19
翌朝。
殺風景な飯を食うところ。
そこで。
「はい。これあげる」
ひょいっと、身を乗り出し。
俺の皿にりんごを置く、スズメ。
その手は震えてる。
慣れてねぇな、こいつ。
優しくすることに。
「おい」
「なに?」
「こりゃどういうつもりだ?」
皿の上。
そこに置かれた二つのりんご。
いつもならひとつ。だが、今はふたつ。
「なにって…その、昨日のお礼」
なんだこいつ。
結構しおらしいとこあるじゃねぇか。
だがな。
「あのな」
「な、なに?」
「お礼ってんなら、りんごよりパンをくれ。腹が膨れねぇだろ」
「やだ。パンはやだ。後からお腹空くもん」
皿を守るような格好。
「り、りんごで我慢してよ」
「ね? お願い」
お願いされちゃ仕方ねぇ。
大目に見てやる。
りんごも甘くてうまいから、よしとする。
りんごを頬張る。
噛む。うまい。
「あのさ」
「なんだ?」
「昨日の夜のことなんだけど」
「あぁ」
「やっぱり。ノアがわたしの代わりに痛がるなんてダメだと思う」
まぁ、一理ある。
「だから、その」
「これからはもっと…わたしが痛みを我慢する。だから、ノアは。い、今まで通り」
「無理」
「俺は一度決めたことは覆さない主義だから」
それが、俺。
それが俺こと俺の信念。
「はい。終わり」
「それよかパンくれ」
「パン、パン。パンくれって」
「うぅ…パンだけはあげたくない。そ、ソーセージでゆるしてよ」
「いいぜ」
「い、いいんだ」
っと、そこに。
「ここ。いいかな?」
こ、この甘美なお声。
ままま。まさか。
「ま、マリアさま!!」
「マリアさん!!」
響く、俺とスズメの声。
それに。
にこり。
と、マリアは微笑む。
その手には、湯気があがるマグカップ。
「二人とも」
「朝から元気だね」
「「はい!!」」
ハモってしまう。
「うん」
「元気なのはとってもいいこと」
前に座ってくれる。
朝日に照らされる、黒のローブを纏ったそのお姿。
まさしく、黒の女神様。
「ノアくん」
「はい!!」
「今日はお休みだったよね?」
「はい!! お優しいマリアさんからお休みをいただきました!!」
「うん。ゆっくりしてね」
にこり。
やべぇ。
相変わらずの反則的な美しさ。
「スズメは?」
「わ、わたしはその」
「昨日の夜。疲れたよね?」
「ちゃんとミてたよ」
ぴくっと震える、スズメ。
ん?
マリアさん昨日の夜のこと知ってんのか?
顔は笑っている。
だけど。
ま、瞬きしてない?
目の中にも光が無い。
でも、美しい。
なにをしても美しいとか、もしやこの人。
ほんとに女神なんじゃね?
見惚れる、俺。
そんな俺を尻目に、声が響く。
「ノアくんといっしょに」
「お休みしてもいいよ」
「スズメも疲れてると思うから」
「は、はい。ありがとうございます」
「うん。ゆっくり休んでね」
いつもの笑顔に戻る。
でも、俺は。
うーん。
どっちの笑顔も捨て難い。
マリアさんはなにをしても美しいからなぁ。
そんなことを考え、ずっとマリアさんを見つめることしかできないのであった。




