8
〜〜〜
その夜は、幸せだった。
シャワーに、パンとシチュー。
それに温かなベッド。
みんな、少し機械的だった。
笑うタイミングまで揃っていた気がする。
けどそんなこと気にならない。
機械的なぐらい全然、許せる。
だって殴られないし、暴言も吐かれない。
綺麗な空気もちゃんと吸わせてくれるし、飯も食わせてくれる。
おまけにベッド付きときたもんだ。
ここ、天国?
窓から差し込む月の光。
それに照らされながら、俺は今までを思い出そうとする。
って。
んなことするより、寝るか。
「ノアくん」
「明日からの初任務。期待してるよ」
そうやって期待されちまったからな。
よし、寝よう。
はやく……マリアさんに認められて。
ご褒美。ごほう、び。
こうして俺は、脳内に焼きついたマリアさん美貌に誘われるようにしてーー深い眠りに落ちていったのであった。
〜〜〜
そして、翌朝。
「おはよう、ノアくん」
「ゆっくり眠れた?」
「はい!!」
朝からお美しい。
「うん。よかった」
視線の先。
そこに佇み、微笑んでくれる。
後ろから差し込む日の光。
それに照らされる姿は、色んな意味で眩しすぎる。
もっと見ていたい。
一日中。この部屋に居てもいいぐらいに。
だが、そういうわけにはいかない。
俺からスズメへと視線を向ける、マリア。
当然のように、スズメは赤面し直立不動。
まるで初恋相手に見つめられた乙女のような反応。
こいつ。
マリアさんの前だけ可愛げを振り撒いてやがる。
なら、俺も可愛さを振り撒いてやろうかな。
「お、おはようございます。マリアさまぁ」
ってな、感じか?
…ダメだ。
色んな意味で。
「おはよう。スズメ」
「今朝はどう?」
「体温は平常。睡眠もしっかりとれました」
「うん。【異常】なし」
異常なし。
この言葉に、俺は思う。
部下の体調把握もしっかりしてるんだな。
ほんと、こんな素晴らしい女性に買われてよかったぜ。
「じゃっ。実験の話をするね」
「ノアくんにとっては、はじめて。スズメにとってははじめてじゃないけど」
「畏まらなくてもいいよ。そんなに難しい【実験】じゃないから」
あれ?
瞬き、してなくないか?
それに目にも光が見えない。
そっか。
そりゃ仕事の話をするときは真剣にもなるか。
オンオフも完璧。か、かっこいい。
「ある村にね。ここから逃げてしまった【ヒト】がいるの」
「"それ"を連れて帰ってきてほしいな」
「場所はここに描いてる」
響く声。
それはひどく淡々とし、ひどく機械的。
「みんなとても心配してるの」
「だから。お願いしたいんだ」
「あいにく。他に手が空いてる人がいなくて」
逃げた?
こんな天国のような場所から?
なぜだ?
俺には考えられないだが。
「ノアくん」
「ちゃんとこのお仕事をこなしてくれたら」
微笑む。
「また。ご褒美あげるよ」
「はッ、はい!! がんばります!!」
「貴女にも。スズメにも。あげる」
「がんばります。マリアさまの為に。がんばります」
スズメもやる気のようだ。
よし。
俺の初仕事。
いっちょ気合い入れてやってやろうじゃねぇか。
こうして、俺とスズメは初仕事へと意気揚々と向かっていったのであった。




