27
〜〜〜
その夜は荒れていた。
窓を叩く雨の音。
外から響く雷鳴と稲光。
しかし、その中にあって。
マリアは微動だにしていなかった。
自らの前。
冷たい机の上に置かれた一枚の紙。
それに目を落とし--
「もう」
「いらない」
そう呟く、マリア。
はしる、稲光。
轟く、雷鳴。
立ち上がり、窓の前に立つ。
そして、曇った窓ガラスにマリアはかく。
紙に書かれた名。
それを、慣れたように。
躊躇いなく。
無機質に。
【ヨミ】
と。
〜〜〜
翌朝。
「おはよう、ノアくん」
「それにスズメも」
にこり。
「おはようございます!!」
「お、おはようございます」
食い気味の俺と、緊張気味のスズメ。
いつもの部屋。
殺風景で無機質なマリアさんのお部屋。
そこに、俺とスズメは居た。
「ノアくんと、スズメ」
「昨日はごめんね」
「ちょっと無理させすぎちゃったかな?」
マリアさんは、椅子に座ったまま。
背筋が伸び、美しい。
「全然ッ、大丈夫です!!」
「だ、大丈夫です」
答える、俺とスズメ。
マリアさんのお姿。
それを見るだけで、俺は報われます。
「よかった」
「ノアくんとスズメが元気なら」
「わたしも嬉しいな」
「俺も嬉しいです!!」
「まッ、マリアさんに嬉しいと思ってもらえて!!」
笑ってくれる、マリアさん。
ま、眩しい。
眩しすぎますって、マリアさん!
勘弁してくださいって。
おい、スズメ。
お前も嬉しいだろ?
マリアさんに嬉しいって思ってもらえて。
って、どうした?
浮かない顔してんじゃねぇぞ、スズメ。
なんかあったのか?
「スズメ」
「どうかした?」
ほら、見ろ。
マリアさんも気づいちまったじゃねぇか。
ん?
おまえ、震えてんの?
ぎゅっ
掴まれる、俺の腕。
お、おい。
柄にもねぇことしてんじゃねぇぞ。
「あ、あの。マリアさま」
「なーに?」
「よ、ヨミは。そ、その。そんなつもりじゃなかったんです。だから」
ヨミ?
あぁ、あのガキのことか。
そんなつもりじゃなかった?
何言ってんだ?
んー…あぁ。
昨日の最後のアレか。
でも、あれ。
マリアさんが、「いいよ」って許してたじゃん。
「スズメ」
じっと、マリアさんはスズメを見る。
顔は笑っている。
笑っている、けど。
「貴女はあんなコト」
「しないよね?」
なんか、冷たい。
でも、綺麗。
氷の中で咲く花みてぇに。
「し、しません。しません」
「スズメはしません」
ぎゅっ
スズメ。腕、掴みすぎ。
流石にちょっといてぇ。
「なら、大丈夫」
「ヨミくんはね」
「昨日のアレの疲れがとれてないから」
「しばらくお休みしたいんだって」
「だから。気にしないで」
冷たさが消える。
ほれ、見ろ。
なんもねぇじゃねぇか。
心配しすぎなんだっての。
俺もな。
あのヨミとかいう生意気なガキには--
"「あんた」"
"「すげぇな」"
"「芯がしっかりしてる」"
もう二、三回ぐらいはげんこつ食らわせてやりてぇし。
「どうかな?」
「これで貴女の不安」
「ちょっとは柔らいでくれた?」
「は、はい」
「うん。よかった」
頷く、マリアさん。
同時に俺から離れる、スズメの手。
そして。
「じゃっ、ノアくん」
「は、はい!!」
「昨日のご褒美」
えっ?
き、きたぁ。
よよよ。予期せぬタイミング!
「ほっぺに」
ごくりっ。
「キスでどうかな?」
「それでいいです!!」
即答。
むしろそれしかねぇ!
「じゃっ、ノアくん」
「こっちに来て」
立ち上がる、マリアさん。
速攻で近づく。
そして。
「これからも」
「頑張ってね」
そう耳元で囁かれ--
ちゅっ
俺は、ほっぺにキスをされる。
最愛の女性に。
や、柔らかけぇ。
す、好き。
大好き、マリアさん。
そして。
お。俺、一生。
貴女についてきます。
と、改めて俺は心に誓ったのであった。
〜〜〜




