表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めこねこの日々のあれこれ  作者: めこねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/101

―第0️⃣9️⃣7️⃣話― 【歯の話】子の心、親知らず——カナダの息子は、今日も目を閉じて。

わたしは、実は、歯が二本、ありません。



■ 一本目は、不摂生で


一本目は、虫歯の放置でした。


歯磨きは、毎日きちんとしているつもりなのですが——夜、お酒を飲む機会が多いと、つい、帰宅後の歯磨きを、忘れてしまうことがある。その不摂生が祟ったのでしょう。なんだかグラグラするな、と舌で押していたら、ある日、ぽろりと折れてしまいました。


驚いて、すぐに行きつけの歯医者へ直行。歯茎の上で、きれいにもげてしまった歯を、先生が、根元まで慎重に抜いてくれました。



■ 二本目は、ペットボトルで


そして、二本目を失ったのが、実は、つい先日のことです。


本当に、何の気なしの行為でした。ペットボトルの蓋が固く閉まっていて、開けたくて、つい、歯を使って開けようとしたのです。


ところが——歯を当てて、少し力を入れた、その瞬間。


ガリ。


アーモンドを齧ったような音がして、わたしの犬歯が、きれいに、折れました。


その歯は、一度治療をしたことのある、脆い歯だったのかもしれません。ですが、一本目のような、不摂生の歯ではない。言うなれば、「治療して、一度は復活した」歯です。その貴重な一本を、こんな形で失うとは。



■ 親知らずは、達者


そんなわたしには、今も、親知らずが残っています。


普段の生活で、使うこともない。時にいたずらをして、抜かざるを得なくなることもある、という親知らず。ところが、わたしのそれは、不思議と、何の悪さもしてこない。


肝心な歯から先に抜けていって、使い道のない親知らずだけが、達者に残る。これは、良いことなのか、悪いことなのか……。



■ この脆さは、息子にも


なぜ、こんな話を思い出すのか。


実は、わたしのこの、あまり丈夫でない歯の性質が——どうやら、息子に、受け継がれているようなのです。


息子には、小さい頃から、しっかり歯磨きをさせてきました。行きつけの歯医者さんで、定期的に指導も受けている。おかげで、今なお、治療した歯は、一本もありません。歯並びも、幼い頃に矯正をして、ほぼ完璧な状態です。


にもかかわらず。学校の歯科検診では、決まって「要受診」の紙を持って帰ってくる。理由は、歯そのものが脆く、歯を守るエナメル質が弱いから。少しでも隙を見せれば、すぐに虫歯になってしまう。そういう歯なのです。


息子には、不憫だとは思います。ですが、ここで心を鬼にしなければ、うん十年後、あの子は、わたしと同じ苦労をすることになる。


歯ブラシをくわえたまま、ぼんやり磨いていたら、やり直し。朝、バタバタしているからと、歯磨きがおざなりになっていたら、注意。


まさしく——親の心、子知らず、なのでした。



■ 息子の、こだわり


ところが。今回、カナダへ行くにあたって、その息子が、一つ、思わぬこだわりを見せました。


ホームステイ先での、歯磨きについてです。


歯ブラシと歯磨き粉は、もちろん持たせます。ですが、息子が言うには——コップが、要るのではないか、と。


歯を磨いたあとの、うがい。わたしなど、コップも使わず、手で水をすくって済ませてしまいますが。それは、ホームステイ先に、失礼にあたるのではないか、というのです。


——買いました。


息子が、旅先でも、きちんと歯を磨く。しかも、お世話になるご家庭に、気を遣ってのこと。それに応えるのが、親というものでしょう。少なからぬ出費ではありましたが、携帯用のコップに納得する息子を見て、これは、買ってよかったと、思ったのです。



■ 子の心、親知らず


しかし、です。


旅立って、約十日が過ぎました。


この間、連絡があったのは、たった二日。わたしから「困ってないか」「ちゃんと勉強しているか」「楽しいか」とLINEを送っても、既読の一つも、つきません。地震の時に「無事だから心配するな」と入れたメッセージに、「なら良かった」と、短い返事があったきりです。


向こうで、どう過ごしているのか。それは、さっぱり分かりません。ただ、引率の先生が定期的に上げてくださる写真の中に、満面の笑みの息子を見つけては、ひとまず、安心するのです。


うちの子は、今、何を思って、過ごしているのか。


子の心、親知らず。


……そういえば。その、先生が上げてくださる写真の息子は。


いまだに、目を、瞑ったままです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ