていた。
窓に映る自分の顔は、むくんでいる。
腹も出てきた。
三十三歳。
高校時代はラグビー部で、誰よりも体力には自信があった。
「あの頃は痩せてたな……。」
そう呟き、スマートフォンを開く。
トワイライト斑鳩のグループLINEには、昨夜から何十件ものメッセージが届いていた。
翔太 『レクサス快適やわ(笑)』
大地 『家族乗せても余裕やな(笑)』
悠斗 『俺も今度借りるわ(笑)』
健吾 『恒一、保険入ってるやろ?(笑)』
恒一は苦笑しながら、
『いつでも言うて。』
と返信した。
すぐに既読が並ぶ。
そして翔太が一言だけ送る。
『さすが男気。』
その四文字を見て、恒一は少しだけ嬉しくなった。
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昼休み。
社員食堂で一人カレーを食べていると、同僚の佐伯美咲が向かいに座った。
「西岡さん。」
「お疲れさま。」
「昨日も飲み会だったんですか?」
「うん。」
「毎週ですよね?」
「まあ。」
「疲れません?」
恒一は笑った。
「地元やから。」
その一言で十分だった。
しかし美咲は首を傾げる。
「車も貸してるんですよね?」
「昨日も。」
「それって……。」
少し言葉を選ぶように黙る。
「利用されてませんか?」
恒一の箸が止まる。
「いや。」
笑って否定した。
「みんな昔からの仲間やし。」
「そうですか……。」
美咲はそれ以上何も言わなかった。
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仕事を終え、会社を出ようとしたときだった。
スマートフォンが鳴る。
翔太からだ。
「もしもし。」
『恒一。』
「どうした?」
『今日レクサス返されへん。』
「え?」
『急やけど、明日も使うわ。』
「明日?」
『会社の人乗せるねん。』
「でも……。」
『男気あるやろ?』
その一言で、恒一は口を閉じた。
「……わかった。」
『助かる!』
電話は切れた。
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帰り道。
駅からアパートまで歩く。
夏の夕暮れ。
車なら五分。
歩けば三十分。
汗が背中を流れる。
ふと信号待ちで横を見ると、
自分のレクサスが走っていた。
運転しているのは翔太。
助手席には見知らぬ男性。
後部座席には子ども。
楽しそうに笑っている。
その車は、恒一の前を通り過ぎていった。
こちらには気付かなかった。
恒一は何も言えず、その場に立ち尽くす。
赤信号が青になっても、しばらく動けなかった。
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夜。
ワンルームの部屋。
冷蔵庫を開ける。
ビールが一本だけ。
飲もうか迷ったが、結局プルタブを開けた。
静かな部屋に、小さな音が響く。
スマートフォンが震えた。
グループLINE。
翔太が写真を送っている。
レクサスの前で笑う家族。
コメントは一言。
「最高の休日。」
その下に、
大地が送る。
「ええ車やな(笑)」
健吾。
「恒一ありがとう(笑)」
悠斗。
「次は俺な(笑)」
恒一は画面を見つめる。
「……喜んでもらえて良かった。」
そう呟きながらビールを飲み干した。
しかし、部屋の静けさは変わらない。
一方その頃、佐伯美咲は自宅で資格試験の参考書を閉じながら、西岡恒一のことを思い出していた。
「あの人……本当に大丈夫なのかな。」
その小さな違和感は、やがて誰にも止められない恐怖へと変わっていく。




