15
翌朝。
「おはよう。二人とも」
はぁ…相変わらず美しい。
昨日の夜からのモヤモヤ。
それが吹き飛んじまった。
「ノアくん?」
見惚れていた、俺。
それに首を傾げる、マリアさん。
「おーい。ノアくーん」
「はッ、はい!!」
「お仕事の話。してもいいかな?」
にこり。
「どどど、どうぞ!!」
「うん。じゃっ、お話するね」
微笑み。
スズメにも目配せをし、
「次はね」
「【廃棄】のお仕事」
淡々とした声。
「廃棄?」
「うん。もう、いらなくなったから」
「ノアくんはどうする?」
「もし。いらないモノがあったら」
笑う。
「うーん。捨てる」
「だよね。だから」
「捨てて欲しいの。"わたし"から」
「いつまでも。ソレはわたしに執着してくるんだ」
ま、マリアさんが困ってる。
なら返事は決まってるよなぁ。
「俺にッ、任せてください!!」
響く。
それに、マリアさんは笑ってくれた。
〜〜〜
「今回のソレは、ノアくんと少し似てるの」
「似てる?」
「うん。【死なない】って意味で」
どくんっ
少しだけ、胸がざわついた。
「ただね」
微笑む。
「ちょっとだけ、面倒かな?」
面倒?
なんだそれ。
俺、死なねぇぞ?
「対象は廃教会にいるよ」
「近づいた人はみんな――壊されちゃうの」
「わたしも壊されかけちゃった」
「でも、壊れなかったけど」
笑う。
壊される?
殺される、じゃなくて?
まっいっか。
マリアさんが笑ってくれてるし。
「だからね」
一歩、近づくマリア。
「ノアくんがどう壊れるか。ちょっと楽しみ」
「わたし。壊れたノアくんも、ちょっとだけ見てみたい」
「かな?」
ぞくっ
背筋に、なにかが走った。
でも。
「ご褒美、ありますよね?」
「もちろん」
にこり。
「期待してるね」
〜〜〜
廃教会。
崩れた壁。割れたステンドグラス。
中は、妙に静かだった。
「いるな」
空気が、重い。
「ノア」
隣でスズメが呟く。
「今回は気をつけて」
「なんだよ。俺がやられるとでも?」
「ううん」
首を振る。
「壊されるの」
壊される?
意味がわからねぇ。
「ここは牢屋。マリアさまに抗ったモノ」
「ソレが消されることを待つだけの。ところ」
「だから、出れない」
「マリアさまの"目"があるから」
ぞくっ
まただ。
こいつ、昨日から変なことばっか言いやがる。
気にするな。
気にすんな、俺。
これが終わればーーご褒美が待ってんだ。
「来るよ」
その瞬間。
――ぐしゃっ
視界が潰れた。
「は?」
遅れて理解する。
顔が、潰された。
なにかに殴られた?
いや。
違う。
“握られた”。
見えない大きなナニカに。
「あぁ」
声が聞こえた。
目の前。
いつの間にか、立っていた。
白い服。
細い体。
無機質な顔。
なのに。
「また来た」
笑っている。
だがその見えないナニカは、俺の顔を“潰し続けている”。
「壊されるだけの奴」
ぐしゃ、ぐしゃ、と音がする。
でも。
「はっ」
再生する。
瞬時に。
「お前」
笑う。
「俺、壊れねぇぞ?」
瞬間。
腕を振るう。
だが――
「遅い」
――ぐちゃっ
腕が消えた。
え?
消えた?
「壊した」
「今度はちゃんと意思を込めてあげたから」
「壊れた」
女が呟く。
俺の右腕。
肘から先が、“なかったこと”になっている。
「再生れよ」
呟く。
だが。
再生しない。
なんだか、思考が回らない。
「あ?」
なんでだ?
いつもなら。
すぐに。
すぐに――
「それ」
スズメが呟く。
後ろで。
「“壊されてる”よ」
は?
「この子の能力」
淡々と。
「意思を込めて壊したもの。それを“なかったことにする”」
ぞくっ
理解した。
つまり。
再生する前に、存在ごと消される?
「いいね」
女が笑う。
「壊せる」
「壊せる壊せる壊せる」
「あのワタシを拾った"女"とは違う」
「壊れてくれる」
来る。
次は、頭だ。
「ノア」
スズメが一歩前に出る。
「任せて」
「は?」
その瞬間。
ぽとり。
地面に、種が落ちる。
「【たべて】」
瞬間。
地面が蠢いた。
黒い“なにか”が、女に絡みつく。
「なにこれ」
初めて、女の表情が歪む。
「やだ」
「やだやだやだ」
喰われる。
音もなく。
静かに。
だが確実に。
「ノア」
振り向く、スズメ。
その目に光はない。
けど、口元は笑っている。
「逃げよっか」
しかし。
その頬は引きつっていた。
「これ、長くもたないから」
「お、おう」
走る。
教会を出る。
その背後で。
――ぼと、ぼと
なにかが落ちる音がした。
振り返らない。
振り返ったらダメなやつだ。
「スズメ」
「なに?」
「お前…それ」
言いかけて、やめた。
さっきの顔。
笑ってるのに、壊れてる顔。
「あれ」
代わりに聞く。
「倒したのか?」
スズメは少しだけ考えて、
「ううん」
と。首を振った。
「“まだ食べてる”だけ」
ぞくっ
「だから」
にこり。
「次に行くときは、もういないよ」
その言葉。
それは、妙に軽かった。
〜〜〜
「おかえり」
マリアの声。
「どうだった?」
「ちょっと、苦戦しました」
初めて言った。
この言葉。
「へぇ」
マリアが笑う。
「いいね」
その目は、まるで。
「ノアくん。ちゃんと壊れかけたんだね。腕。ないもん」
慈しむように。
ただ、俺を見ていた。
でも。
その顔に、俺は思った。
や、やべぇ。
そ、その顔。
好き。と。
本気で思ってしまったのであった。
そして。
「腕」
「つけてあげるね」
座ったまま、マリアは微笑む。
「で、できるんですか?」
「うん。だって」
頬杖をし。
「ノアくんの身体」
「たくさん買って」
「ちゃんと【保存】してるもん」
あぁ。
やっぱり。
マリアさん。大好き。
〜〜〜




