16
その夜。
俺は、つけられた腕を見つめていた。
暗い室内。暗い天井。
ベットに寝転がり。手を上にかざして。
どうやったんだ、これ?
考え。
そして、思い出す。
〜〜〜
「ノアくん」
「少しだけ目を閉じて」
マリアさんの囁き。
脳がとろけそうな、そんな声。
あぁ。
ずっとあの声で囁いてもらいたかったぜ。
でも、ほんとすぐに終わっちまった。
時間にして10秒くらいか?
気づけば。
「終わったよ」
「ほら、ノアくん。目。開けていいよ」
「腕。元通りだよ」
ほんとに腕がくっついていた。
す、すげぇ。
俺が、再生れって言っても治らなかったのに。
「よかったね、ノアくん」
「これで。また、頑張れるね」
は、はい。
お、俺。がんばります。
〜〜〜
思い出した結果。
残ったのはーー
俺を直してくれた、マリアさん。
ほんと最高。ほんと、理想の上司。
まっ、こまけぇことはどうでもいっか。
マリアさんの為にがんばろ。
そんないつもの感想だけ。
ほんと、俺。
恵まれてるよな?
最高の場所だろ、ココ。
よし、寝よ。
確か、明日はーー
「ノアくんにもっと頑張ってほしいから」
「明日はゆっくりしてて」
「ゆっくりすること」
「それが今回のご褒美でどうかな?」
お休み。
休みなんて、物心がついたときからなかったっけ?
なにすりゃいいんだ?
飯だけ食ってごろごろ。
ってわけにはいかねぇしな。
うーん…
そうだ。
今更だけど、ココを散策してみるか。
考えたら、この部屋とマリアさんのお部屋。それに食いもん食うところと、シャワー室。
しか、行動範囲なかったもんな。
よし、決めた。
明日はココの散策だ。
ココをもっと知って、マリアさんの為にもっともっと頑張らねぇと。
決心。
っと、そこに。
ガチャっ
扉の開く音。
バタンっ
扉の閉じる音。
それが短い間で響く。
ん?
スズメか?
同時に。
下のベッドに誰かが入る。
呼応し。
嗚咽のような泣き声が沁みる。
「ぃ…いたい。いたい。いたい…よ」
「いたい」が、言葉じゃなくて音になっている。
スズメ?
覗き込もうとする。
しかし。
「みないでッ、見るな!!」
怒声。
なにキレてんだ、こいつ。
はいはい。みねぇよ。見なけりゃいいんだろ。
せっかく心配してやろうと思ったのにな。
そっちがその気だもんな?
なら、心配してやる義理はねぇ。
だがな。
「ぃ……っ…っ」
そんな嗚咽を漏らし続けられたらなーー
「寝れねぇだよ、くそ」
心配してるわけじゃねぇ。
ただ。
「おい。寝れねぇから静かにしてくれ」
覗き込む。
そして、見た。
「たすけて、マリアさま。たすけて、たすけて」
「す、スズメはいたい。いたい。いたい、です」
蹲り。
暗いナニカ。昼間、見た"あれ"と似ているなにか。それにまとわりつかれているスズメの姿。
それを見てしまった。
なんだこいつ。
なんでこんなに苦しんでるんだ?
下に降りてやる。
「なぁ」
「み、みるなぁ」
「静かにしてくれたら、みねぇって」
「こ、これぐらいの声。我慢して」
「できねぇな。ここはてめぇだけの寝床じゃねぇから」
「少し。少しで収まる。お、収まるから」
「やだ」
はやく静かになってほしい。
だから。
「おい、黒いナニカ。そんな奴より、俺を痛めつけろって」
「静かに痛がってやるからよ」
「あ、あんたなに言って」
「俺。痛みにはつえぇから」
笑ってやる。
スズメ。
見せてやるよ。
おまえより。
「俺のほうが痛みにつえぇっとところをな」
「それでなッ、てめぇにはもっと俺を敬ってもらおうか!! おまえ、俺。舐めすぎ」
「どどど。どこで競ってんのよ」
「うるせぇ。これが俺のやり方だ」
そんな俺に。
「あんた。ば、バカすぎ……でしょ」
スズメはそう言いつつ。
しかしその表情は、いつもより少しだけ柔らかかった。




