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じゃない方のアリアと唯一の人  作者: 巻鏡ほほろ


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19/21

19 協力者

 フレデリクさんが学園を見学した理由も話してくれた。


「じゃあ、印章は学園にある可能性が高いってことですか?」

「この4年間、誰も触っていなかったらね」


 当時、フランチェスコとして過ごしていたフレデリクさんが行き来できたのは、学園と皇室の住む城くらいだった。

 第三皇子の証として必要な印章はフレデリクさんが管理するものだったけれど、城の内部にはフランチェスコを脅していた人たちも出入りができてしまっていた。そもそも、偽物の第三皇子であるフレデリクさんに印章を持たせた人がいたのだ。誰が内通者なのか判別ができなかった。

 そのため、当時のフレデリクさんは印章を城に置かず、常に自分で持ち歩いていたのだと言う。


 ただ、正体がバレた以上、印章を持ち出すわけにはいかなかった。

 学園の誰も触れないような場所に置いてあったが、皇室に返す間もなくフレデリクさんは追放刑を言い渡され国に入ることを許されなかった。


「俺が隠していた場所は手当たり次第探してみたんだ。だけど、やっぱりなかったよ」


 学園にあったものが、誰かの手に渡ってしまったのだろう。

 少なくとも、フレデリクさんが故意に隠していたわけじゃないことを知れて、私は安堵のため息を吐いた。


 ───でも、この事実をナダルさんに明かしたとして、フレデリクさんが嘘をついていないという証拠は提示できない……。


 私はこの先の展開を想像して、表情を曇らせてしまった。


「アリア、なにか心配事?」

「……正直に話しても、信頼してくれるのか不安で」

「まあ、そうだよねえ……」


 やれやれといった様子でフレデリクさんは天井を仰ぐ。

 それでも、この先フレデリクさんに危険がない方法で印章の手がかりを探すためにも、何か手は打たないと、と思った。


 そこで私は、一つ提案をする。


「フレデリクさんの正体を、ナダルさんに打ち明けましょう」


 ナダルさんを信頼して、味方にすることを選ぶ。

 フレデリクさんは複雑な表情で言葉を詰まらせている。

 賢い彼のことだから、当然選択肢の一つにはあっただろう。けれど、接触するにはあまりにも因縁がありすぎる相手だ。

 偽物として17年自分の地位に居座っていた男と、17年間自分の身分を奪われ続けていた男。


 ナダルさんが17年間どのように過ごしてきたのか、私はまだ知らない。

 穏やかで気品あふれるナダルさんの振る舞いは、生まれてから今まで皇室で育ってきたと錯覚を起こさせるが、事実は違う。


 もしかしたら、フレデリクさんと対峙した際に、彼を深く傷つけることになってしまうかもしれない。

 そのことに、私もフレデリクさんも懸念があった。


「単純な話じゃないことは、私もわかっています。けれど、黙ったまま行動するにはフレデリクさん側に制約が多すぎます。この部屋を借りるのだって一苦労だったのに、印章探しなんて協力者なしには無理です」

「そうだけど……」

「まずは、私がナダルさんと1体1で話をします。フランチェスコを見つけた、と言ってお話をして、お互いが傷つかない出会い方を探ります」

「アリアに負担が大きすぎる」

「でも、私にしかできないことです。それに、ナダルさんには既に嘘をついてしまいました。だから、その責任としてこのくらいはやらなくちゃ」


 フレデリクさんを守りたい気持ちで、印章の手がかりを遠ざけてしまったかもしれない。

 私の判断一つが大きな歪みを産んでしまったかもしれない、という不安を感じている。


 私の決断を聞いて、フレデリクさんは深く深く息を吐いた。


「わかった。お願いする。だけど、その話をする時、何かあったら俺もすぐ出れるよう近くにいたい」


 もしかしたら、虚偽の報告をしたことを責任追及されるかもしれない。そんな「もしも」を想定して、自分が再び罪を被ることをフレデリクさんは覚悟したのだろう。

 正直、その判断はすごくありがたかった。

 今までのほほんと過ごしてきた平民仕草が、どうしたって抜けない。覚悟を決めたと言っても、この程度だ。

 そうだとしても、フレデリクさんのためにできることはこれくらいしかないのだから、せめてフレデリクさんが出てこなくても良いように、ナダルさんとの話し合いを穏便に終わらせられるよう私は言葉を尽くさなければならないと自分に言い聞かせた。


「明日、放課後にナダルさんを交差路まで連れてきます。あそこなら人気も少ないですから」


 私たちの住むミラヴィル通りは、道すがら歩いていくと他の2つの通りと重なる場所がある。

 私がフレデリクさんを始めて見かけた時にいた場所が、まさにその交差する場所だ。


 交差路にはもう使われていない古井戸が設置してあり、ちょっとした待ち合わせ場所として使われている。

 けれど住宅地の中にあるせいか、夕方ごろには閑散として静かなものなのだ。


 ナダルさんをこんな平民街まで連れてくるのは気が引けるところもあるけれど、フランチェスコの手がかりがあると言えばついてきてくれる確信もあったし、事実引き合わせることになるかもしれないから、大義名分はあるだろうと自分に言い聞かせた。


「それじゃあ、明日、すぐ近くに隠れておくから」

「はい。ちゃんと連れてきます。頑張って、二人が穏便に出会えるように言葉を尽くします……!」


 これは大仕事だ。


 その夜は、緊張してなかなか寝付けなかった。




 ***




「放課後? 今日は特に用事がないけれど。またどうして?」


 授業の合間の移動中に、雑談の流れから誘うことには成功した。

 周りの目がチラチラと視界に入る。そのため私は声のボリュームをなるべく下げて、ナダルさんにだけ意味が伝わるように言葉を選んだ。


「探し人の当てが見つかりましたので、その話がしたいんです」

「──!」

「ミラヴィル通りにつながる交差路まで一緒に来てくれないでしょうか。もちろん、護衛の方もいらっしゃるのであれば側に控えていただいてかまいません」


 敵意はない、という姿勢を見せて、なるべく誠意を誇張する。

 ナダルさんの表情はいつになく真剣になっていて、一息置いた瞬間に「わかった」という返事が返ってきた。


「それじゃあ今日は一緒に帰ろうね」


 次の瞬間にこーっと気が抜けてしまうような笑顔をこちらに向けるものだから、私の方が固まってしまった。


 読めない人だ……。でも、もしかしたら、私の緊張感を悟ってほぐしてくれたのかもしれない。


 同じ雷魔法の授業を受けるため、専用の教室に入る。

 ナダルさんは先に教室にいた生徒に気さくに声をかけて、すっかりいつも通りの穏やかさを取り戻していた。


 交差路で、どんな話に発展するのか未知数だ。

 けれど、今そのことについて思い悩んでも仕方ない。

 この間赤点をとった小テストの存在を思い返して、私は授業へと頭を切り替えるのだった。

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