4.
気づけば、俺は天を仰いでいた。
あぁ、空が青い。
太陽が眩しい。
相変わらずあったけぇな。
そういや、俺どうなったんだ?
奴等を殴り続けて。
ナイフで刺され続けて。
どうなったんだ?
ぐぅっ。
と、鳴る腹の音。
それにしても腹減ったな。
そりゃ、そうか。
今日の朝。それどころかあの日の飴玉以来、碌なもん食ってなかったっけ。
飯食いてぇ。
水飲みてぇ。
今の俺ならカビたパンでも泥水でもなんでもいける気がする。
誰か、飯。そして、水。
恵んでくれ。
で、できればその。マリアさんに食べさせてほしいかな?
そんな俺の切実な願い。
それが届いたのか、天使の声が降り注ぐ。
「お疲れ様」
太陽の光。
それを遮り、女神様の御尊顔が現れる。
俺を覗き込むような格好で。まるで後光に照らされているかのように。
どくんっ
弾む鼓動。
途端。
空腹なんて吹き飛ぶ。
同時に顔がほてっていくのがわかってしまう。
「マリア…さん」
「ノアくん。すごかった」
「ほ、ほんとですか?」
「うん。とっても」
にこり。
片膝をつき、俺の頬を撫でてくれる。
温かい。
好きだ。
「ノアくん」
「は、はい」
「わたしとお昼。食べよっか」
「いいい。いいんですか?」
「いいよ。ご褒美だもん。ノアくんの頑張りにわたしも応えないと」
約束を守ってくれた。
しかも笑顔が素敵。
「お、俺。はじめてなんです」
「うん」
「そ、その。誰かといっしょにご飯を食べるのが」
「やった。なら、わたしがノアくんのはじめての相手だね」
はじめての相手。
その言葉に、恍惚としない男なんて居ねぇだろ。
居たらそいつは人じゃない。
と、俺は思う。
「じゃっ、これからもたくさん」
俺の耳元。
そこに口を近づけーー
「ノアくんのはじめて。わたしが奪っちゃうかもしれないね」
囁いてくれる。
あぁ、やっぱり。
俺はこの女性が大好きだ。
〜〜〜
香ばしい匂い。
パンの焼ける音。
落ち着いた雰囲気。
そんなおしゃれな店内。
ウィンドガラスの側。
その席に、俺は座っていた。
落ち着かない。
なんだ、ここ。
ふ、普通の人って。
こ、こんなところで飯を食べるのか?
しかも対面には筆舌に尽くし難い美女が座している。
しかも微笑み。という反則的な表情でだ。
「あ、あの」
「ん?」
「あの二人はどこに?」
「ノアくんの大活躍の後始末。それをやってくれてるよ」
「俺の大活躍?」
「うん。ノアくんが殴り続けてくれた人たち。みんな大の字だったよ。顔も痣だらけ。でも、心配しないで。みんな【回収】しておいたから」
回収。
そう言った時の表情に、俺は見惚れてしまった。
冷たさに彩られた笑み。
そこに、はっきりと感じた。
俺を守ってくれそうな強さ。それをはっきりと。
運ばれてくる、不思議な食べ物と甘い匂いが漂う茶色の飲み物。
な、なんだこれ?
これ食べられるのか? 飲めるのか?
「ノアくん」
「それはサンドイッチとココア。って言うんだ。とってもおいしいよ」
「さんどいっち。ここあ」
「うん。じゃっ、ノアくん」
サンドイッチを持ち。
「あーん」
身を乗り出し、マリアさんは俺の口にサンドイッチを持ってくる。
あーん。
ぱくっ。
頬張る。
なんだ、これ。
めちゃくちゃうまい。
「おいしい?」
頷く、俺。
その顔はきっと、とても幸せそうだっただろう。
目の前の女神。
俺はきっと。
このヒトのためなら、なんでもできてしまう。
多分。おそらく。いや、きっと。
やってしまうことになるだろう。
そう思ってしまったのであった。
〜〜〜




