18
汗を拭う。
かれこれ1時間。
俺は痛みを再生し、続けた。
最初は威勢のよかった声。
それが今や。
「おい」
「もう終わりか?」
返事さえ返ってこない。
よし。
ようやく終わらせてやった。
安堵。
呼応し、黒いナニカが俺の身から離れさっきのようなカタチをとる。
壁にうつる長い影。
そのカタチを。
そして響く声。
「オマエ。変なやつ」
「痛みでくるしまナイ」
「つまらない。つまらない」
「ニンゲン。じゃない。ワレらと同じモノか?」
は?
れっきとした人間だが?
「俺は人間だ。てめぇらといっしょにすんな」
人間じゃなきゃ。
マリアさんも好きになれねぇし、うまいもん食ってもおいしいって思えねぇし、当たり前の普通にも感謝なんてできねぇだろ。
「チガう」
「ニンゲンならイタみにヨワいはず」
「そこのモノもイタみによわい」
「だからタノシめた」
ごちゃごちゃうっせぇな。
頭をかく。
「おい。俺たちは寝る」
「邪魔したら」
「わかってんな?」
釘をさす。
床で寝息をたてる、スズメ。
抱き上げ、ベッドに載せてやる。
案外軽いな、こいつ。
ちゃんと飯食ってんのか?
「おもしろい」
「オマエ。おもしろい」
「キにいった。キにいった」
おもしろくねぇよ、なにも。
無視し、ベッドにのぼる。
「決めた」
「これから、オマエの身体をツカう」
「その女が力をツカったら」
「代償はオマエに払ってもらう」
勝手にしろ。
俺は痛みにはつえぇからな。
それに。
遠慮なくスズメが力を使ってくれたら、それだけ仕事が捗るってもんよ。
俺だけじゃ効率わりぃからな。
効率化。効率化。
マリアさんが好きそうなやり方だ。
そうやって、効率的に色々こなしていくとする。
そしたらさ。
マリアさんに褒められーー
「ノアくん」
「抱きしめてあげる」
「キスとか」
「してみよっか?」
き、キスとかしちゃったりして。
それから、それから。
や、やべぇ。
にやけてきた。
ドキドキしてきた。
マリアさんと。
キスとかしちゃいてぇ。
そんで、そんでーー
奴等の声はもうしない。
静か。静寂。
月だけが部屋を白く照らす。
こうして。
いつものように、俺は妄想と共に眠りに落ちていったのであった。
〜〜〜
数時間後。
上のベッド。
それに、スズメはゆっくりとのぼる。
そして。
「ノア」
スズメはノアの寝顔を見つめ、名を呟く。
少しだけ。
手を伸ばしかけて、止める。
いびきをかく、ノア。
先ほどのことなど考えてもいないような、豪快な寝顔。
それにスズメは微笑んだ。
そして、ほんの少しだけ。
その瞳に光を宿し、
「ありがとね」
そう優しく声をこぼしたのであった。
〜〜〜




