―第0️⃣9️⃣1️⃣話― 【カナダ短期留学④】便りがないのは、元気な証拠——たぶん、ぐっすり寝て。
息子がカナダへ旅立って、丸一日以上が経ちました。
本来なら、飛行機を見送った日の夜あたりに、じんわりと寂しさが込み上げてくるものなのでしょう。ところが、その日はいろいろあって、夜も遅かった。カナダ到着の連絡が届いたのも、翌日の十一時過ぎ。そんなこんなで、不在の夜を本当に噛みしめたのは、結局、昨晩になってからでした。
■ 減らない、味噌汁
その寂しさを、一番はっきり感じるのが——朝の、味噌汁です。
我が家では、毎朝、私が味噌汁を作ります。
いつも使っている鍋で作ると、ちょうど家族四人分の、二日分。つまり、締めて八杯ができあがる寸法です。(冷蔵庫で保管しながら、毎回きちんと火を入れています)
ところが。たった一人、いないだけで。これが、まるで、減らない。
仕方がないので、一杯ずつをほんの少し少なめに注いで、同じ鍋を、三人の三日分——九杯へと、薄く引き延ばして回している。そんな具合です。
四人二日分が、三人三日分になる。一人抜けた鍋が、かえって長持ちする。
……なんとも、味気のない算数です。
これまでも、修学旅行だ、なんだと、息子や娘が家を空ける日は、ありました。けれど大概、三日目には帰ってきた。その朝は一緒に食卓を囲めましたから、まるまる不在なのは一日きり。だから、寂しさなど感じる暇もなかったのです。
どうやら私は、ここへ来て、軽い「息子ロス」を患いはじめたようです。
■ YouTubeは、見透かしてくる
厄介なのは、この私の心理を、YouTubeのアルゴリズムが、どうも読んでいるらしいことです。
人生の教訓だの、経験の滲んだありがたい言葉だの——そういうショート動画が、頼んでもいないのに勝手に選ばれ、自動再生で、次々と流れてくるのです。
たとえば、モチベーションの話。
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さんが、あるテレビ番組で話していたことです。曰く、モチベーションというのは、行動した結果として、後から生まれるものだ、と。「美味しい」も、食べる前ではなく、食べた後にしか生まれない。何かをやってみて、それが上手くいって、その積み重ねが、初めてやる気に変わっていく。だからこそ、最初の一歩には、変化やきっかけとなる刺激が要る——。
なるほど、と、聞いていて納得しました。
思えば、私がこうして毎日、短い文章を綴っているのも、同じことなのでしょう。読んでくださる方がいて、その数字が見えたり、時に感想や「いいね」をいただけたりする。それが嬉しくて、また書こうと思う。サラリーマンの通勤や仕事では、なかなか味わえない刺激です。この小さな結果が、次を書きたいという気持ちに、ちゃんと繋がっている。
■ 「明らかに、眺める」
もう一つ、別の動画で、こんな言葉に出会いました。
「イッテQ」でおなじみの、お笑い芸人みやぞんさんが、どこかで話していたことです。
みやぞんさんは、変に力を込めるより、力を抜いて動いたほうが、良い結果に繋がる、と言います。「ちゃんとしろ、しっかりしろ」と尻を叩くよりも、「よくやった」と褒めてやるほうが、人は結果を出す。そう話したうえで、こんな言葉を続けていました。
——「諦める」というのは、いい意味で、「明らかに眺める」ことなんだ、と。
しがみついて、力むのではなく。物事を、少し引いたところから、はっきりと眺めてみる。そうやって肩の力を抜くことが、かえって、良い結果を連れてくる。
いや、これは、刺さりました。
思い返せば、私は息子に対して、どうしても「こうしろ、ああしろ」が多かった。前回のオセロだって、そうです。頼まれてもいないのに、偉そうに講釈を垂れていた。ああして力むより、少し引いて、あの子を明らかに眺めてやること。それが、足りていなかったのかもしれません。
……そんな胸中を見透かしたような動画ばかりが、目につき、妙に記憶に残り。なんとなく、あれこれ考えてしまう一日になりました。
■ 便りは、まだ届かない
そんな親心とは裏腹に。
息子からの「カナダからの手紙」は、いまだに、届きません。
まあ、忙しいのでしょう。まさか、楽しすぎて、日本のことも家族のことも忘れ、地球の裏側で「ひゃっは〜」と羽を伸ばしている……なんてことは、ないはずです。ないと、思いたい。
便りがないのは、元気な証拠。
メールを待つのはやめて、帰ってきた時に、本人の口から土産話を聞くのを楽しみにしよう。それまでは、少しは親として、人として成長した自分で、どっしり構えていよう——。
そう、しみじみ、思っていたのですが。
……ふと、息子の、朝の寝起きの悪さを思い出しました。
どんなに起こしても、まるで起きない。下手をすれば、夕方近くまで寝ている。そんな息子です。
異国の地でも、彼は、そのままなのでは。我が家にいる時と変わらず、どっしりと、ベッドに根を張っているのでは——。
彼の成長にも、少しは期待したいところです。




