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やだ。こんな奴と組むのやだ。
茶色の髪に、小柄な体躯。
顔立ちは、ただの少女。
マリアさんと同じ、黒のローブ。
いや、今はそんな見た目よりーー
嫌いなこと。初対面の人と組むこと?
それ、モロ俺のことじゃねぇか。
俺も言ってやろうかな。
「嫌いなこと。初対面の人と組むことです」
ってなぁ。
引き攣ったであろう、俺の顔。
それにマリアは困ったように首を傾げる。
その顔に俺は心が痛む。
なので。
「俺は別に組んでもいいと思ってますよ。でも、こいつが」
嫌われたくない。
困った顔を見たくない。
だって、好きだもん。
「組みたくない。って言われたらそれまでじゃないですか。俺は組んでもいいですよ? でもこいつが。いえ、スズメさんが嫌って言うから」
「うん。そうだね」
よし。
これで俺の非はなくなった。
これで全部あんたのせいになっちまったな。
「スズメ」
「どうしても。なら、無理にとは言わないけど」
笑っている。
俺以外にも優しい。
ますます好きになっちまう。
しかし。
スズメとかいう少女も俺と同じだった。
嫌われたくない。というその一点において。
「できます。マリアさまの為ならできます。き、嫌いなことを我慢することだって……す、スズメにはできます」
「できます。できます」
「だ、だから。スズメのことを嫌いにならないでください。マリアさま。お、お願いします」
震えた声。
まるで母に捨てられぬよう必死な子犬。
そんな風に、俺の目にはうつってしまう。
「なんでも。なんでもします。マリアさまの言うことならなんでも。す、スズメはなんでも」
震え始める小さな身体。
「嫌いにならないで。嫌いにならないで。スズメのこと。きらいに。ならないで…ください」
その姿。
それに、俺はちょっぴり同情。
俺も。
マリアさんに嫌われたくない。
このスズメとかいう少女も、同じ。
嫌われたくない。
嫌われたくない。
わかる。
だが、嫌われたくないのは俺も同じ。
だからこうやって。
必死に弁明してるんだからな。
そして、そこに。
「"これぐらい"で嫌いになんてならないよ」
「だって。スズメは」
微笑む。
「これまでたくさんの【こと】。実験の為だけにしてくれたんだもん」
響く温かな声。
それに、スズメの表情がぱっと明るくなる。
「マリアさま」
「スズメはがんばります」
「マリアさまの為にがんばります」
ぐいっ。
力強く、俺は引っ張られる。
スズメの小さな手に。
「この初対面の人とがんばります。ほら、がんばろうね。えっーと…名前はなんて言うのかな?」
なんだ、こいつ。
いきなり積極的になりやがった。
しかも、目の中に光がねぇ。
こわっ。
自分を押し殺しすぎだろ。
だが、ここは俺も合わせる。
だって愛しの人に嫌われるのいやだし。
「俺はノア」
「色々あると思うが、よろしくな」
「ノア?」
一瞬。戸惑う、スズメ。
その顔はまるで、その名を前に聞いたことがあるような表情。
「ノア。のあ。ノあ」
スズメは譫言のように名前を呟き続ける。
ん?
この名前に聞き覚えがあんのか?
疑問に思う。
そして。
「あなたでーー」
しかし。
そのスズメの声を遮る、マリア。
「じゃあ、二人とも」
「これから仲良く。頑張ってね」
そんな優しい声と、屈託のない笑顔。
それに、俺の疑問は一瞬して消え去ってしまう。
「はいッ、がんばります!!」
「いい返事だね」
褒めてもらえた。
めっちゃ嬉しい。
「わたしもがんばります!!」
絞り出された、スズメの大きな声。
「うん。頑張って」
二人に向けられるマリアの眼差し。
それはとても優しく。
そして、とても。無機質な温かみに満ちていた。




