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〜〜〜
食堂を出た後。
「じゃあ、どうする?」
隣を歩くスズメが、ちらりとこっちを見る。
どうする、か。
せっかくの休み。
しかもマリアさん直々にくれた休み。
無駄にするわけにはいかねぇ。
「探索だ」
「たんさく?」
「あぁ。この施設、ほとんど知らねぇからな」
「マリアさんの為にも、ちゃんと把握しておかねぇと」
少しだけ、笑うスズメ。
「相変わらずね」
「なにがだ?」
「全部、マリアさま基準」
「当たり前だろ。それは、スズメもいっしょだろ?」
即答。
それにスズメは一瞬だけ黙り――
「うん。マリアさまを信じていればなにも間違いなんてない」
「だよな」
「だよね」
「「うん」」
と、小さく二人は頷く。
そして。
「じゃっ、わたしもいっしょに行ってあげる」
「案内役も必要でしょ?」
「それもそうだな」
こうして、俺とスズメは共に探索に向かったのであった。
〜〜〜
廊下。
白い壁。
無駄に広い通路。
足音だけがやけに響く。
「なんか。静かすぎねぇか?」
「こんなもんでしょ」
「みんな仕事してるし」
まぁ、そうか。
それにしても。
扉。
扉。
扉。
同じような扉がずらっと並んでいる。
「開けてみるか?」
「やめときなよ」
即答だった。
「許可されてないところは、基本ダメ」
「怒られるよ」
「マリアさんに?」
「うん」
それを聞いた瞬間。
手を引っ込める。
「やめとく」
怒られるのは嫌だ。
嫌われるのはもっと嫌だ。
歩き続ける。
曲がり角をいくつも曲がり。
ふと。
「なんだ、ここ」
見つけた。
少しだけ、雰囲気の違う扉。
他と違って、
少し古い。
色がおかしい。
そして――
「なんか、冷たくねぇか?」
空気が。
ひやり、としている。
「ここ」
スズメが小さく呟く。
「なにかあんの?」」
「いや」
少しだけ、迷うような顔。
そして。
「やめよ、ここ」
「なんでだよ」
「なんでもいいでしょ」
いつもより強い口調。
だが、その手はほんの少しだけ震えていた。
「おい、スズメ」
「なに」
「お前さ」
「昨日の夜から、ちょっと変じゃね?」
ぴたり、と動きが止まる。
「変って?」
「なんつーか」
言葉に詰まる。
うまく言えねぇ。
でも。
「なんか、無理してる感じ?」
言った。
それに。
スズメは、一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。
“なにもない顔”になった。
そしてすぐに。
「は?」
いつもの顔に戻り、頬をあからめる。
「なにそれ」
「意味わかんないんだけど」
「気のせいでしょ」
くるり、と背を向ける。
「ほら、行くよ」
「こんなとこ、いてもつまんないし」
スタスタと歩いていく。
「なんだよ」
取り残される、俺。
まぁいい。
どうせそのうち機嫌も戻るだろ。
あいつ、単純そうだし。
そう思い、後を追おうとした――その時。
――カツン
足音。
一つ。
「あ?」
振り返る。
誰もいない。
扉。
壁。
静寂。
「気のせいか?」
首をかしげる。
だが、その時。
コツン。
今度は、はっきり聞こえた。
さっきの扉の向こう側。
「おい」
扉に近づく。
耳を当てる。
冷たい。
やけに冷たい。
そして、かすかに。
「た……すけ……」
え?
「なんだ、今の」
もう一度聞こうとする。
その瞬間。
「ノア!!」
スズメの声。
振り向く。
少し離れた場所で、スズメがこっちを見ている。
「なにしてんの!!」
「いや、今なんか」
「いいから来て!!」
強い口調。
引きずるように腕を掴まれる。
「いいから、行くの!!」
「わかったって」
歩き出す。
そのまま、扉から離れる。
離れながら、ふと。振り返る。
あの扉。
静かだ。
さっきの声も、もう聞こえない。
ただ。
なんとなく。
なんとなくだけど。
あの中。
「なんかいるな」
そう思った。
〜〜〜
「ねぇ、ノア」
「ん?」
「さっきのこと」
「忘れて」
「は?」
「いいから」
強い声。
だがその横顔は。
少しだけ、怖がっているように見えた。
まぁ、いいか。
どうせ、俺には関係ねぇ。
俺は、マリアさんに褒めてもらえればそれでいい。
それだけでいいんだからな。
その時。
気づかなかった。
あの扉の向こうで。
なにかが、こちらを“見ていた”こと。
それに、俺は全く気がつかなかったのであった。




