24
「最強?」
銀髪の少年が、ぽつりと呟いた。
「は?」
「お前、今なんつった?」
「最強だって言ったんだよ」
肩を回す。
さっきまで頭潰されてたとは思えねぇぐらい、身体は軽い。
「なんだよ。なんか文句あんのか?」
「……」
少年は黙ったまま、じっと俺を見る。
その目。
さっきまでの生意気な感じとは違う。
「お前さ」
「なに?」
「“何回壊された?”」
は?
「数えてねぇよ」
「全部なおるし」
「……」
沈黙。
その後。
「やっぱ頭おかしいわ。お前」
吐き捨てるように言う。
だがその声には、さっきとは違う色が混じっていた。
それは、紛れもなく--恐れ。
「だろ?」
にやっと笑ってやる。
「ノア」
スズメが俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「なんでもない」
言いかけて、やめる。
なんだよそれ。
はっきり言えよ。
そう思ったが、
「ノアくん」
その声で、全部どうでもよくなった。
振り向く。
マリアさん。
いつもの笑顔。
「お疲れさま」
「は、はい!!」
即答。
「どうだった?」
「余裕でした!!」
「ふふっ、そっか」
嬉しそうに笑う。
あぁ、やべぇ。
それだけで全部報われる。
「ノアくんはすごいね」
「ちゃんと壊れない」
その言い方。
少しだけ、引っかかる。
でも。
「ありがとうございます!!」
気にしない。
気にする必要もない。
「じゃあ」
マリアが軽く手を叩く。
「次。やってみよっか」
「え?」
「次?」
俺と少年、同時に反応する。
「うん」
にこり。
「今度はね」
「“どこまで壊れるか”見てみたいの。ノアくんと、ヨミくんの」
「壊し合い」
ぞくっ
空気が変わる。
「は?」
ヨミと呼ばれた少年が眉をひそめる。
「ちょっと待て」
「なんで俺も巻き込まれてんだよ」
「ヨミくん」
首を傾げるマリア。
「いや?」
その一言。
たったそれだけで、ヨミの顔が固まる。
「あ……いや」
「やり、ます」
絞り出すような声。
「ふふっ」
マリアが笑う。
「大丈夫だよ。ノアくんも、ヨミくんも」
「ちゃんとわたしが治してあげるから」
「それにね」
「ご褒美も選ばせてあげる」
その笑顔。
それに、少年は少しだけ頬を赤くした。
おいおい。
こいつもかよ。
まぁ、仕方ねぇか。
マリアさん。
めっちゃ美人だもんな。
〜〜〜
「じゃあ、場所変えよっか」
くるりと背を向けるマリア。
歩き出す。
俺たちは、その後ろをついていく。
俺とヨミは頬を赤らめて。
スズメはどこか不安げに。
しばらく歩いた先。
そこは。
「なんだここ」
小さな部屋。
何もない。
ただ、床だけ。
妙に綺麗で、妙に“何かがあった跡”みたいな。
「ここね」
マリアが振り返る。
「壊すための部屋」
さらっと言う。
「……」
スズメが小さく息を呑んだ。
「まずは簡単に」
マリアが指を差す。
「ノアくん」
「はい!!」
「その子と戦ってみて」
「はい?」
俺と。
「は?」
ヨミ。
今度は俺も素で声が出た。
「なんで、こいつと俺が」
言いかけて、気づく。
壊し合いって。
そういうことか。
「だって」
微笑む。
「ノアくん、壊れないでしょ?」
「まぁ、そうですけど」
「なら」
一歩近づく。
「壊す側。試してみないと」
ぞくっ
その目。
少しだけ。
“楽しそう”だった。
〜〜〜
「やるのかよ」
ヨミが睨んでくる。
「やれって言われたらやるだろ」
「はぁ!?」
「お前、バカかよ!!」
「うるせぇな」
肩を回す。
「どうせなおるんだろ?」
「……」
ヨミが黙る。
その目に、ほんの少しだけ恐怖。
「ま、安心しろよ」
笑ってやる。
「手加減してやるから」
「なめんな」
低い声。
懐からナイフ。
それをもって、ヨミは自らの右腕を刺す。
痛みを堪え、唇を噛み締めて。
次の瞬間。
ぐしゃっ
空気が歪む。
「あ?」
右腕が、潰れた。
見えない圧力。
さっきのとは違う。
もっと荒い。
もっと雑。
「はっ」
再生。
すぐに元通り。
「やっぱそれかよ」
舌打ちするヨミ。
「なにその能力、キモ。死なないとか、吐き気がする」
「褒め言葉だな」
踏み込む。
走る。
痛みを恐れず、ヨミとの距離を詰める。
なるほど、な。
あのガキは自分の身体と引き換えに、対象を潰す。
俺と同じ狂った力。
だがな。
こっちのほうが狂ってんだよ。
殴る。
ごんッ
「ぐっ……!」
当たった。
まっ、当たり前か。
ちゃんと効いてる。
「いってぇ」
顔を歪める少年。
「またげんこつかよ!!」
「ガキにはお似合いだな」
よし。
普通に殴れる。
「ノア!!」
スズメの声。
「やりすぎないで」
「無理」
即答。
「やれって言われたし」
「バカ」
小さく呟く。
そのやり取り。
しかしマリアさんは微笑んだまま。
そして、数分後。
「はぁ……はぁ……」
ヨミが膝をつく。
ボロボロ。
血まみれ。
加えて、スタミナ切れ。
「くそっ」
「なんでお前」
「全然壊れねぇんだよ」
「だから言っただろ」
笑う。
「最強だって」
その瞬間。
ぱちぱちっ
音が鳴る。
軽い拍手。
ま、マリアさん。
「うん、いいね」
満足そうに頷く。
「ノアくん」
「はい!!」
「今度はね」
にこり。
「“壊される側”じゃなくて」
一瞬、間を置いて。
「“壊す側としてどこまでいけるか”見てみたいな」
「できる?」
熱を帯びた眼差し。
お、俺。
マリアさんに期待されてる。
「できる。よね?」
ぞくっ
その言葉。
それに――
俺は。
「やります!!」
迷いなく答えていた。




