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めこねこの日々のあれこれ  作者: めこねこ


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93/99

―第0️⃣9️⃣3️⃣話― 【夫婦喧嘩】夫婦喧嘩は、ネコも喰わない——四軒目の、妻。

些細なことから、夫婦喧嘩が勃発しております。


本当に、些細なことなんです。


……「夫婦喧嘩は犬も食わない」——他人が口を挟むことではない、放っておけばすぐ収まる、という諺。ですがわが家の場合、犬ではなく、猫。しかも、収まる気配が、まるでありません。



■ ことの、発端


出だしは、「日帰りでいいから、どこかに連れて行け」でした。


息子のカナダ行きは、以前から積み立てていた学資保険の一時金を充てているので、家計が傾くほどではありません。とはいえ、諸々の事前準備費に加え、飼い猫チャトランの思わぬ治療費。さすがに少し、影が差しました。というわけで、この夏、泊まりがけの旅行は控えよう——と、そういう話になっていたのです。


しかし、妻は、どこかへ行きたい。非日常を味わいたい。そして、美味しいものが食べたい。その一心での、「どこかに連れてけ」でした。


いえ、それは、いいのです。妻のわがままから始まるとはいえ、子どものためにもなりますから。


ただ——問題は、その続きでした。


「息子はカナダで楽しくやってるんだから。残った家族だけで、行きましょう」


これに、静かに異を唱えたのが、娘です。


「それは、どうかなあ。……ていうか、それ、自分が贅沢したいだけなんじゃないの」


冷ややかに、核心を突いておりました。



■ わが家の、性格分布


ここで少し、話が逸れますが。わが家の性格分布に、触れておきます。後の展開に、効いてきますので。


まず、堅実・計画的を信条とするのが、私。ただし、その計画性を、つい誰かに押し付けてしまう。堅さゆえの、頑固さもあります。


これに似ているのが、娘。まだ経済観念は乏しいものの、うっすらと家計を察し、自分のわがままと状況を天秤にかけて、それなりの判断を下すタイプです。


対して、刹那的・なんとかなるさ、で生きているのが、妻。もっとも、堅実にしか生きられない私の殻を破ってくれるのも、この人です。今の家を買えたのも、妻の思い切りがなければ、実現しなかったと思っています。


そして、これに似ているのが、息子。手元に金があれば、欲しいものは買う。金は巡るのだから、細かく考えなくていい、という主義。たとえば、三足千円の靴下と、一足五百円の靴下があれば——迷わず、一足五百円のほうを取る男です。


なぜ、こんな話をするのか。


つまり、今。妻にとって唯一の味方である息子が、カナダにいる。財布の紐を締めにかかる私と娘が、がっちりタッグを組んでいる。だから妻は、この牙城を、切り崩せずにいるのです。



■ レストランは、決めたくない


とはいえ、先に書いたとおり、私自身は、やぶさかではありません。


妻の希望を聞くと、こう言います。


「ホテルのレストランのビュッフェで、美味しいご飯が食べたい」


まあ、いいでしょう。息子が異国の料理に舌鼓を打っているであろう今、娘のためにも、連れて行ってやりたい。


「じゃあ、どこがいいの」と聞くと、妻は、三軒のレストランを提示してきました。なるほど、どれも良さげです。


では、最終的に、どこにするのか。そう尋ねた、私に。妻は、こう言い放ちました。


「私は、決めたくない。あなたが、決めて」


いやいや。私が決めたら、あなたや娘の行きたいところと、違ってくるかもしれない。だから、二人で話し合って決めたら——と、提案しました。


すると、「いや、責任を負いたくない」と言うのです。


というのも、妻は、なぜか高確率で、外れを引く。自分で店を決めると、料理が遅かったり、量が少なかったり、接客がいまひとつだったり。そのたびに、皆ががっかりし、矛先が自分に向く。それが、嫌なのだと。


そう。わが家の妻は——プライドも、高いのです。



■ そして、「四軒目」の女


仕方なく、私は娘に確認を取り、三軒のうちの一軒を予約しました。


ここまで、私に落ち度は、ないはずです。


問題は、この後でした。


昨日、妻が、急にキレ気味で、私に詰め寄ってきたのです。


「そろそろ、レストランの予約しておかないと、食べられないんですけど」


私は、すかさず答えます。


「ああ、あなたが一番推してたところ、もう予約しといたよ」


すると。


「え? 聞いてない。私、四軒目の、別のレストランがいいと思ってたのに」


……。


いやいや。聞いていないのは、こちらのほうです。


三軒のうちの、別の一軒が良かった——まだ、分かります。ですが、そもそも私が聞いてもいない「四軒目」が、いつの間にか本命になっている。


「自分で決めるのは嫌だって、俺に決めさせたじゃないか」

「決める時に、事前に私に相談すべきでしょう」


……もう、どうしようもありません。


かくして、予約は一旦キャンセル。すごろくは、きれいに、振り出しへと戻ったのでした。



■ 元気なのは、妻だけ


このところ、チャトランの食欲も戻り、すっかり元気になってきました。


そんな矢先の、この騒動です。私と妻が言い合いを始めると、あの子は、やれやれとばかりに、そっと席を立って、隣の部屋へ消えていきます。


夫婦喧嘩は、犬も食わない。わが家では、猫すら、食わない。


唯一、この喧嘩に関わりたくなさそうな顔をしているのが、チャトラン一匹、というわけです。


結局、いちばん元気なのは——騒動の元凶たる、妻ただ一人。


夏バテ知らずのその勢いに、こちらが先に、へばってしまいそうです。せめて精をつけようと、今夜あたり、うなぎでも食べましょうか。


……もっとも。そのうなぎ屋も、どうせ「あなたが決めて。でも責任は負わないから」と、来るのでしょうけれど。

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