10
「どちらを選びますか?」
スズメの声。
冷たい。
迷いがない。
「わたしの力」
「それを使えば。マリアさまのご褒美を独り占めにできますが?」
「……」
俺は、前を見る。
笑ってる子供。
その頭を撫でる男。
「はぁ」
ため息。
「めんどくせぇな」
「あんただけがご褒美をもらるのは胸糞悪い」
「なら」
「でもよ」
ぽつりと呟く。
そして、一歩。
前に出る。
「マリアさん。優しいし」
「美人だし。俺を買ってくれたし」
「これが終わったら」
「ご褒美。くれるし」
「それに」
「マリアさん。無駄なこと嫌いそうだよな」
それだけで充分だ。
俺がやる理由なんて。
スズメが、わずかに眉を動かす。
「ノア。それは」
「だから」
踏み込む。
「俺が全部受けりゃいいんだろ?」
走る。
「なッ——!?」
男が反応する。
側の子どもを押しのけて。つんざく、泣き声。
”慣れたように”、男はナイフを抜く。
「来るなッ!!」
突き出される刃。
単調な攻撃。
避けられた。
だが、避けない。
ぐさっ。
腹に、刺さる。
「ぐッ」
痛い。
痛い痛い痛い。
でも。
「問題ねぇよ」
にやりと笑う。
引き抜かれる刃。
同時に。
ぐちゃっ
肉が、音を立てて“戻る”。
「は?」
男の顔が歪む。
「俺、再生るからさ」
踏み込む。
もう一度、刺される。
肩。
太腿。
脇腹。
「ッ、こいつ……!!」
でも、止まらない。
「だから」
一歩。
また一歩。
「気にすんな」
拳を振りかぶる。
「全部、俺にやれ」
どごっ!!
顔面に叩き込む。
男が吹き飛ぶ。
「ノア!!」
スズメの声。
「排除を——」
「すんな」
短く言う。
「村は壊さねぇ」
その間にも、また斬られる。
起き上がり、目を血走らせた男に。
背中。
腕。
でも。
ぐちゃ、ぐちゃ、と。
全部、戻る。
「なんなんだ? お、おまえ」
男が後ずさる。
「別に」
首を鳴らす。
「ただの」
一歩、踏み込む。
「マリアさんのもんだ」
拳を振り抜く。
どんっ!!
意識を刈り取る一撃。
男は崩れ落ちた。
静寂。
遠くで、子供が泣いている。
「終わりだ」
振り返る。
スズメが血に濡れた俺を見ている。
「あなたは非効率です。そんな力があるなら、もっと効率的にできたはずです」
「うるせぇ」
吐き捨てる。
「これでいいんだよ」
そして俺は、倒れた男を担ぎ上げた。
「行くぞ」
村は、そのままにして。
だが、スズメは吐き捨てた。
「マリアさま。スズメはマリアさまの為ならなんでもします」
そして、心の中で。
わたしは、“残さない”。
と、つぶやく。
ノアの後。
それについて歩きながら、村を仰ぎ見るスズメ。
そして。
「【たべて】」
「ノアが見逃した村を」
そう胸中で呟き、ぽとりと一粒の小さな種を地面に落とす。
土はやけにやわらかく。
すぐにそれを飲み込んだ。
それをしたスズメの瞳。
そこには、宿っている。
無機質な灯火。
それがゆらゆらと。
宿っていたのであった。




