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眩しい。
温かい。
日の光ってこんなだったな。
今、思い出した。
太陽。
それを見つめ、俺は目を細める。
風が気持ちいい。
空気がおいしい。
こんな澄み切ったところにきたのっていつぶりだ?
「ノアくん」
「どうかした?」
止まっていた、俺。
その姿を不思議に思ったのだろう。
マリアさんが俺を見つめ、首を傾げている。
仕草がかわいい。好き。
「もしかして。気分悪くなっちゃった?」
「それなら少し休んでく?」
俺を心配してくれてる。大好き。
しかも、美人。ほんと好き。
「そ、その俺の願いごとのひとつが叶って嬉しくて。つい」
「願いごと?」
「太陽の光を浴びて、風を浴びる。そして澄んだ空気を吸う……そんな願いごとが」
「そっか」
微笑んでくれる、マリアさん。
「大したことない願いごとで、すみません」
「そんなことないよ。願いごとなんて人によって変わっちゃうものだもん。ノアくんのお願いごとはノアくんだけのお願いごと。それに」
「わたしは好きだな。そうやって素直に当たり前のことを嬉しいと思える」
「ノアくんが」
ち、近い。
マリアさんの顔。顔。顔。
「す、好き。お、俺のことが」
「うん」
「おおお、俺もマリアさんのこと」
っと、そこに。
「マリアさま」
「先にこちらの進路を塞ぐ者たちが数人」
「どうやら、先ほどの連中の仲間のようです」
「ナイフをチラつかせこちらを威嚇」
「たかり。かと思われます」
そんな声に、俺の夢のような時間は終了。
代わりに響く声。
「ノアくん」
「できるかな?」
「へ?」
「わたしのお手伝い」
数歩先。
そこからこちらを仰ぎ見る、マリア。
「手伝ってくれたら。ご褒美、あげるよ?」
「やる!!」
微笑む、マリアさん。
だがそれを。
「マリアさま」
「ここは万全を期して自分たちが」
しかし。
「これは【実験】」
「ノアくんの身体」
「それをミる為の」
短くも無機質なマリアの一言。
それに二人は身を引き、後ろに下がる。
まるで主人に従う従者のように。一切の感情のブレも感じさせることもなく。
実験。その言葉。
だが、俺にはその言葉が甘美な響き聞こえてしまう。
マリアさんが発した言葉。
その全て。それが俺にとっては天使の言葉なのだから。
「じゃっ。がんばろうね」
「あ、あの。俺、なにをすれば」
「思いっきり殴る。それだけ」
「なぐ、る?」
「うん」
「で、でも俺」
「ノアくん。君の強みはわたしが1番理解しているの。なにをされても【再生】だよね? だって。素性を隠して君の身体を買っていたのってーー【わたし】なんだもの」
瞬間。
俺の鼓動は飛び跳ねた。
興奮。俺の再生を繰り返して売っていた身体。それを買っていたのは。
「マリアさんが、俺の」
「うん」
胸が熱い。
それだけで、十分だった。
もう、俺は怖くない。
なにも、怖くない。
マリアが俺を買い続けていた。
その事実だけで、頑張れる。
一歩。
また一歩。
俺は前に進む。
「俺の強み」
「なにをされても再生できること」
「うん」
「だから、痛みも死も恐れず」
「うん」
「相手に突っ込んでぶん殴れる!!」
「よく。できました」
駆け出す、俺。
それに、マリアは送る。
ぱちぱちと。一定リズムの拍手を、微笑みを絶やすことなく。送りつづけたのであった。




