―第0️⃣0️⃣9️⃣話― 【猫と家族】誰が一番の命の恩人か?『竹林事件』の真相を巡る不毛な戦い
わが家には、定期的に勃発する「不毛な戦い」があります。
通称、「竹林事件」。
それは、わが家の姫である白黒ハチワレの「かぐや」を、
近所の竹林から保護した時の経緯を巡る、終わりのない権力争いです。
事の経緯を整理すると、こうなります。
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まず、第一の主張:私(父)。
ある朝の出勤中、竹林から漏れる微かな鳴き声に気づいたのは私です。
声の主を探すと、そこには親とはぐれた、生後間もない小さな命が一匹。
当時は台風前夜。
風が強まり、このままでは確実に命を落とすと直感した私が、
即座に妻へ連絡を入れたのです。
つまり、私が「かぐやの運命を変えた、第一発見者」
であることは揺るぎない事実です。
続いて、第二の主張:妻。
連絡を受けた妻は、すぐさまタオルを手に竹林へ。
しかし、現場に到着したとき、すでにかぐやの姿はありませんでした。
暗い竹林の中、斜面になった危険な場所まで分け入り、
泥だらけになってかぐやを抱き上げたのは妻でした。
つまり、妻こそが「身を挺して命を救い出した、真の守護神」
であるという言い分です。
そして、第三の主張:娘。
当時わずか3歳だった娘も、母の背中を追って竹林へ入りました。
幼いながらも「母の補助」を全うし、その救出劇を一番近くで見守ったのです。つまり、娘は「最年少の勇敢な功労者」ということになります。
(※ちなみに、当時幼稚園にいた息子は、残念ながらこの戦いからは「戦力外」とされています)
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この三者の誰かがかぐやを膝に載せていると、事あるごとに
「あの時は私が……」「いや、私の機転が……」と、
それぞれの熱弁が始まるのです。
実にくだらない、と言ってしまえばそれまで。
ですが、わが家の姫たる「かぐや」からの寵愛を独り占めする名誉は自分にあると、誰もが一歩も譲りません。
さて、当の「かぐや姫」はというと。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」どころか、「家族の不毛は猫も食わぬ」とばかりに、
ヘソを天に向けて夢の中。
他の猫たちも、我関せずと素知らぬ顔で毛繕いをしています。
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結局のところ、猫という生き物は、
恩に着るなんていう野暮なことはしないのかもしれません。
どれほど人間たちが「命の恩人」を自称して火花を散らしたところで、
かぐやにしてみれば、
「私が鳴いてやったから、あなたたちは私に会えたのよ」
くらいに思っているのでしょう。
今日もわが家では、猫の記憶には一ミリも残っていない
「栄光の歴史」を巡って、人間だけが熱く、不毛に戦い続けています。




